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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編三部 「遅い」

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第75話 遅暮之嘆(ちぼのなげき)

●ヒロセ サイド●


 ムラマツさんは一命を取り留めた。

ゼータ・ディアスタシが脱げ出し、

ガンバマンからもとの人間に戻った時は焦ったが、

救急車が間に合った。


「本当に……。

本当に……、お世話になりました」


 アサギさん、

ことキャップは亡くなった。

俺は遺影の前で手を合わせる。

 葬式は小さく、と言うアサギさんの遺言に従い、

ご家族と一部の人だけでお見送りをする。

俺も招待いただけて、

ゼータと一緒にお焼香をあげる。


「……ヒロセさん

父は、勇敢でしたか?」


 お焼香から席に戻るときに飛び留められた。

アサギさんの息子さんが、

泣き叫ぶ小さいお孫さんを抱きながら聞いてきた。


「キャップは、

俺のヒーローです。

特捜隊員になる前の俺の命を、

二回も助けてくれた。

 特捜隊員になってからも、

お世話になりっぱなしでした。

 あの人は最後の最後まで、

みんなを守るため戦い続けた。

この人以上に勇敢な人は見たことありません」


 アサギさんの息子さんは、

とうとう耐えきれず涙を流した。


「うぁ……。

っず……、ヒロセさん……。

これを……」


 アサギさんの息子さんが俺に手渡したのは、

ガンバマンのメンコだった。

その表面には、誰かのサインが書いてある。


「ガンバマンが。

父は……、父さんは……、

ガンバマンが大好きで……。

私とテレビの前にならんで座って、

……良く見てました」


 俺は震える手でメンコを顔の高さに持ち上げた。


「『ガンバる人を笑う悪人になるな』、が

父の口癖でした。

 そんな父が、ヒロセさんのごどを!

『とてもガンバる、すごい人』だと!

いつもいつも!

そう、俺に言ってました!

 だがら! これは!

貴方が持つべきだし、

私も貴方に持っていて欲しい!」


 アサギさんの息子さんは、

そう言って泣き崩れた。

俺も耐えきれず涙を流す。


「……キャップは、

最後の最後まで、

ガンバマンと一緒に戦いました!

ガンバマンを助けて!

……キャップ……」


 俺は言葉が続かず、

嗚咽しか出なくなる。

お孫さんは、

いつの間にか泣き止んでいて泣き崩れた彼の頭を優しく撫でる。

 良い子だ。

人の悲しみに寄り添える。

アサギさんみたいな、良い子だ。


「おじいちゃん、ガンバった?」


 彼は俺にそうたずねた。

俺は何度も頷いて。


「あぁ!

ガンバった!

ガンバマンみたいだった!」


 三人で、読経がまだ続くなさ中に泣いた。

周りにいたご家族も声を出して泣き出した。

振り返ると、お坊さんも泣いていた。


「えいちゃん……。

退役したらゴルフ行こうって、

……約束しただろ?」


 お坊さんはそう呟いて、

泣きながら数珠を握りしめた。

どうやら、

お坊さんもアサギさんのお友達だったようだ。

 全員で泣いて、泣いて。

少し落ち着いて。

お坊さんの挨拶の時には、

お坊さんも含めて皆目を真っ赤に腫らして。

 なんだか、

キャップがそれを見て笑った気がして。

俺も皆も苦笑いしていた。

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