第72話 遅くても来てくれた
●アサギ サイド●
涙でにじむ視界をなんとか定め、
ガンバマンを見つめる。
「……誰だ?
お前はさっきの戦う者じゃない。
お前は誰だ?」
僕らのそばにいた片腕の異世界人がそう言った。
「戦う者の『中に』誰かいるな?
お前は、何者だ?」
野生の勘か、
異世界人はゼータさんの存在を感覚で捉えたらしい。
「戦いたいんだろ?!
かかってこい!」
ムラマツさんのガンバマンがそう言って、
テレビで見ていたあの構えをとった。
その瞬間、
周囲の異世界人たちがいっせいにガンバマンに襲いかかった。
「なんだ!?」
片腕の異世界人が狼狽した。
僕も驚いて声が出ない。
その動きは、
完全にヒーローショーのものだった。
敵もガンバマンも事前に打ち合わせたかのような。
台本があるような動きだった。
なのに、
異世界人たちはテレビの敵戦闘員のように、
次々になぎ倒される。
片腕の異世界人が顎を撫でながら呟く。
「皆は何をしている?
何故攻撃を避けない?
何故攻撃が当てられない?
アイツは、
あんなあからさまな動きで何故当てられる?
何故避けられる?」
武術とアクションは違う。
武術は相手を殺すため、
『相手にも誰にも自分の動きを理解させない』動きをする。
ヒロセ君の受け身も、
あまりの見事さにただ吹き飛ばされたようにしか見えない。
アクションは、
『観客や視聴者に動きを見せるため』の動きをする。
今、目の前で戦うガンバマンがまさにそれだ。
敵にも見ている人にも、
次どう動くか、どんな動きをしたか分かりやすい。
この異世界人たちの戦闘力は高い。
本来そうなら、
ガンバマンの攻撃は『殴るよ』と予告されて殴られるのと変わらない。
彼らにとっては、
防ぐことも避けることも、容易いはずだ。
なのに、
異世界人たちはガンバマンの攻撃に吸い寄せられるように当たる。
「……機会?
いや、兆しを読まれているのか」
片腕の異世界人はそう呟いた。
なるほど、僕も理解した。
あのガンバマンは、
未来予知のように異世界人の初動より前に次の動作を先読みしている。
そして、敵の動きに合わせて自分の攻撃を『置いて』いる。
異世界人は自分の動いた先に攻撃が打ち込まれ、
回避も防御もできず。
異世界人からの攻撃も、
動くより先に予測されているので当たるわけがない。
その結果が、このヒーローショー。
「『プラスマッシュ!』」
異世界人の身体に発光した拳が叩きつけられた。
異世界人は派手に吹き飛んで動かなくなる。
原作通りの威力だ。
「ははは!
戦う者に『力ある者』が加わったのか!
なるほど、なるほど!
力のない戦う者は悲しく、
力こそあれど戦わぬ者は愚かしい!
なら、今のお前こそ、我の敵だ!」
片腕の異世界人は、
大笑いしつつガンバマンへ向かって歩いていった。
「お前の首は我がもらう!」
そう叫んで異世界人は片腕で槍を振り回す。
さすがに、あれは強敵です。
僕はとうとう女性に壁際まで運ばれて、
壁を背に横たえられた。
「おじいさん、ここにいて。
……っ!
私も何かしないと」
彼女も、ヒーローですね。
辺りには運良く、
防衛隊が壊したディメンションエックスのは残骸がある。
辛うじて動きそうだ。
僕は声をひりだす。
「お嬢さん……、
今から言うコードを……、
あそこに散らばってる……機械に、
叫んでください」
「おじいさん!?
なに?!
どうしたの?!」
元気な方だ。
僕の顔に顔を寄せて声を聞き取ろうとしてくれる。
おぉ、女優さんですね。
やっと思い出した。
朝ドラの人。
「お嬢さん、戦えますか?」
僕は僕自身聞きたくないことを、
あえて彼女に聞く。
「先輩を助けたいんです!」
彼女は力強くそう言いきった。
先輩を、か。
ムラマツさんの後輩さんですかね。
「『平和を、調和をエックスに』」
「平和を、調和をエックスに!
わかりました!」
彼女は迷いなく、
ディメンションエックスの破片へ駆け出した。
ガンバマンは、
やはり片腕の異世界人に苦戦している。
「私にできる、最後の仕事が。
ヒーローの手助けなら、本望です」
彼女はディメンションエックスの残骸に向かって叫ぶ。
「平和を! 調和を!
エックスに!」
僕は最後の力を振り絞って叫ぶ。
「音声認識!
アサギ エイイチロウ!
承認します!」
僕の声に反応して、
ディメンションエックスは彼女の身体に装着されていく。
さすがに、疲れました。
僕は憧れのガンバマンを眺めながら、
ゆっくりと目を閉じた。




