第62話 周回遅れ
●ムラマツ サイド●
今日もショッピングモールでヒーローショーだ。
ありがたいことに、場所は俺の家の近い山陽小野田市。
俺はモールが用意してくれていた部屋で軽く打ち合わせをする。
「ムラマツさんがいるから、
本番中に何かトラブったら頼れ」
舞台監督と演出は、
俺の昔からの知り合いだ。
特に若手には俺に頼れと言い聞かせる。
「この人はベテランの中でも、
特に器用だし。
アドリブが効くほどガンバマンを熟知してる。
この前なんて、
怪人のスーツが舞台の上で壊れたのを、
別の怪人に変身した、って言うことにして
のりきったんだぞ?
後で聞いたら、実在の昔の怪人だって。
その怪人の初代の姿らしい」
その話は辞めて欲しい。
ひたすらに恥ずかしい。
あの怪人はガンバマンの中でもマイナーだ。
だが、初代のガンバマンの頃からいる怪人で、
俺がそうアドリブしたら親たちが大喜びした。
「すみません、お客様が」
部屋に若手のディレクターがそう言って入ってきた。
その顔は驚愕と混乱で、目が白黒してる。
「客?
誰だ?」
舞台監督がそう言って立ち上がると、
若手のディレクターを押し退けて女性が入ってきた。
彼女の顔を見た全員が驚いて、
誰一人声が出せない。
「おはようございます。
先輩、いますか?」
彼女の名前はハヤタ リン。
今をときめく、朝ドラ女優。
彼女は俺を見つけた瞬間、
さっきまでオーラがかき消えて普通の女性に変わる。
「あ、先輩。
挨拶に来たッス。
近くでアタシも撮影ッス。
よろしくお願いいたしまッス」
彼女はまっすぐ俺のところに来てそう言った。
話し方がテレビで見るものじゃなく、
昔俺の後輩としてスーツアクターをしてた頃のものになっている。
「あ……あぁ、お疲れ様。
ハヤタさん、なん……。
いや、挨拶か。
覚えてる?
舞台監督のホシノさんと、演出のイデさん」
「あ!
覚えてるッス。
その節はお世話になりました。
皆さんお元気そうでよかったッス」
女優が目の前にいる。
その現実があまりに受け入れられないのか、
若手たちは硬直したままだ。
舞台監督とディレクターはハヤタさんに挨拶した。
「いやぁ、今をときめく女優さんが、
こんなところにわざわざ」
「何言ってるんッスか。
ホシノさん。
アタシはここが出発点ッス。
大変お世話になったッス。
今も、気持ちはここにいるつもりッスよ」
ハヤタさんは何故か俺の胸を叩いて笑う。
舞台監督はそれ見て笑った。
「そりゃ嬉しいね。
君のドキュメンタリーとかするなら、
声かけてよ。
昔の映像、残ってるよ?」
「お、先輩を投げ飛ばすやつが良いッス。
アレ、渾身だったッス!」
「めっちゃ危なかったやつだから」
思わず俺がツッコミをいれる。
あのショーは本当に冷や汗ものだった。
「先輩が一人で飛んでくれるから、
アタシは手を添えるだけで投げ飛ばせるって話だったのに。
アタシがテンパって、
先輩のスーツをギューって握っちゃったんッス。
先輩、それでも一人で飛んでくれて。
かっこ良かったッス、アタシが!」
「お前がかよ」
思わず昔に戻ったように話してしまった。
何故かハヤタさんは嬉しそうに笑う。
「アタシのドキュメンタリーやるなら、
先輩は絶っ対っに先輩役で出るッスよ?」
「何年前の話よ?
俺、もう歳なんだけど」
「先輩、昔から老け顔だから変わんないッスよ?」
「一言。
一言多いって。
先輩、歳には見えないッスよ?、だけでいいから」
ハヤタさんはテレビで見せたことがないような、
お腹を抱えて大口を開けて大笑いしている。
「その顔はオフレコだろ」
「アタシが猫かぶってんの皆にバレバレッスよ?
別にバレても痛くも痒くもねーッス」
「朝ドラのイメージは?」
俺は頭をかきつつ聞く。
「アタシはどっちかってと、
アクション女優がやりたいんッスよ。
あぁ言う役はやってて手応えが感じにくくて。
全部終わって放送後に結果が出るから、
反省しづらいし」
ハヤタさんはそう言って唸る。
「アクションも似たようなもんだろ」
「アクションなら、
その場で失敗したか成功したか分かるッス。
アタシの中の先輩がOKだしたら、
成功ッス」
「その先輩、
何年アップデートしてないヤツだ?」
彼女が俺の後輩としてスーツアクターをしてたのは、
八年前。
彼女は約二年、
スーツアクターとして一緒に仕事をした。
当時から彼女の演技力とアクションのキレは素晴らしかった。
「今日、アップデートするッスか?
ガンバマン・ゼノムなら、
まだ行けるッスよ?」
「お前が出たら、
俺の役なくなるから。
つーか、お前テレビのガンバマンで出てたじゃん。
謎の美少女役で」
「アレ、三回ぽっちじゃねぇッスか。
アタシがガンバマンやりたかったッス。
アタシなら、
変身前も変身後も両方やれたッス」
彼女は両腕で力こぶを作るポーズをする。
俺はため息混じりに言う。
「羨ましいよ、まったく」
「本当はガンバマンに出るなら、
先輩と一緒が良かったんッス。
監督とか事務所にもそう言ったんッスけどね。
OK出なかったッス」
「嘘でも嬉しいよ」
そう言って二人で笑った。
「アタシの撮影は朝イチで一旦終わって、
午後は夕暮れのシーンまで暇なんッス。
ショー観て良いッスか?」
「一回目は14時からだぞ?
もう日が落ちるのも早いし、
観てから現場に戻って間に合うのか?」
「場所は徒歩で五分の近場ッス」
今日のショーは若手が張り切りそうだなぁ。
悪いことではないと自分に言い聞かせて、
俺は苦笑いした。




