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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編三部 「遅い」

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第68話 遅報

●ムラマツ サイド●


 防衛隊は、防衛軍の花形。

『穴』の周囲で警備をする戦闘部隊。

全員が対異次元武装ディメンション・エックスを装着する。

『穴』から異世界人が出てきたときに、

真っ先に相対する部隊だ。

 俺が防衛軍を志望したときに調べた。

さらに、特捜隊とは異なり重武装を許可されている。


「……っ!

な、何が?」


 俺は痛む身体を無理矢理起こした。

周囲にはさっき助けてくれた防衛隊たちが、

無惨な姿で転がっている。

 何が起きたか分からない。

鎧武者のような異世界人が、

俺たちを見下ろしている。

 防衛隊の人は皆生きているようだが、

装備が壊れて中の生身が露出していた。


「弱い。

この程度で……?

 いや、向こうにも戦う者がいるんだったな。

なるほど、我はハズレを引いたのか」


 いかつい鎧姿に反して、

高い声で異世界人の一人が話した。

ふと、異世界人と目があった。


「お前は弱いが、心意気はよい!

戦えぬもののために、己が前へ出る!

素晴らしい!」


 何故か異世界人は俺を指差して褒める。


「しかし、それに対してお前らは兵士だろう?

この世界の武士(もののふ)だろう?

その男と違って、

戦う心得があるのだろう?

 それなのに、その体たらく!

情けないと思わんのか!?」


 異世界人は倒れている防衛隊たちを侮べつの目で睨む。

なんとなく、わかった。

この異世界人は、室町武士だ。

 俺の習った古武術の師範に、

その道場に伝わる室町時代の資料を見せてもらったことがある。

本当に頭がおかしい人が『武士』だった。

創作物は本当に美化したものだと理解した。

 そして、

今目の前にいる異世界人は、

日本の戦国時代の一番ヤバい頃の武士そのものだ。


「では、すっぱりその首いただこう。

それでもこの世界の武士の首だ。

それなりに、化粧はしよう」


 俺は震える身体をしったし、

なんとか立ち上がる。


「ほう。

立ち上がるか。

勇気ある者よ」


 俺はそばに倒れている防衛隊の一人をなんとか持ち上げ、

この場から遠ざけるために引きずる。

身体中痛むが、歯を食いしばって引きずる。


「なるほど、なるほど!

戦ってかなわぬなら、

動けぬものを助けようとしているのか!

 本当に素晴らしい!

お前は、本当の戦う者だ!

気に入った!

お前の首は、俺がもらおう!」


 どうやら、

俺はこの異世界人に気に入られてしまったようだ。

鎧を着た巨体が俺に歩み寄る。

俺はそれでも防衛隊の人を引きずって、

すこしでも離れようと足を引きずる。


「待った」


 声はすこし離れた所から聞こえた。


「戦いをご所望かな?」

「あ……あさ……、アサギ……さん……」


 なんとか声が出た。

アサギさんが戻ってきた。

たぶん、

こちらの騒ぎを聞き付けて戻ってくれたのだろう。

 俺の声が聞こえたのか、

抱えてる防衛隊員が目を開けた。


「……老人?

違う。

アサギさんだ」


 防衛隊がそう呟くのが聞こえた。


「貴方たち、誰の部下ですか?

オオタニ、イイジマ。

どっちかですね。

後でお説教だ、とお伝えください」


 アサギさんは穏やかな声色だが、

呆けたわけじゃない。

今のアサギさんから夜の海のような、

大きさと恐ろしさを感じる。

 異世界人たちが武器を構え直した。

俺のそばにいるヤツがアサギさんにたずねる。


「何者か?」

「名乗りましょう。

元防衛軍、特捜隊キャプテン。

アサギ エイイチロウ」


 アサギさんはそう言って、

落ちていた鉄片を拾ってハンカチを巻き付けて握る。


 彼かそれをゆらりと構えたその一瞬で、

ただのガラクタが一振の刀に変わった。


 異世界人たちもその威圧感にたじろぐ。

だが、俺に話しかけていた異世界人だけは、

大声で笑った。


「いたぞ! いた!

本物の武士(もののふ)だ!」


 ソイツは仲間だろう他の異世界人たちを押し退けて、

アサギさんの前まで出た。


「アタクラ!

俺の名はアタクラだ!

1555番総隊長!

そして、お前の敵だ!」


 大人と子供とまでは言えないが、

かなり体格差がある二人が対峙している。

どうみても老人のアサギさんに勝ち目があるように思えない。

 だが、俺には目の前の二人は拮抗しているように見えた。

俺は今の隙に、

と抱えた防衛隊の人を壁際まで引きずった。

そして、震える足をなんとか引きずって、

他の人も助けに向かう。


「ふはは!

やはり、この世界はいい!

いいぞ!」


 そう叫んで異世界人がアサギさんに槍を振るう。

さっきと違って全く見えない槍捌きだ。

 だが、アサギさんは最低限の動きでその攻撃をいなしていく。

完全に威力を奪って異世界人が少しよろめいた。

その瞬間、

アサギさんは距離を詰めて鎧の隙間に鉄片を突き立てた。

 黄色い液体が鎧の隙間から吹き出た。

だが、異世界人は痛みに怯まず槍を振るう。

アサギさんはまた槍をいなして元いた位置へ戻り、

元通り構える。


「痛いぞ!

素晴らしい!

我に傷をつける程の実力!

なんと甘美な痛みか!」


 和製のバーサーカーだ。

思わず俺はそう思った。

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