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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編三部 「遅い」

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第67話 遅い到着

●ムラマツ サイド●


 俺は警備員の方と一緒に避難誘導している。


「落ち着いてください!」

「走らないで!」

「出口はあちらです!」


 俺たちは役者だ。

声がでかい。

俺と一緒に若手たちも避難誘導を手伝っている。

 皆、ショーのスーツを着ている途中だった。

俺は全身ぴったりタイツにガンバマンのブーツだけの姿。

かなり間抜けだ。

運がいいのは怪人役。

飾りを壊さないよう着用は最後だったし、

ほぼ着ぐるみだったので中は普通のジャージ姿だ。


「落ち着いてください!」

「向こうに、化け物が!」

「出口はこっちです!」


 化け物。

いわゆる異世界人の、侵略か。

火事だ、と聞いたが、

どうやら違ったらしい。

だが、火事だとしたことで避難がスムーズだ。

通報者はかなりいい仕事をされたようだ。


「化け物と戦ってる人がいた!」


 俺は思わず向こうを見る。

戦ってる?

そんな人がいるのか?


「いますよ」


 いつの間にか俺の目の前に、

この前サインをした老人が立っていた。


「貴方と同じ、ヒーローですよ」


 老人がそう言って笑う。

そして、老人は出口ではなく、

化け物ののいる方へ歩きだした。


「待ってください!

アサギさん、そっちは危ない!」

「ほっ。

名前、覚えてくれたんですか。

 大丈夫です。

私も、ヒーローですから」


 そう言って、

彼は懐からバッチを取り出して俺に見せる。

それは防衛軍のバッチだった。


「年齢を理由に退役したのですが。

今でもそこそこやれますから」


 彼はそう言って笑った。

まるで、ゲートボールの会場へ向かうかのように。

楽しげに戦場へ向かう。


「……っ!」


 声が出なかった。

腹の底にあるのは恐怖。

 だが、化け物と戦う人たちがいる。

その驚愕の事実は、

俺の心に熱い何かを宿す。


「ヒーローショーの皆さん、

ありがとうございます!

もう貴方たちで最後です!

逃げてください!」


 警備員の人がそう言った。

俺は若手たちの人数を確認して、

逃げようとした。


 その瞬間、

目の前の何もない空間がひび割れて穴が開いた。


 そこから、鎧を着た化け物たちが溢れてくる。


「お前ら逃げろ!」


 俺は無意識に異世界人と皆の間に立って、

そう叫んでいた。

自分でも、は? と、思う。

だが、俺が一番年上で。


「男の子にはぁ!

逃げちゃなんねぇ時があるんだせ!」


 恐怖を吹き飛ばすために声を張る。

俺は、ヒーローだと言い聞かせ。

足が震えないよう踏ん張る。

 そして、それは自然な構えになった。

心強いことに、身体は覚えている。

ヒーローになるために、

がむしゃらに鍛えて覚えた古武術。

今じゃ、酒の席でやる芸として披露するくらいだったが。


「やれる! やれる! やれる!

俺は、ヒーローだ!」


 自分に言い聞かせ、役に入る。

目の前の異世界人は、

剣や槍を構えてこちらへ向かってきた。

 なんとか突き出された槍を回避したが、

その槍でなぎ払われて壁際まで吹き飛ばされた。


「ぎ……っ!?

かっ……っ!?」


 そんなうまく行くわけなかった。

息が上手くできない。

全身が痛い。

 だが、異世界人たちは俺の方へ向かってきた。

その間に皆が逃げられたのが、辛うじて見えた。

良かった、皆助かる。


 それなら、いい。


 俺は震えている全身をなんとか動かして起き上がろうとする。

だか、うまく行かない。

何度も転んでしまう。

 異世界人たちはゆっくり俺を包囲する。


 まだだ。

こっちを見ろ。


 皆が逃げ切れるように、時間を稼ぐ。

死んでも、絶対に!


「そこまでだ!」


 その声は、

見たことがないスーツを着た男たちだった。


「防衛軍、防衛隊!

現地に到着!

異世界人に攻撃されている民間人を発見した!

救助を試みる!」


 機械の鎧を身につけた集団が、

異世界人たちへ一斉に発砲する。

異世界人たちが散ったところを見計らって、

三人こちらに駆けてきた。

三人は俺を抱えて異世界人たちから離れる。


「急いで救急隊へ!」


 だが、次の瞬間俺たちは吹き飛ばされた。

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