↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編三部 「遅い」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/116

第64話 遅い自己紹介

●ヒロセ サイド●


 この人とは長い付き合いだが、

居酒屋で二人で飲むのは初めてだった。

 わざわざ個室の居酒屋を紹介してくれて、

料理に下関のフグが出てきた。


「まさか、キャップがいるとは」

「ふふふ。

もうキャップじゃないから。

 そうだねぇ。

アサギさん、とでも呼んでよ」


 ショッピングモールで偶然鉢合わせた元キャップこと、

アサギさん。


「僕はね、

ガンバマンのヒーローショーを孫と一緒に見に行ってたんだ。

 とっても上手いスーツアクターさんが来てたから、

家はちょっと遠いんだけど足を延ばしちゃった」

「それは、すごい人ですね。

テレビとショーでアクターさんも違うし。

ショーでも回によってアクターさんが違うこともあるのに、

『その人がすごい』って。

 しかも、アサギさんが言うんだから、

本当に上手い方ですよね」


 アサギさんは笑って言う。

アサギさんは防衛軍所属で、

戦闘訓練もこなしたれっきとした軍人。

さらに、日本刀を扱う古武術の達人で、

剣道も八段の『剣士』だ。


「あのね、

あの人ムラマツさんって言うんだ。

ちゃんと格闘技もできる人だと思うよ。

動きがね、他の人より上手いんだよ。

 それにね。

最近はボイスチェンジャーがすごいから。

アクターさんが話したら、

テレビの俳優さんと同じ声で聞こえるんだよ」


 なるほど。

録音した声を流すより、

アクターさんが話した方がアクションが楽になる。


「VTuberの技術だね。

アレ、すごいねぇ。

 トラブったら、

演者さんたちでアドリブするんだよ」


 たしかに、

決まったセリフと動きより自由度がある方が子どもたちも喜ぶ。


「以前見た時は、

アクションの途中で怪人さんのスーツが壊れてね。

その瞬間、

そのガンバマン役のムラマツさんが。

『まさか、ハルバル星人!?』、

って言ったの。

 ハルバル星人は初代のガンバマンの怪人さんでね。

その日の怪人はハルバル星人に似た怪人で、

壊れたスーツが丁度よくハルバル星人に見えてね。

子どもたち置いてけぼりだったけど、

僕も含めて大人が大興奮してた」

「知ってます、ハルバル星人!

俺もガンバマン大好きでしたから。

初代のしか知らないけど」

「ねー。

ムラマツさん、

ガンバマンのこと大好きなんだろうね。

じゃないと、とっさにでないよ。

ちょい役のハルバル星人なんて」


 久しぶりに話すアサギさんは、

すっかり戦いのない日常を楽しまれている。

穏やかな顔をされていて、

すこし嬉しかった。

 気付けばあっという間にえんもたけなわ、

と言う具合の時間だ。


「ところで、

『お仲間さん』はお元気かい?」


 アサギさんのその一言で、

俺の酔いが覚めた。

俺が口を開くより早くアサギさんが続ける。


「いや、

問いただしたり尋問するつもりはないよ。

歳よりの繰り言だ、と思って聞き流して。

 どうやら、

熱海とか旅行先で『お仲間さん』が増えたみたいだね」


 アサギさんのあだ名は『カミソリ』。

切れ者で有名な人だと知っていた。

特捜隊にいたころは、

一番気付かれないように気を付けていた相手だ。

 防衛軍を退役されているのに、

どうやって情報を集めているのか分からない。

だが、アサギさんは確度の高い最新情報を持っているようだ。


「実はね、

特捜隊の時は

『どうやって自然に君を自由行動させる』か、って

考えて作戦を立ててたんだ。

『君たち』が活躍できるようにね」


 冷や汗が背中を流れる。

特捜隊の頃からバレてたのか?


「そのせいで、

今の特捜隊がかなりひどいことになってるらしいんだ。

 全部、私のせいだよ。

私が君たちに頼ってしまったせいだ。

本当にすまない」


 アサギさんは深々と頭を下げる。

俺はどうしたらいいかわからず、

あわてふためいた。


「君たちは何も悪くない。

君たちはむしろ、

この世界を守ってくれて。

 本当に感謝しかない。

ありがとう、

ゼータ・ディアスタシ」


 アサギさんが言い切った。

俺は生唾を飲んだ。


「頭を上げてください」


 そう言ったのは、ゼータだった。

どうやらゼータは姿を表しているようで、

それを見たアサギさんがすこし驚いている。

 俺はテーブルの上に現れたゼータに確認した。


「相棒、いいのか?」

「うん。

彼にもたくさんお世話になったんだよ。

 防衛軍で十年もバレなかったのは、

彼のおかげなんだ。

ヒロセ君には黙ってたけど、

実は私は気付いてたんだ」


 アサギさんはゼータの方を見て、

もう一度頭を下げた。


「ありがとう」

「頭を上げてくださいって。

はじめまして、私はゼータ」

「はじめまして。

私はアサギと申します」


 アサギさんは、

思ったより俺たちのことを分かってて作戦を立てていたらしい。


「ふふふ。

十年も一緒だったのに、

はじめましてですね」


 アサギさんは嬉しそうに笑う。

そして、すこし涙ぐんで。


「あぁ。

やっぱり、

ヒーローはいました」


 そう呟いた。

アサギさんは、

嬉しそうに泣いて笑う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。