第65話 流行遅れ
朝、ホテルで目が覚めた。
かなり飲んだが、酔いは残ってない。
昨晩はあの後もう少し話をして、
アサギさんを見送って新山口駅近くのホテルに帰った。
アサギさんのお宅は下関の方で、
息子さんたちと一緒に住んでるらしい。
「色々衝撃的だったな」
ゼータを入れて三人で話した。
アサギさんはひたすらにお礼と謝罪をするが、
俺たちもアサギさんには感謝しかない。
酔いもあって、最後はお礼大会みたいになって。
でも、やっぱり俺たちのことを陰ながら助けてくれていた。
俺にとっての『キャップ』はやっぱり、あの人だ。
そう思ってしまった。
「それはそうと、
意外な所から情報をもらったね」
ゼータはそう言って唸る。
「スーツアクターのムラマツさん、か。
シンクロ率は八十パーセント前後で推移。
アサギさんの見立てだと、
格闘技経験者と思われる。
ただ、ヒーローショーのスーツアクターさんだから、
ここに来たのはあのショーのためだったのかも。
もう次のショーのために、
県外に出ててる可能性があるな」
そう、俺があのショッピングモールへ向かったのは、
仲間になってもらえるくらいのシンクロ率を感知したからだった。
そこでヒーローショーを見ていたアサギさんと鉢合わせて。
「あと二日、
あそこでガンバマンのヒーローショーをやるらしいし。
今日も行ってみて、
ムラマツさんがいなかったら諦めよう」
俺はそう言って、
ベッドから起き上がる。
すっかり寒くなってきた。
俺は尾道でウチムラたちに貰った革ジャンを着て、
電車で山陽小野田市のショッピングモールへ向かう。
赤茶の革がまだ新しい。
見た目より軽く、暖かい。
年末に家族で集まるのだが、
今年は俺がいるので親戚一同を呼ぶことになった。
そんな大袈裟にしなくても、と俺は思ったが。
「孫の顔が見たい!」
と言うお婆様の鶴の一言で、
お婆様の住む鹿児島に全員集まることになった。
それを教えてくれた兄さんが、電話でこう言っていた。
「俺は仕事が片付かない。
鹿児島入りはギリギリになる。
マコトは先に行っといてくれ」
疲れた声の兄さんを心配しつつ、
俺は話題に上がらない父さんについても聞いてみた。
「父さんは?」
「父さんは、都内の美術館巡りだ。
いつでも鹿児島へ行けるみたいだし、
ほっといていいだろう。
先週、母さんがやっと捕まって、
今執筆中らしい。
国はアメリカ。
アラスカだと。
北極圏へ行ってたらしい。
論文を書き疲れたら日本へ送るよう手配してる」
今年の年末年始はゆっくりできなさそうだ。
「ヒーローショーの第一回公演は十四時からか。
演者さんは裏にいるのかな?」
「ゼータのレーダーの範囲内に捉えられる距離は?」
「最大範囲は半径二キロ、
精度が高いのは直径一キロくらい。
全く反応が見つからないから、
もしかしたら今日の公演には出ないのかも。
念のため、ウインドウショッピングしつつ探してみよう」
週末のショッピングモールは人でごったがえしている。
しかし、この中には適性がある人はいない。
「この数ヶ月で七十パーセントごえが四人目なのは、
嬉しい誤算だけど。
今回は接触すら難しいかも」
「ウチムラ君とミアさんも何かあったら協力は惜しまないけど、
仲間にはなってもらえなかったしな」
ウチムラ君はミアさんを護ることに全てをかけている。
だから、ゼータ・ディアスタシとして戦うのは無理だと言われた。
ミアさんは、
普通に戦いは怖いと言うことで断られた。
残念だったが、
俺たちも断られることを想定していた。
ウチムラの何万と繰り返す日々を乗り越えるほどの意志の強さ。
その根幹が、ただひたすらにミアさんのためだと知っている。
多分、ミアさんもウチムラのそれに気付いていて。
その上で自分が戦うのは、
同時にウチムラのことを危険にさらすと判断したみたいだ。
俺たちは二人を応援する、と
言って連絡先だけ交換して別れた。
「一年で一人、のペースか。
いつになったら、
ヒロセ君を楽にできるのかな」
「気長に行こう、相棒」
ショーの会場には既に人だかりができていた。
多くは子ども連れだが、
中には俺と同じくらいの年齢の人もいる。
「あのガンバマンってのは、
すごい人気なんだね」
「俺が子どもの頃から人気だからな。
それこそ、
初代はアサギさんが子どもの頃にテレビでやってたし」
ガンバマン。
ガンバはスペイン語のエビ。
慣用句のメテー・ルラ・ガンバは『うっかり』、
『失敗』を意味する。
悪の組織に捕まった主人公はエビの怪人として改造されたが、科学者が手術を『うっかりミスで失敗』する。
悪人として洗脳される前だった主人公は、
廃棄されそうになったところから命からがら逃げ出す。
そして、悪の組織に立ち向かうヒーローのガンバマンとして、
人々のために立ち上がる。
キメ台詞は、
『ガンバる人を嘲笑う悪人を、俺は絶対許さない!』。
口癖は『失敗は成功の母だ』。
弱点は、何かと一言多い事。
必殺技は、
パンチの瞬間ハサミを高速で閉じて発生させたプラズマをゼロ距離で叩きつける。
『プラスマッシュ』。
そして、
追い詰められて凶暴化した怪人を切り裂く十手風ハサミ型武器。
『テナサス』。
「今はシリーズだと三十四作目で、
『ガンバマン・ゼノム』だな。
もうスーツも技も、
初代の頃の原型はほとんど残ってない」
「詳しいね、ヒロセ君。
もしかして、ファン?」
「初代のファンだ。
今でも初代のガンバマングッズを見ると、
気になるくらい」
俺の財布の中には、
初代のガンバマンのカードが隠してある。
それくらいファンだ。
「私も見てみたいな。
参考にして、
ゼータ・ディアスタシも人気になれば、
ヒロセ君が楽になるかな?」
「ヒーローショーと実際の戦闘は違うし。
戦闘中に見物人なんか集まってきたら、
やりづらいぞ?」
「前言撤回だね。
でも、ガンバマンは見たいな」
俺はゼータと笑う。
まだショッピングモールがオープンして数分しか経ってない。
時間はたっぷりある。
俺は久々のウインドウショッピングを楽しむことにした。




