第70話 遅れるわけに行かない
●ヒロセ サイド●
少し時間をさかのぼる。
***
わんこそば、と言ったとおり、
『穴』からどんどん異世界人が沸いてくる。
『穴』の塞ぎ方がわからないので、
とにかくここで俺が食い止めるしかない。
「ヒロセ君!
ショッピングモールのここと逆の方にも『穴』が開いた!
あっちからも敵が来る!」
「マサヤ君に助けを求めるにしても、
距離がありすぎる」
マサヤの歌なら、
広範囲無差別に戦意を失わせ。
しかも、自分に敵の注目を集めて留めておけるので、
敵の位置を意図的に固められる。
だが、いまそばに彼はいない。
「いたぞ!
ヒロセさんだ!」
俺はその声が聞こえた方を見た。
そこには機動隊員が一列に並んで盾を前と頭上に構え、
ファランクスのような陣形をとっている。
「突撃ぃ!」
機動隊たちがまっすぐ俺の所へ向かって突進してきた。
異世界人たちが槍や剣で応戦するが、
砲弾のように破城鎚のように突っ込んでくる機動隊たちを誰も止められない。
「ヒロセさん!
乗っかってぇ!」
俺はその声に従い、
突進してきた機動隊たちの盾の上へ飛び上がり乗った。
「亀甲陣形!」
その叫び声と共に、
盾の中に俺を取り込んでドーム状に陣をはる機動隊。
素晴らしい連携だ。
「この動きは、ローマ式ですか!」
「はい!
いつかの時にヒロセさんに聞いた、
盾の陣を新たに作りました!」
盾のドームの中にいたのは、
山口県警機動隊隊長のヤマモトさんと機動隊たちだ。
過去何度もお世話になった人だ。
異世界人は盾を攻撃しているようだが、
盾を上手く組合わせて何人もの男が抑えているのでびくともしない。
「共有します!
敵の武器は剣、槍、弓。
原始的ですが、
装備者の身体能力が非常に高いため、
近代兵器に近い威力と射程があります。
どの個体も回復能力もあって、
軽い傷は無視して攻撃してきます」
俺の共有した情報を繰り返して無線に伝えるヤマモトさん。
「よし、発砲許可!」
ヤマモトさんがそう言うと、
盾の外から無数の銃声が聞こえた。
「ヒロセさん、着いてきて!
西南西へ、突撃!」
機動隊たちはその号令に従って、
陣形を変えて駆け出した。
俺も彼らと一緒に走る。
「合流!」
盾が開くと、
別の部隊が異世界人へ向けて発砲していた。
そして、俺たちはその射撃部隊の後ろへ逃げきれた。
「よし!」
俺は機動隊たちと出口の方へ退避したらしい。
俺は振り返って異世界人を見た。
あの異世界人は盾は持ってない。
回復能力に頼っているようだった。
よく観察する。
「ヤマモトさん!
見てください!
ヤツら、被弾した弾丸を指でほじって出してる!
体内に異物があると、
回復能力が機能不全を起こすのかも!」
「よし!
フォローポイント弾を使え!
狙うのは胴体部分だ!
ショットガンも出せるか!?
スラッグ弾で吹き飛ばして、
相手に距離を詰めさせるな!
ゴム弾でもいい!」
山口県には、『穴』がある。
防衛軍の防衛隊が常駐していて、
いざというときには機動隊や自衛隊が出る。
そのため、彼らの訓練も実践さながらで、
特捜隊だった頃は何度も助けてもらった。
さすがの連携と、
訓練に裏付けられた鮮やかなお手並みだ。
「ヤマモトさん、
ありがとうございます!
助かりました!」
「こちらこそ助かりました!
ヒロセさんが避難を促して、
敵を足止めしてくれたので被害なしです!」
良い知らせだ。
変身する隙もないくらいの大群だったので、
想定より何倍も嬉しい予想外の出来事だ。
ヤマモトさんが無線に耳を傾ける。
そして、驚いた顔と苦い顔をした。
「もう一つ『穴』?!
しかも、駆けつけた防衛隊が全滅?
アイツらエリートだの威張ってるだけで、
特捜隊の半分も働かない!」
ヤマモトさんが吐き捨てるようにそう言った。
そして、続報を聞いてさらに驚いた顔を俺に向けた。
「向こうの『穴』にアサギさんがいる?!
しかも、一人で逃げそびれた一般人をかばって、
異世界人相手に大立ち回り?!」
俺はヤマモトさんに詰め寄る。
「場所は?!」
「敵の向こう側です!
同じショッピングモール内!
今敵のいる向こう側のショッピングモールの端!」
さすがに生身で、
この敵の囲みを突破して向こうへは行けそうにない。
だが、急がなければアサギさんが危ない!
「キャップを助けたい、
あの軍団をなんとかできませんか?!」
「ヒロセさん、俺たちも同じ気持ちです!
でも、敵が多すぎる!」
そう、圧倒的な物質量と回復能力によるタフネス。
単純な暴力だが、
ここまでの量になると簡単には突破できない。
外から建物の外周をまわっていくと、
少し遠いがコイツらは回避できる。
「外周をまわって行く、で間に合うか?」
俺は思わず舌打ちした。




