閑話 それは続けなくて良い
約五十二時間前。
***
すっかり日は落ちて、
海風が突き刺すように寒い。
防衛隊からもらった事前の情報を元にして、
サワダとニカイドウが立てた作戦は簡潔だった。
異世界人は人間に取り憑いており、
襲いかかってくる。
そして、その憑依された人間に触れられると、
触れられた方へ異世界人が移動し、
身体に憑依して乗っ取る。
なので、三人一組で互いの背をくっつけて行動し。
攻撃は遠距離。
防御より回避を重視した行動で対応する。
組分けはミズノ、セキグチ、ニカイドウ。
サワダ、シマザキ、オオゾノだ。
「防衛隊の装備していた武器を奪われていますが、
ディメンション・エックスは奪われていません。
主な火器は防衛軍の標準装備、グロックとM4。
弾丸も奪われていますが、
量は少ないので向こうも無駄撃ちはしないでしょう」
「スタングレネードは?」
「今回は遮蔽物がない海岸なので、
フレンドリーファイア対策で爆発物は持ってこなかったそうです」
サワダのリーダーは意外に板についている。
ニカイドウとの連携はスムーズだ。
「では、海岸へ」
特捜隊が海岸へ出ると、
防衛隊が包囲している丁度真ん中付近に人質と一人立っている。
他に何も見えないが、
警戒するに越したことはない。
「お望み通り、特捜隊だ。
人質を解放せよ」
サワダは銃を構えてそう言った。
「あぁ、見た顔だ。
確かに、特捜隊だな」
そう言って、その人物は指を鳴らした。
その瞬間、特捜隊は見知らぬ建物の中に転送された。
「ちっ!
ビーコンを付けろ!
無線機は?!」
「反応無し!」
サワダの指示通り、
全員が身に付けていたビーコンのスイッチをオンにした。
これで防衛隊にここの位置情報が送られる。
「点呼!」
ニカイドウの指示通り、
全員が割り振られた番号を叫ぶ。
六人全員が同じ建物に転送されたようだ。
廃墟ではない。
しっかりした建物だが、窓の外は一面森。
街灯の光は一つも見えない。
家具は無し。内装もない。
壁も床も打ちっぱなしのコンクリート。
このために用意された建物のようだ。
サワダは情報共有を兼ねて気付いたことを口にする。
「目測だが、建物の四階あたりか?
部屋の感じは商業ビルみたいだけど」
「サワダ、出口をさがすか?」
シマザキはそう言いつつ、
サワダとニカイドウを交互に見て指示を待つ。
サワダをさえぎってニカイドウが指示を出した。
「屋上へ上がりましょう。
屋上で防衛隊のヘリか飛行機を待つ方が早い。
もし、ヘリが降りられるくらい広い屋上だと、
攻防も優位を取られづらい」
狭い場所で待ち伏せされるより、
開けた屋上の方が確かに戦いやすい。
六人は警戒を怠らず、上へ向かう階段をさがす。
「……!」
ミズノはたった一人、
部屋の壁の脇に隠れる人影を見つけた。
相手はどうやら、ニカイドウを狙っているらしい。
「……」
ミズノは無言で半歩下がった。
丁度、ニカイドウとミズノの間に距離が生まれた。
異世界人はその隙を見逃さなかった。
同時に、オオゾノとセキグチがそれに気付いた。
セキグチがニカイドウを突き飛ばし、
オオゾノが大声を上げた。
「ニカイドウさん!」
セキグチは異世界人に抱きつかれた。
ミズノはそれをただ見ている。
ニカイドウがセキグチの服の裾を掴んで、
抱きついた異世界人ごと投げる。
だが、セキグチが突然別人のような動きで受け身をとり、
銃をニカイドウに向けて放った。
ニカイドウは五発被弾した。
異世界人の姿はいつの間にかなくなっている。
「キャップ!」
オオゾノはミズノを蹴り飛ばし、
サワダとシマザキの射線を空ける。
それにあわせてサワダとシマザキは銃を撃ったが、
一発もセキグチには当たらなかった。
「ミズノ!
アンタ、何やってんだ!?」
「発言の許可が下りてない」
「もう、お前は黙れ!」
オオゾノはそう叫んで、
銃のグリップでミズノをぶん殴り昏倒させる。
ニカイドウが崩れ落ちる。
サワダがニカイドウに駆け寄り、
倒れる前に抱き止めた。
傷が酷い。
「はははは!
さぁ!
出てこい、ゼータ・ディアスタシ!」
セキグチの口から、バリトンの低い声が飛び出した。
どうやら、憑依されて身体を乗っ取られたらしい。
ミズノの身体は放置して、
ニカイドウを囲むように残った三人が陣取った。
三人はセキグチに銃口を向ける。
「……はて?
特捜隊を追い詰めたぞ?
なのに、なぜ現れない。
ゼータ・ディアスタシ」
セキグチの身体で腕を組み首をかしげる異世界人。
「……目的は、ゼータ・ディアスタシか」
ニカイドウは血を吐きながらそう言った。
「そうとも。
だが、どうだ?
現れないぞ。
どうなっている?」
セキグチが指を鳴らすと、
四人の周りに銃を構えた人が現れた。
四人は一瞬で取り囲まれる。
「要求を変更だ。
『ゼータ・ディアスタシを連れてこい』。
さもなくば、
この身体を殺害して用意した無差別破壊兵器を使用する」
セキグチはそう言って、もう一度指を鳴らした。
すると、五人はまた熊本県の三ツ島海水浴場に戻された。
「戻った?
セキグチはどこに?」
四人は辺りを見回すと、上空に浮かぶセキグチがいた。
「三日だ。
三日待つ。
ゼータ・ディアスタシをここに連れてこい」
バリトンの高笑いを残して、
セキグチは姿を消した。




