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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編三部 「遅い」

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閑話 調査続行

 オオゾノは、ニカイドウのデスクに入室した。

部屋の中は壁も床も、キャビネットも机も。

何もかもボロボロで、へこんで歪んでいる。

 壁を背に床に座り込んだニカイドウは、

何かを口ずさんでいた。

マッカーサー元帥が残した名言の元になったとされる、

有名な歌だ。

 オオゾノは声をかけなければいけないが、

どう声をかけて良いか悩む。

だが、先んじてニカイドウが話し出した。


「報告してくれ」


 オオゾノは、敬礼をして報告を開始する。


「はっ。

ムラマツさんが意識を取り戻されたので、

事情聴取をいたしました。

 やはり、

『突然、何かに話しかけられた』とのことです」


 ムラマツは目を覚ましてすぐにゼータと話をして、

詳しい話を聞かれたときの言い訳を用意していた。

 ゼータはそもそも、

ヒロセのためにこう言うケースを想定して、

説明する内容を入念に用意していた。

それが、十年を過ぎてやっと役立った。


「やはり、

ゼータ・ディアスタシは

『肉体を持たない異世界人』の可能性が高いです。

 異世界人の侵略に対し、

騒動が起きた場所の近くにいる人間と協力していた。

そして、協力者によっては、

その姿や能力が変わる」


 オオゾノの手元には、

熱海でのゼータ・ディアスタシの資料もあった。

エゼキエルが空飛ぶライブステージになっているのが、

望遠の画像で残っている。


「いつも我々の前に現れるゼータ・ディアスタシは同じ姿なので、毎回同一人物が協力していたと思われます。

 そして同時に、

防衛軍が感知する前にゼータ・ディアスタシが解決していた事件が無数にある可能性もあります。

 そのケースごとに『ゼータ・ディアスタシ』の姿が違うため、

『次元の守護者』として我々が認識できていない。

『協力的異世界人』として、

未登録のケースが複数件あるのはこのためかもしれません」


 ニカイドウは振り乱した髪をかきあげ、

ひどく乱れた軍服をただす。


「ヒロセ マコトについては?」

「はっ。

やはり、ヒロセ マコトは、

ゼータ・ディアスタシの『センサー』であるものと見られます。

 ヒロセ元隊員は、

異世界人による事件のそばにいる確率が高く。

さらに、

『異世界人と対峙しても彼の独力で張り合える』。

だから、

ゼータ・ディアスタシはヒロセ マコトに何かあったら、

それを検知し。

ヒロセ マコトの近くにいる人の身体を借りて、

ゼータ・ディアスタシとして現れる」


 かなり惜しい考察だ。

だが、ゼータ自身はそれが落とし所だと考えていたので、

想定の範囲内だ。


「ヒロセ マコト自身には自覚はないものだと見られます。

 もし、ヒロセ元隊員がそれを知っていたら、

何がなんでも防衛軍にいたいはずです。

なんたって、情報源がなくなるのですから」

「……いや、

それは間違いだろう。

ヒロセさんにとって、

あくまで防衛軍は『彼の夢』であり望みだと思う。

 何故なら、

ゼータ・ディアスタシの協力者として活動する、

それだけなら彼個人の能力で十二分に活動可能だ。

そうだろ?」


 そうだ。

オオゾノは思わず口が開く。

この数ヵ月、

彼女自身がつぶさに見てきた全て。


 だから、

今特捜隊は解体されることになった。


 特捜隊がヒロセの力におんぶにだっこで活動していたのは、

既に明白。

『防衛軍』も『特捜隊』も、

ヒロセにとってはただの肩書き言える。


「もし、ヒロセ マコトの調査能力が、

ゼータ・ディアスタシの力によるものだとしても。

そうでないとしても。

我々は彼に何の寄与もできてないんだ」


 誇張も謙遜もなく、

防衛軍はヒロセ マコトにとって『ただのバッジ』だ。

ニカイドウの胸についた勲章と変わらない。

取り上げられても、

彼の能力も功績も傷一つつかない。


「オオゾノ、

君はいつも私より先に本部へ報告するが。

今回の話、今の感じで報告したなら、

訂正しておいた方がいい。

 本部がまだヒロセさんを取り戻せるかも、と

躍起になりかねないぞ?

そんな可能性は『皆無なのに』だ」

「……今日はニカイドウキャップへ先に報告しております」


 悲しげにオオゾノは目を伏せる。


「本部は既に、

何がなんでもヒロセさんを取り戻したいようで。

 えぇ、もう私自身バカじゃないか、と

口から出てしまったくらいの計画を用意していて」


 ニカイドウは頭を抱える。


「あれだろ?

ハニートラップだ」

「えぇ。

お察しの通りですよ」


 男なら、女性に言い寄られていい気になる。

それは自然なことだが、

それを悪用するとなると話が変わる。

 美人局はされた方は深く傷つき、

下手すれば人生が破滅する。

女性不信になり、

社会生活自体ができなくなる人もいる。

いわば、社会的な暗殺だ。


「バレたら、

彼と防衛軍の縁は完全に切れる。

 それを分かっていてやるつもりか?

本部はバカしかいないのか?」

「バレても良いくらいの感じでした。

もう、私も除隊届を出そうかと、

本気で考えています」


 ニカイドウとオオゾノは大きなため息をついた。


「後、ニカイドウキャップには、

この件のお詫びとして。

何やかんや理由をつけて昇格と昇給が予定されているとか」

「いらない。

そんなもの、

『アサギさんを見殺しにしたからもらうボーナス』、

のようなものだろ?」


 ニカイドウの目が怒りに燃える。

オオゾノはそれを見てまたため息をついた。


「私も、

そんなことしたら殴られますよ、って

言いました。

 ニカイドウキャップ。

もし、貴女が本部の誰かを殴るときは、

私の分もお願いしたいです」

「任せろ」


 ニカイドウは狼のような獰猛な笑顔を見せた。

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