第76話 遅れて、ごめんな
●ムラマツ サイド●
俺は人生初めての長期入院で、
しかも腹に穴を開けられて。
ベッドから全く動けない上に、
今も身体が痛んで仕方がない状態で。
「だぁかぁらぁ!
アンタらのその理論は!
間違えてるんですよ!」
叫び声をあげるハヤタさんの声を、
ただ聞くしかない状態で。
手を動かすこともろくにできないので、
耳を塞ぐことすらできず。
「あの場で、あの時、命がけで戦ったのは!
間違いなく先輩だった!
それは、皆を逃がすためのものだった!
だから、防衛軍の人も調書を取りに来た!
それなのに、先輩を犯罪者扱いするのは!
どういう了見と理論か!
説明しろ、と言ってんの!」
彼女が激怒している相手は、
民放テレビ局の取材陣。
俺が動けずうまく話せない隙を付きに来たらしい。
既に決まっている見出しは、
『強盗殺人犯の子供も、やはり暴力沙汰をおこす』。
センセーショナルで、金になりそうだ。
ただ、偶然たまたま、
ハヤタがその取材陣が話し出した時に部屋に入ってきた。
どうやらテレビ局の取材陣が悪意を持ってここに来たことを知って、急いで来たらしい。
「先に見出しが決まってるから、
質問も全部そっちへの誘導尋問だし!
そもそも、先輩はまだ重傷人で!
面会は親族のみのはず!
アンタらは、どうやって入ってきた?!」
ハヤタさんのワンサイドゲームだ。
取材陣はへりくつをこねてなんとかしようとしているが、
ハヤタさんが彼らのボイスレコーダーと資料を奪ってるので逃げられない。
取材陣はあの資料を公開されたら、
多分不味いんだろう。
しかも、公開するのはハヤタさんだ。
ただの個人ではないので、
かなりのインパクトになる。
「このままなら、
貴女の事務所へ連絡しますよ?」
「してみろや!
あんな弱小事務所、
どうなろうが知ったこっちゃねぇ!」
「……ハヤタさん、
口調は気を付けよ?」
俺が冷静にツッコミをいれるが、
声が張れないのでスルーされる。
「女優の貴女がマスコミを敵に回して、
利点なんてないでしょう?」
「先輩を裏切るくらいなら、
腹切る覚悟くらいあるわ!」
「お腹切れてるの、俺だからね」
突然、病室のドアを開けて入ってきたのは、
警備員数名と白衣の偉そうな人。
そして、カメラを構えているイデさんと、
資料を手に悪い顔をしてるホシノさんだ。
「はーい、オッケー。
いいーのが撮れましたよ」
カメラは撮影中のランプがついている。
そして、恐らくあのカメラなら。
「最近の動画サイトのライブって、すごいねぇ。
コメントばしばしくるし。
同接十万越えて、まだまだ増えてるよー」
取材陣の顔がどんどん青くなる。
イデさんが笑いながら言う。
「あ、私たちはちゃーんと、
病院の許可をもらったよ?
アンタらと違ってね」
取材陣は警備員に囲まれた。
「昔のムラマツの父親の事件、
マスコミの情報が元で逮捕に至った事件だねぇ。
被告人の死刑執行後になって、
冤罪疑惑がでてきて。
とうとう検察審査会でも、
再調査を検討してる。
アンタらはそれを揉み消したいんだろ?
マスコミのミスリードで冤罪死刑、
っていうのを避けたいからだろ?」
ホシノさんは資料を読みつつ話続ける。
「昔からムラマツをテレビから遠ざけてたのは、
これを見越して、だね?
ムラマツが有名になったら、
父親の事件が大事になる。
そして、
有名になったら事件を詳しく調べるヤツが出てくる。
それを、防ぎたかったんだろ?」
そして、ホシノさんは資料に書かれた名前を読み上げた。
「全員、各民放と大手新聞の役員だ。
今日のこれは、コイツらの指示だろ?
今回の件でムラマツのことは有名になった。
マスコミとして無視できないくらいな。
だから、ムラマツがまともに反論できない身体の時に、
おとしめて、辱しめて、遠ざける。
卑怯だなぁ」
カメラの画面にホシノさんは持っていた一枚を写した。
それは手書きのサインと捺印。
そして、数名が顔を会わせて会議をしている写真。
「ムラマツは、スーツアクターとして一流だ。
日本でコイツの隣に並べるのは、
ハヤタと後二人くらいだわ。
それなのに、
テレビどころかメディアはムラマツをアンタッチャブル扱い。
俺、ずっと気になっててよぉ。
十年かかったけど、
やっと放送できるくらいの資料が集まったわ!」
ホシノさんはそう言って笑う。
イデさんも笑う。
俺は驚きもさることながら、
嬉しくて涙が溢れてきた。
「マスコミの権威?
バカ言うな。
アンタらこそ、
『ペンは剣より強し』っていうだろ?
マスコミは、ペンで人を殺せるんだぜ?
それを自覚してんのか?
アンタらはよ?」
イデさんはそう言って、
真っ青な顔の取材陣に積めよってカメラを回す。
取材陣はなんとか顔を隠そうとするが、
警備員に腕を捕まれていて上手く行かない。
「同接、五十万だ。
この英語の翻訳、
ちゃんと翻訳家さん呼んだから、
世界から見られてるぜ?」
ホシノさんはタブレット端末を取材陣に見せる。
そこには恐ろしい数のコメントが、滝のように流れている。
どれもこれも、
彼らを非難するものだ。
そこに、
白衣の男性が一歩前に出て話し出した。
「この病院の院長を勤めます。
ハシヅメです。
アナタたちは我々の許可なく、
従業員通路から侵入してここへ来ましたね?
監視カメラがその姿をバッチリ撮影していました。
我々は警察へ通報し、被害届を出すと共に、
アナタたちと先程の人物たちを民事的に訴えます」
取材陣はさらに青ざめた。
「通報したのがさっきだから、
警察もじきに到着する。
それまで独占インタビューだ。
正直に話した方が身のためかもよ?」
ホシノさんはそう言って笑う。
ハヤタは、大喜びして俺を叩くのだが。
痛いので本気でやめて欲しかった。




