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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
終章 愛

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閑話 続けていけなかった

 初めは、片思いだったと思う。

容姿はよく、筋骨隆々。

特捜隊員の中でも実力派で、

あだ名をもったエース。

それが、ヒロセ マコトだった。

 優しい力持ちと言う、

子供向けアニメのキャラのような人柄。

無欲で、たばこもギャンブルもせず。

お酒はお付き合いの時のみ。

理想的な男性が目の前にいた。


 そして、私は彼に告白され、

付き合い始めた。


 全てが絵に描いたような、

幸せな日々だった。

命がけの仕事場から一歩離れたら、

彼が待っている。

それが楽しみでしかたがなかった。

 休みが合えばデートへ出掛けて。

ショッピングや食事を楽しみ。

束縛するわけでもなく。

放任と言うことでもない、

絶妙な距離感で。

でも、必ずそばにはいてくれて。

幸せな日々だった。


 あの事に気付くまでは。


 きっかけは、

いつだったかよく覚えていない。

でも、異世界人との戦いの中、

彼の圧倒的な強よさをまじまじと見せつけられて。

そして、彼は誰も彼も認める好青年で。

困っている人は必ず助ける。


 あぁ、これは、今までの全ては『愛』じゃない。

優位に立つものの『余裕』だ。


 そう感じた瞬間があった。

彼の愛は、人が猫や犬を飼うような。

木や花を育てるような。

 存在の優劣から来る、余裕のうわずみ。

それが、彼から私がもらう全てだ。

そうだと理解してしまった。


 そこからは、

ただひたすらに劣等感。


 同じ立場にいないと、

同じ立場になれないと言われた気分だった。

カゴの中に入れられて、飼われる何かの気分。

 もちろん、彼はそう思っていない。

愛を溢れるほど注いでくれるが、

私にはそれは『愛』だと思えなくなった。


 そんなときに、

ミズノから声をかけられた。


 ズルズルとよくない関係だと知りつつ。

まるで、

彼への復讐のような気持ちでミズノとの関係は続いた。


 彼は私に酷いことをした。


 自分では、もうそうだとしか思えなくなって。

そして、ミズノの提案にのって、

彼を防衛軍から追い出した。

 気分がよかった。

解放された気分だった。


 でも、それはすぐに終わった。


 作戦の失敗と、多大な損害。

目の前で死んでいく機動隊員。

 でも、もう彼はいない。

私たちが追い出したから。


「お前のせいで、アサギさんは死んだ!」


 街中の人から恨まれ。

買い物すらろくにできず。

その上、仕事は環境が悪化。

 美容院に行けず、髪はボロボロ。

化粧品もろくに買えず、肌もボロボロ。

鏡に映った自分の顔は、

彼を追い出した日から十歳は老けた。

 その挙げ句、

ニカイドウキャップに言われたこの一言。

それで、やっと気付いた。


 やってしまった。


 自業自得もいいところだ。

だが、もう引き返せない。

だって、人の命は戻らないから。

戻せないから。


「ヒロセめ、アサギさんを見殺しにして」


 ミズノは、あの後もずっとそう言っている。

あぁ、そうしていないと立つことができないんだ。

ミズノの気持ちも、なんとなく理解できる。

私も今、そんな気分だから。

 でも、私は彼のせいにはできない。

ミズノのせいにもできない。


 遺書を遺して、ハマダは自殺した。


 ハマダは誰のせいにもできなかったんだ。

全ては自分のせいだ、として

抱えることもできなかったんだ。

ハマダの気持ちがよくわかる。


「私、私はどうすれば……」


 もう、誰にも聞けない。

誰にも言えない。

 経費削減で照明器具が消された暗い暗い基地で、

私は一人モニターを眺める。

ただただ、眺める。

そこに答えなんてないのは分かっているのに。

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