第84話 愛の戦士たち
ゼータは宙に浮いているウサギのことを、
司令官殿と呼んだ。
「……ゼータ?」
「あ!
こ、この方は、
『次元の守護者』の総司令官で最強とも名高い!
一騎当千、不撓不屈のアルファ総司令官殿です!」
ゼータがめちゃくちゃ緊張している。
「な……、名前呼んでもらえた!」
喜びにうち震えるゼータを見て、苦笑してしまった。
ゼータがこの総司令官に憧れているのが見て分かる。
ふと、俺はゼータのぼやきを思い出した。
「そういえば、ゼータ。
毎月報告書あげてるのに、
返事がないって言ってなかった?」
「そうだ! そうなんだよ!
なのに、なんで司令官殿がここに?
しかも、私に?
この前出した報告書に、
ここに行くって書いたけど」
ゼータは欠かさず毎月報告書を提出している。
それにたいして、十年以上返事がないと聞いていた。
『次元の守護者』、
彼らの時間軸は俺たち人間より長寿な分長い。
毎月、は俺たちの感覚だと毎日位の頻度らしい。
まぁ、その内返事が来るよ、とゼータは言っていたが。
「報告書の返事じゃなくて、
偉い人来ちゃったけど」
「うわぁ!
本当にそうだ!
それに、緊急事態だって?!
どうしよう、ヒロセ君!」
「ゼータ、落ち着いて」
防衛軍とか、俺の家族とか、
さっきまでのアレコレがすっかり吹き飛んで混乱しているゼータをなだめる。
そして、意を決して俺がアルファ総司令官に話してみる。
「割り込んでしまい、失礼いたします。
私は……」
「ゼータの報告書は、全て頭に入っている。
貴殿がヒロセ マコト殿か。
『次元の守護者』を代表する者として、
貴殿には直接お礼が言いたいのだが。
本当に緊急事態なのだ。
少し、ゼータと話をさせてほしい」
アルファ総司令官は、
俺の目線まで降りてきて頭を下げた。
俺とゼータは顔を見合わせて、
ゼータはごめん、と俺に謝って姿を露にする。
俺は笑顔で気にするな、と言い、
一歩下がった。
振り返ると、
オオゾノさんもお婆様も、
皆驚いて空をキョロキョロ見回している。
俺とゼータが一緒にいたことに気付いた人もいるだろうが、
今は周囲を取り囲み宙に浮くぬいぐるみの群れと、
エゼキエルのたちに釘付けだ。
「特異点調査団、調査隊所属!
二七五五九一隊、二十五等兵、ゼータです!」
両腕を胸の前でクロスして、
気をつけの姿勢のように背筋を伸ばして両足を揃えるゼータ。
「うむ。
先ほどの言った通り、
私は君の報告書は全て読んだ。
たった一人でここまでやってきた君の功績は、
誠に素晴らしい。
ただ、緊急事態だ。
そのまま少し動かずにいてほしい。
君の身体を調べる」
アルファ総司令官がそう言って、
手を上にあげると、
光でできた檻のようなものにゼータが入れられた。
俺は思わず駆け出そうとしたが。
アルファ総司令官に制止される。
「大丈夫だ。
これは君たちで言うところの、
レントゲンやコンピュータ断層撮影と同じような検査器である」
コンピュータ断層撮影って、CTか?
俺はそれでも安心できずにいた。
それを察したのか、
アルファ総司令官は俺の近くまで来て話し出す。
「……素晴らしい相棒を得たようだな、ゼータ君は。
確かに、こんな検査を急いでするのには、
それ相応の理由がある」
ゼータも俺も身を固くする。
検査が終わったのか、
光の檻は消えてゼータが自由になった。
その結果を見たのか、
アルファ総司令官は頭を抱えた。
「……やはりか」
「……司令官殿。
私は一体……?」
アルファ総司令官は、
周りの皆が落ち着いたのを確認して話し始めた。
「次元の『穴』について、
ゼータ君からヒロセ君はどこまで聞いている?」
「次元を突き破る『何か』が飛んできて、
それは始め数多の世界を破壊しながら突き進んで。
でも、徐々に勢いが弱まっていって。
それでも止まらず、
世界と世界の間の幕を破って『穴』を開けた、と」
アルファ総司令官は大きくうなずく。
「その通り。
そして、その『何か』はこの世界にぶつかって、
止まって落ちた。
結論から言うと、
その『何か』がゼータ君の身体の中に入っている」
理解が及ばなさすぎると、
思考は停止するようだ。
俺もゼータも、放心状態になる。
「まず、
我々『次元の守護者』は、
無数にある世界同士が干渉し合わないように。
また、生き物が次元をまたいで世界間を行き来し、
他の世界に悪い影響がでないようにする組織だ」
それは、ゼータからも聞いた。
なので、
次元を突き破った『何か』は大災害だったと聞いている。
「『何か』のせいで次元の間にある『幕』が機能せず、
一定以上の技術と知能がある生き物がいた世界はそれを解析。
『意図的に』次元を超えて世界を行き来するようになった」
アルファ総司令官はため息のように付け足す。
「元々、高い技術と知能がある生き物がいる世界なら、
他の世界への行き来はあったが。
この事件以降、その数が爆発的に増えて、
我々は今東奔西走、多事多端。
多忙を極めている。
そのため、
原因である『何か』の調査をゼータ君一人に頼むしかない状態だった」
ゼータは俺を見てうなずく。
ゼータも俺も、まだ混乱の真ん中にいる。
「だから、
ゼータ君の異常に即座に気付ける同行者が居なかった。
報告書の確認、精査だけでは気付くのが遅れてしまった。
大事件に対して忙しさにかまけてしまった。
私の不徳の致すところだ」
「司令官殿!
私の異常とは?」
ゼータが声を震わせて聞く。
アルファ総司令官は、まっすぐゼータを見た。
「確かに、
この世界は我々『次元の守護者』と波長が合わない。
そのせいで、
我々はこの世界の物質に入った状態でしか活動できない。
このぬいぐるみの身体はそのためだ。
そしてそれは、我々『次元の守護者』全員同じなのだ。
だが、ゼータ君のように『存在すら否定されて、
活動もできず消えそうになる』ことは、ない!」
どうやら、
このぬいぐるみの群れはすべて『次元の守護者』らしい。
彼らはぬいぐるみの中に入っていれば、平気なようだ。
ゼータは俺のぬいぐるみの中に入ってもうまく動けなかった。
だから、シンクロできた俺の中に入って共に活動していた。
その状態が、異常な状態だった。
「『何か』はこの世界にぶつかって砕け散った。
その『何かの欠片』がこの世界に散らばっていた。
きっとゼータ君はこの世界に着いたと同時に、
知らぬうちに『何かの欠片』に触れて身体に入れてしまった。
この世界はその『何か』を排除したくて、
ゼータ君ごと否定した。
ゼータ君以外、
もう一人調査員がいれば即座に気付けたんだ。
ゼータ君以外はそんな状態にならないことが、
そのときに分かったはずなんだ。
本当に申し訳ない!」
アルファ総司令官はゼータに頭を下げた。
「司令官殿、頭を上げてください!
それも大事ですが、
今この世界が大変なのです!」
「うむ!
それも関係しているのだ。
今この世界を襲っているヤツらは、
我々『次元の守護者』の中でも札付きの極悪集団として登録されている。
ヤツらは、呼称『ビジョン』。
ヤツらの狙いは、ゼータ君の中の『何かの欠片』だ」




