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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編三部 「遅い」

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第63話 遅い帰宅

●ムラマツ サイド●


 何事もなく、ショーは終わった。

若手たちの張り切り様は言うまでもない。


「ハヤタさんが見てるんだぞ!?

もしかしたら、

テレビの関係者もいるかもしれない!」


 一番若いのがそう言ってた。

彼らも目指すのはテレビデビューだ。

一部にはスタントやダンサーを目指す子もいるが、

ほとんどはハヤタのようになりたい、と思っているらしい。


「しかも、今日はムラマツさんがいる!

なんかあっても、助けてもらえる!」


 さすがに、なんでもは無理だからな。

俺はそうたしなめつつも、気持ちは分かる。


「お前ら、テレビの関係者に『いまだに俺に頼ってる』、って

印象を持たれたいのか?」


 俺がそう言ったら、

途端に気が引き締まったようだ。

お陰で、完璧に近いショーだった。

演出も舞台監督も大喜びしつつ。


「ハヤタ効果、だよな」


 彼は打ち上げの居酒屋でそう言って苦笑いしてた。

もうしばらくこのメンバーで行脚するが、

この効果は長続きしないだろう。


「良いじゃないですか。

成功体験を積んでもらうのも、

良いことだと思いますし」

「ムラマツが言うなら。

でも、立派になっちゃったなぁ、ハヤタ。

マジで泣いて鼻垂れてたのに」


 ハヤタさんは『ものすごい負けず嫌い』で、

アクションや演技が上手く行かないとよく泣いていた。

子どものように鼻を垂らして、

天をあおいで大声で泣いていた。

 それだけ真剣にショーに挑んで、

悔しさが爆発したのだと思うと尊敬に値する。

俺は後輩ながら、

彼女には一目置いていた。


「それが、今や王子様系女優だ。

鼻垂れ姿が嘘のよう、ってな」


 宝塚の元男役と張り合える程の整った顔。

立ち振舞いは、

スーツアクターの頃に身に付けた男役の動作を変形させている。

スタイルは筋肉質だが、

出るところは出て括れている。

 ボーイッシュとはまた違う、ヒーロー系、

王子様系のキャラは大人気だ。


「子分風の話し方も、

可愛いと思えてきたよ」


 演出が苦笑して言う。

彼女の語尾の『ッス』は、

俺の目の前のイデさんの仕込みだ。

『キャラが立ってる方がいい』、

『まずは話し方からだ』とか言って仕込んでた。


「テレビじゃあの話し方してないじゃん」

「さすがに俺がマネになってたとしても、

あれは辞めさせたわ」


 イデさんはそう言うも、反省の色なしだ。


「次は時代劇やるって聞いたぜ?

あれで殺陣もこなすんだから、

2.5次元のとこからも声かかってるらしい」

「アニメから出てきた、

って言えるくらいのビジュアルですからね」

「若い頃にムラマツががっちりガードしてたから、

無事に成長したんだよ」


 何故か俺にふられた話題。

正直身に覚えはない。


「なんですかそれ」

「二年も一緒にいて、

お前自身は一切手を出さず。

しかも、ショーのいろはを全て仕込んで。

挙げ句、悪い虫もはね除けてたろ?」


 俺はスーツアクターだ。

筋骨隆々ではないが、それなりに鍛えている。

顔もどちらかと言えば強面だ。

俺が彼女の横に立つだけでナンパは元より、

業界の悪い噂のあるヤツすら寄ってこなかった。

 おそらく、俺の父親の件も要因の一つだ。


「偶然です。

俺、後輩に手を出すなんて、

バカなことはしませんし。

やれるヤツだったから、

教えるのが楽しくなって教えただけです。

 悪い虫、は俺の顔が原因でしょうよ」

「ムラマツ、お前どっちかってと、

イケメンではないけど。

男前ではあるぞ?

昔の銀幕スター的な」

「お世辞でも嬉しいです」


 そう言う風によく言われるが、

それなら今風がいいと常々思う。


「いやぁ、確かに古い型の男前だ。

ちょんまげ、月代さかやきが似合いそうだよな。

五十年前なら、俺がお前を推してたよ」

「はっはっはっ。

俺、殺陣も古いのならできますよ?

真剣を使うヤツ」

「ふはは!

古武術の達人は言うことが違うなぁ」


 二次会も、と誘われたが。

俺は明日のショーもあるので断り帰った。

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