閑話 そこまでして続けたいか
ニカイドウは、
机がひしゃげるほど強く机を殴った。
「お前ら!
どう言うつもりだ!?」
ニカイドウの前には三人が立っている。
ミズノとハマダとセキグチだ。
「『穴』以外の次元の歪みを検知したら!
すぐにその地域の警察へ連絡をする!
以前からずっとやっていた作業だぞ?!
しかも、県警に連絡したら私に報告して、
必要に応じて現地へ調査へ行く手はずだ!」
ハマダは青い顔で震える。
セキグチは顔を伏せている。
ミズノはまっすぐニカイドウを見ている。
「山口県警に連絡はしています。
しかし、微弱な反応で位置特定もできなかったので、
県警に注意する旨連絡をして……」
「『嘘は』言っていないのは、分かる!
分かるが、
それは私に報告してしかるべきだろう!?
リーダーなら、分かるはずだろう!?
私がそれを初めて聞いたのは、
『山口県に異世界人が大挙して押し寄せてきた』、
と言う緊急連絡だ!」
ミズノはまっすぐニカイドウを見ている。
「ご報告は、
今日の日報にて行うつもりでした」
「遅い!」
ニカイドウは机に二撃目を振り下ろした。
机の天板は完全に歪んでへこんだ。
「お前ら、わざとか?
わざとやったのか!?」
「いいえ。
どれも規定通りです」
確かにミズノの言うことは間違えていない。
しかし、もっと早く報告してしかるべきだ、
と言うニカイドウも間違えていない。
「……これを聞いて、お前らはどう思う?」
ニカイドウはデスクのテレビをつけた。
天板が歪んで斜めになった液晶は、
山口県の異世界人襲撃のニュースだ。
ニュースキャスターは低いトーンで話をする。
「……異世界人の襲撃は、
元防衛軍、特捜隊所属のアサギ エイイチロウ氏と。
その協力者の数名で迅速な対応がされました。
お陰で市民への被害は、ほぼありません
新たな『穴』は防衛隊によって封印。
『穴』が塞がった現在も周囲を立ち入り禁止にして、
警備を行っています。
これによる死傷者は、以下の通りです。
死者、アサギ エイイチロウ氏。
重傷者、
異世界人に対応した県警の機動隊隊員、約三十名。
防衛軍、防衛隊員、約二十五名。
『穴』の封鎖に協力した市民の方、一名」
アサギ、つまり元キャップの訃報が流れている。
さすがに三人とも目を見開いて、
テレビ画面に釘付けだ。
「お前らの職務怠慢の結果!
人が死んだ!
しかも、アサギさんだ!」
ハマダは病的なほど青い顔で、
ガタガタ振るえ、立つのもやっとと言う感じになる。
「ここからは、
公開されていない情報だ。
『穴』が開いたショッピングモールに偶然いたヒロセさんとアサギさんが、
とっさの機転で客を迅速かつパニックもなく全員退避させた。
その後、
アサギさんとヒロセさんは『穴』が二ヶ所だったため、
二手に別れた」
ヒロセ、の一言でさらに三人の顔が変わる。
ハマダは、もう土気色の顔で、
顔からでる汁を全て垂れ流して悲惨な顔になった。
セキグチは忌々しげに顔を歪ませる。
ミズノは。
「ヒロセめ!
アサギさんを見殺しにしたのか!」
何かがキレる音がした。
「違うわ! 大バカヤロウが!
敵は大隊規模の人数で押し寄せてきたんだぞ!
二手に! 別れて!
それを全てショッピングモール内に押さえ込んだ!
『たった二人』で!
千以上の敵に立ち向かって!
それで、犠牲者はたった一人!
お前らのやった、
未必の故意じみた行為と!
同じ次元で見て良いことじゃねぇぞ!」
ニカイドウの口調が、とうとう崩れた。
その圧はさすがの一言だ。
ハマダは床に崩れ落ち。
セキグチも青い顔で床に座り込む。
ミズノもさすがに冷や汗を流し出した。
「ふざけんじゃねぇぞ!
お前らのせいだ!
お前らのせいで、アサギさんは死んだ!
何でもかんでもヒロセさんのせいにすんじゃねぇ!
ボケナスがぁ!」
ニカイドウの三撃目を机は受けきれなかった。
机は壊れて、
上に乗っていた書類やテレビを派手に床に撒き散らす。
「お前らのやったことのせいで、
人間が一人死んだんだぞ!?
分かってんのか!?
あぁあ?!
はっり言うぞ、
お前らは『人殺し』だ!」
さすが、軍人。
新キャップになるだけの実力と腕力がある。
セキグチは顔を背け、
ハマダはもう茫然自失。
ミズノすら、うつむいて何も言わない。
「お前らはどうせ、
『特捜隊の人員削減が原因で被害が出た』として、
特捜隊の必要性を主張するつもりだったんだろ?
残念だったな!
主張されたのは、
『アサギ、ヒロセの特捜隊』の実力と功績だけだ!
今回の件をうけて、
本部は特捜隊を急いで縮小して、
三年以内に廃止だと決定された!」
ミズノは目を見開き、
青い顔になる。
ニカイドウは獣のような獰猛な顔で叫ぶ。
「お前らがやったことは法的にも、
規則的にも問題ねぇよ!
お前らはお咎めなしだ!
でもな!
アタシは! お前らのことを!
絶対許さねぇ!
アタシに立場も何もなけりゃ、
この場で! すぐにでも!
お前ら前歯が全部へし折れてなくなるまで、
殴りてぇ気分だよ!」
三人は、もう何も言わなくなった。




