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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編三部 「遅い」

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第71話 彼は遅れてやってくる

●アサギ サイド●


「ヒーローはいません」


 それが、僕の口癖だった。

十三歳の時、

第二次次元大戦末期。

僕は家族を失った。

 幼い妹と両親は、

僕の目の前でむごたらしく痛め付けられて、

死んだ。


 ヒーローは、来なかった。


 偶然僕だけが助かり、

防衛軍へ入隊した。

もちろん、復讐のためだった。

 僕は家も何もかも失い、天涯孤独になった。

唯一残ったメンコを、

思い出と己の戒めにと大事に持って。

ヒーロー、ガンバマンのメンコを。


「ヒーローはいません。

だから、人は修羅に成り果てるのです」


 指揮官になり『カミソリ』と呼ばれ、

苛烈で過激な作戦を実施し。

成果は絶大だが、

誰も僕を信用してくれなくなっていた。


「アサギ エイイチロウ。

特捜隊への配属を命ずる」


 当時の特捜隊は、

創設されてすぐだったこともあり、

閑職の一つだった。


「生き残りは……、

赤ん坊だけでした」


 やはり、ヒーローはいません。

『穴』以外の経路でこちらに潜入する異世界人が増え、

一般人の被害がじわじわ増えてきた。

特捜隊の仕事が増えてきたが、

いくら試行錯誤しても体制が安定せず。

その被害は抑えられなかった。

 そんな中、

赤ん坊一人でも助かったのなら僥倖だ。


 しかし、彼とは妙な縁が生まれた。


「特捜隊さん!

助けて!」


 たくさんの子どもたちを引き連れて、

彼は特捜隊の基地に逃げてきた。

自分も含めて、

全員異世界人に捕まっていたと言う。


「みんなで逃げてきたの!

あっちの所に異世界人がいるよ!」


 彼があの時の赤ん坊だと、

後から知った。

彼の案内で異世界人を見つけて一網打尽にしたが、

彼はその間怯むことも、

怖がることもなかった。

まっすぐ前を見ていた。

 その目は好奇心とも違う。

恨み辛みでもない。

冷静に、でも隙なく。

観察する目だった。


「僕も特捜隊になって、みんなを助けるんだ!」


 彼がそう言った。

その彼は、すぐに特捜隊に来た。


「特捜隊への配属を希望します!」


 十八才の彼は、

見間違えるほどの肉体と技を身につけてやって来た。

 その目は変わらず、

まっすぐ前を見ていた。

新人キャップの僕の下に彼は来た。

彼の働きは素晴らしい限りだった。


 不思議だったのは、

彼は『憎しみ』に取り憑かれていなかった。


 勝手なシンパシーだが、

彼も私と似た境遇だ。

異世界人を恨んで憎んで、

常々殺したいと思ってると勝手に考えていた。


「助けられる人は、みんな助けたいんです!」


 彼は本気だ。

汚れきった僕には眩しく感じた。

 ある時、

異世界人との戦闘後入院した彼をお見舞いした。


「ミズノも怪我したんでしょ?

大丈夫でしたか?」


 はて?

確かにミズノ君は怪我をした。

でも、その時君は、

気を失って病院に運ばれてる途中だったのだが。

 ちょうど、同時期に姿を表した『次元の守護者』、

ゼータ・ディアスタシについて。

世間的に意見が賛否両論あったころだ。

 そして、ある仮説を立てた僕は、

ある事件の時に彼の周りの情報を少しだけ封鎖した。

たった数時間だが、誰にも情報が漏れないようにした。


「クロダさんたち、三班の怪我人は?」


 やはり、彼のお見舞いに行くとそう聞かれた。

現場にいなければ、知らないはずなのだ。

戦闘機が破損したことは、まだ公開されていない情報だ。


 そして、

彼がまた病院に運ばれてる真っ最中に起きた出来事だ。


 それを知り得るとするなら、

戦闘していた特捜隊員とゼータ・ディアスタシだけ。

他へはまだ知らせていない。

僕が情報を封鎖したからだ。

彼のお見舞いにも、

僕以外誰一人来てないことは確認している。


 あぁ、ヒーローはいるのか。


 僕は本部へ情報を上手く流して、

ゼータ・ディアスタシを『協力的異世界人』とさせた。

そして、作戦を立てる際は彼を自由にするように心がけた。

 そのお陰か、

増加した『穴』以外の経路での侵略をたくさん防ぐことができた。

同時に、彼と彼以外の隊員の間に、

大きく深い溝を作る結果になってしまった。


 ヒロセ マコトを除隊する。


 僕は全力で止めようと駆け回った。

だが、ダメだった。

特捜隊を廃止したい本部は大喜びだった。

だから、彼が辞めた後防衛軍へ連れ戻せないように、

彼の家族に手を回した。


 ヒロセ マコトさんを、

自由にしてあげてください。

でも、可能なら世界を見せたい。

ぜひ、旅行を勧めてみてください。

遠く、遠くに。

ゆっくり、ゆっくりとできるような。


 彼の兄は僕に賛同してくれた。

僕なりの罪滅ぼしとして、

彼の退職金に僕の退職金も足しておいた。


「おじいさん!

しっかりして!」


 女性の声だ。

知らない声だ。

身体中がだるくて重い。

僕はなんとか目を開ける。

 あぁ、そうだ。

僕は異世界人と戦ってたんだ。

受け身はとったけど、

インパクトの瞬間のダメージは散らしきれなかった。

 異世界人は槍を持ってこちらに向かってきている。

どうやら、僕は女性に抱えられて引きずられてるようだ。


「……お嬢さん、逃げてください」

「何言ってるッスか?!

一緒に逃げるッスよ!」


 どこかで見た顔の女性だ。

誰だったか。

 異世界人はどんどんこちらに向かってきている。

僕を引きずったままでは、逃げきれないのは明白だ。


「よく分からないけど!

二人を助けられるなら、なんでもする!」


 少しはなれたところからそう聞こえた。

ムラマツさんだ。

ムラマツさんは見たことがないポーズをとった。


「変身!」


 ムラマツさんがそう叫ぶと、

彼の身体が輝きだした。


「なんだ?!」


 異世界人が立ち止まって振り替える。

光が収まると、そこにいたのはゼータ・ディアスタシだった。


「……ゼータさん、

来てくれたんですね」


 恐らく、ヒロセ君は向こうの『穴』から出てきた異世界人を相手にしている。

だから、ゼータさんだけこっちに来て、

ムラマツさんの身体を借りて変身のだろう。

 ムラマツさんはずっと空中の何もないところと話をしている。

きっと、そこにゼータさんがいるんだ。


「腰を両手で叩くのか?

こうか?」


 ゼータ・ディアスタシは両手で自分の腰を軽く叩いた。

すると、彼の目の前に一本の槍が現れた。

ゼータランスだ。


「よし!」


 そう言ってムラマツさんが槍をつかんだ瞬間、

ゼータランスがガラスのように砕け散った。


「なんだ?」


 異世界人たちは怪訝な顔で様子を見ている。

ガラスのように砕けたそれは、

逆再生の映像のように戻っていき新しい形に作り変わる。


 あぁ、あの形は。


「テナ……サス……?」


 テナサス。

ガンバマンの、

しかも初代ガンバマンの使っていたシンプルなデザインのテナサスだ。

 十手の形をした剣を、彼はつかんで。

そして、見知ったポーズをとる。


 ガンバマンの、

初代ガンバマンの変身ポーズだ。


「変身」


 ゼータ・ディアスタシの装備がガラスのように砕け、

ムラマツさんがむき出しになる。

だが、また逆再生の映像のように装備がムラマツさんの元に戻っていき。


「……あぁ、……あぁあ。

ヒーローは、……いました」


 そこにいたのは、

間違いなく僕らのガンバマンだった。

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