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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
終章 愛

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第78話 愛ゆえのおせっかい

 俺の携帯の画面越しに、

兄さんと父さんが正座している。

カメラ通話だ。


「二人とも、もうよか歳なんじゃっど。

特にマサヒコ。

おはんは、隠居したち言うても、

うちん会社ん元代表取締役じゃっどが。

 趣味ば楽しむんはよかこっじゃっどん、

今の代表のユウキが忙しそうしちょったら、

手ぇ貸してやらんね」


 マサヒコこと、父さんが小さい声で。


「すまんかった……」


 俺がお婆様の家に到着した、と

兄さんに連絡していた。

その電話に、居合わせた父さんが出た。

それを聞き付けたお婆様が、

父さんを電話に引っ張り出して、

この状態になった。


「ユウキもなぁ、

もうちょい周いに頼ってよかとよ?

特にマサヒコはおはんの父親じゃっど。

 代表取締役ち言うてもな、

年末年始に自分ん家に帰れるごつ仕事すっこつは、

悪かこっじゃなかどよ?」


 ユウキこと、兄さんも小さい声で。


「わかりました、お婆様」


 二人とも、こってり絞られた。


「ユウキ、

もうすぐクリスマスじゃろ?

一緒に過ごす約束しちょっ娘はおらんとかい?

 クリスマスん時まで仕事に付き合うてくる娘ち、

今どきはおらんどが。

オンとオフはちゃんと切り替えんね」


 兄さんが苦い顔になる。

俺も苦笑いしてしまう。


「マコト。

おはんもなぁ、

クリスマス前にこの年寄りに会いに来てくるっとは、

嬉しかこっじゃっど?

まぁ、嫌なこつがあったちゅう話も聞いちょっどん。

 おはんはなぁ、おはんが思うちょるよか、

ずっとモテるとよ。

この前もな、知い合いんとこん娘さんから、

『マコトと一回でよかけん、飯でも一緒に食べたか』ち、

相談されてな」


 俺が完全に油断してるときに飛んできた弾は、

クリティカルヒットした。


「一人、二人じゃなかど?

八人たい。八人。

 おはんが『はよ身ぃ固めたか』ち、言うならな、

今から五分もあれば、

三人は呼べっどよ?」


 俺も二人に負けないくらい苦い顔で、

蚊の鳴くような声をなんとか出した。


「あー……。

ありがとう、お婆様」


 お婆様は相変わらず元気だった。

元気なのは嬉しい事だが、

被弾したダメージはなかなかのものだった。

 先々代の代表取締役だったお婆様。

お爺様は、

第二次次元大戦の時に侵略してきた異世界人から、

従業員八十四人を助けて代わりに死んでしまった。

この地域では今でも英雄として語られる傑物。

 そして、そのあとを継いで会社を立て直し、

さらに大きくしたお婆様も女傑として語られるほどの人だ。


「あ、お婆様。

少しマコトと話したいんだけど」

「あ、あぁ。

お婆様、少し電話をかわって欲しいんだけど」


 なんとか兄さんと協力して、

お婆様から電話を取り戻した。

俺はカメラ通話を音声通話に切り替えて、

スマホを耳に当てた。


「お疲れ様、兄さん」

「いや、俺が善かれと思ってお前の事を事前にお婆様に話してたんだよ。

それがこうなるとは。

……すまん」

「いやいや、

俺らが独り身なのを気にしてくれてるんだよ」


 俺はお婆様が部屋を出た事を確認して続きを話す。


「それで、

アサギキャップが兄さんと繋がってたって?」

「あぁ。

実はお前から連絡をもらう前に、

俺宛てにアサギさんから連絡があったんだよ。

お前をゆっくりさせて欲しいって」


 兄さんはため息混じりに話し出す。


「お前を熱海に行くよう仕向けて、

ホテルまで用意したのはアサギさんのその話を聞いたからだ。

もし、アサギさんから連絡がなくても、

俺は多分似たような提案をしたと思うけど。

 お陰で事前に色々用意できた。

良い部屋を取れたし。

異世界人の騒動さえなければいい旅だったろ?」


 熱海は確かに良かった。

あのホテルと街の人のお陰で、

俺はかなり癒された。

俺は思わず呟いた。


「アサギさんには、

お礼を言っても言い足りないな」

「本当にすごい人だよ。

マコトがクビになった腹いせに、

防衛軍にうちから卸してる品物を全部止めようかと思ってたんだけど。

 アサギさんが、

『そのままで行く方が良いです』って言うから。

なんとなくそのままにしてたら、

『特捜隊が廃止』だろ?

あの人はどこまで読んでたんだろうな」


 アサギさんのあだ名は『カミソリ』。

まさに切れ者だった。


「後な、マコト。

ウチムラさんって、

知り合いにいるか?」

「ん?

ウチムラって、

どんなウチムラさん?」


 最近だと、尾道のウチムラが思い付くが。

同じ名字の知り合いのはたくさんいる。


「尾道でお世話になった。

お前の弟子だ、って言うから。

確認したくてな」

「うん。

それはあのウチムラ君だな。

広告代理店を経営してる?」

「あぁ、そうだ。

なら、本当に知り合いだな」


 あのウチムラで確定だ。

だが、兄さんと繋がりはないはずなんだが。


「最近、すごく良い空撮をするパイロットを持った会社があってな。

パイロットを引き抜けないか、

と思って連絡を取ったら。

代表がお前の弟子だって言うから。

 しかも、

撮影したパイロットは元防衛軍の戦闘機乗りで。

さらには、元お前の同僚ときたもんだ」


 なるほど、

クロダとウチムラは頑張っているようだ。


「確かに弟子だよ。

パイロットのクロダたちも、

元特捜隊員たちだ。

パイロットととしての腕前は、

一流の中でも上位だ」

「むぅ。

会社ごと買収するか?」


 ウチムラの会社経営の目的は、

ミアさんを写真家にすること。


「助言すると、

ウチムラ君の目的は会社の存続と、

色んなコネクションを持つことだ。

 兄さんが撮影の仕事を依頼する。

できれば定期的に仕事を任せる。

単価が安くてもコネクションになるから、

大喜びするよ」

「なら、業務提携にしようか。

飛行機やドローンはこっちで用意して、

撮影をウチムラさんに頼もう」


 ウチムラが喜びそうな話だな。


「後もう一つ。

お前、この前の山陽小野田市の事件のな。

ムラマツさん、って連絡できる?」

「できるけど……。

まだまだ面会もできないよ?」


 ムラマツさんの容態は傷口こそないが、

内蔵も骨もズタズタでしばらく退院はできない。


「退院してからで良いんだけど、

サインが欲しい。

俺の個人的な希望で」

「兄さんもガンバマン好きだもんね」


 俺は思わず笑ってしまった。

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