第74話 遅かった過去と間に合った今
●ムラマツ サイド●
『テナサス』の構えは、
ロブスターのように上半身を低く構える。
両ひざを軽く曲げて、
右手にテナサスを握り。
全身の筋肉をバネにして相手に飛びかかり、
テナサスに力を込める。
テナサスは力を受けとると巨大なプラズマのハサミになって、
相手を掴み捕らえて、砕き引きちぎる。
『プラスマッシュ』も強力だが、
このハサミは特別だ。
大きさは相手によって変えられるが、
最大で刃先から根本までニキロメートル。
開くと刃と刃の間が一キロメートル。
このハサミが相手を挟むと、
実体の無いプラズマエネルギーの刃が高熱で相手の装甲を焼き切る。
その上、ハサミを閉める速さは音速だ。
しかも、刃の間は重力で加圧され、
刃と刃の間に加わる力は五千G。
回避も防御もさせない『必殺技』。
「行くぞ」
「ほう!
何か仕掛けるか!
無論、受けようぞ!」
片腕の異世界人は、
大笑いしつつ槍を構え直した。
俺はガンバマンのこの技を、
ヒーローショーでやりたかった。
今、俺は本当にガンバマンになってやれる。
「代打だけど、
こんなに嬉しいことはないな」
思わずそう呟いた。
本心だ。
ヒーローになりたかった。
大変だし怖いけど、目の前の人を助けたい。
その願いを、力に変えて。
「『テナサス』!」
自分の身体を砲弾のように打ち出して、
敵との距離を一足飛びで詰めた。
右手のテナサスに力を込めて。
「ぬん!」
片腕の異世界人は、
俺の動きに合わせてこちらに詰め寄る。
不味い!
予想外の動きで、
しかも距離を離すのではなく詰められた。
俺の攻撃の発動を阻止するつもりか。
「コード認証!
エックスブラスター!」
防衛隊の人がそう叫んだのが聞こえた。
すると、ハヤタの銃口が光る。
「エックスブラスター!」
ハヤタはそう叫んで引き金を引いた。
敵が俺に攻撃する瞬間の出来事だ。
敵はさすがにそれを見て、
俺への攻撃を中止するかと思ったが。
「止まるものか!」
そう叫んでさらに距離を詰める片腕の異世界人。
ブラスターを受けても怯まない。
止まらない。
テナサスはプラズマのハサミを構築した後だが、
刃が閉じるのと俺に槍が刺さるのがほぼ同時だった。
「ごぶっ!」
「ぐおぉ!」
プラズマのハサミに挟まった異世界人と、
その片腕の握る槍が腹を貫いている俺。
口いっぱいに血液の味がする。
「まだだぁ!」
異世界人は、そう叫んで腕に力を込めた。
俺もハサミを強く閉じる。
五千Gの圧の、高温のプラズマの刃に挟まれて焼けつつ。
それでも諦めず槍をさらに俺に突き立てんとする異世界人。
「先輩!」
ハヤタは普通の弾丸で異世界人を撃つが、
びくともしない。
俺とコイツは相討ちのままにらみ合う。
「はははは!
素晴らしい!
素晴らしいぞ!」
焼けていて、潰されつつも異世界人は笑う。
まさに狂喜だ。
俺の腹の穴はコイツのせいでどんどん広がる。
「俺を忘れるな!」
死角からヒロセさんが飛び出した。
手には敵が持っていた剣が握られている。
そして、彼はそれを鮮やかな動きで振る。
「三人か!
ははははは!
ははっ!」
片腕の異世界人は笑う。
ヒロセさんによって切り落とされた首だけで。
その身体は『テナサス』に焼き潰され。
床に転がった丸焼きの頭だけが残った。
床に落ちても二分近く笑っていた。
「大丈夫ですか!?」
ヒロセさんは倒れこむ俺を受け止めてくれた。
疲労感がすごい。
傷の痛みはあるが、何が何だか良く分からない。
「ムラマツさんの傷穴が大きい。
ゼータの回復力は?」
「ヒロセくん、
しっかり傷口押さえて!」
やはり俺はガンバマンの姿から、
少しずつ戻っていく。
『テナサス』も原作通りの仕様になっていたようだ。
「父さん……」
何故か脳裏をよぎるのは、父親だった。
父さんは無実だ。
なにもしていない。
そう言う父親の顔は忘れられない。
父さんはずっと無罪主張していた。
しかし、判決は有罪。
死刑も執行されてしまった。
俺が正義のヒーローなら、
父さんを助けられた。
ずっとそう思っていた。
大人になってもずっと。
でも、何かにつけて父親のことをあげられ、
何者にもなれなかった。
父さんを恨んだこともある。
でも、本当に嫌いなったことはない。
執行の連絡があったときは、泣いた。
「ガンバる人を助けたい」
ガンバマンはそう言うお話だ。
でも、頑張った父さんは救われなかった。
本当に父さんが強盗殺人を犯していて、
俺に嘘をついていた可能性もあるが。
やっぱり俺は父さんを信じたい。
「頑張れたかな、俺」
おぼろげな意識で、
父さんにたずねた。
父さんは笑っていた。




