第61話 遅い男
●??? サイド●
俺の名前は、ムラマツ。
今年で四十七歳。
性別は男。
十七歳からヒーローもののスーツアクターをして、
もう三十年。
年齢的にも、体力的にもそろそろ限界。
「大きな怪我なく続けてこれたのは、
幸いだったかな」
ヒーローになりたかった。
それが、俺の幼い頃からの夢だった。
「本日未明、
強盗殺人の疑いで、
ムラマツ容疑者が逮捕されました」
俺が七つの頃、父親が逮捕された。
強盗殺人の罪で。
他にもたくさんの罪を犯し、
判決は死刑。
「執行されたのが、十五年前。
俺は、結局解放されなかった」
警察官を志望しても。
消防隊員を志望しても。
自衛隊を志望しても。
防衛軍を志望しても。
父親の罪はついてきた。
希望は全て潰え。
なんとかヒーローらしいことを、と
飛び付いたバイトがスーツアクター。
どうやらこれが俺に向いていたようで、
それなりに名前も取ってきて。
テレビでヒーロー役ができれば、と思ったが。
「それでも、父親のことをあげられて」
結局、全国行脚のヒーローショー専門にされてしまった。
役は決まってないので、
ヒーローもやったし、怪人もやった。
「必死だ。
お陰で、独り身のままこの歳だ」
俺は一仕事終えて、
ショッピングモールの端の自販機で飲み物を買った。
「この歳になっても、
コーヒーは好きになれなかったなぁ」
手に取ったのはコーラだ。
いつも飲んでいる。
苦笑いしつつ、
ベンチに座ってプルタブを引き上げた。
「おや?
こんなところにおられましたか」
そう言って、老人が俺の方へ歩み寄ってきた。
老人はテレビのドラマやアニメでしか見たことがない、
茶色をメインにしたチョッキとチノパン姿。
しかし、背筋はピンとしており、
歩き方もしゃんとされている。
付け足して言えば、
歩く姿が格闘技をされているそれだった。
左右の足を前に出す際、身体の芯ぶれない。
「えっと、どこかでお会いしましたか?」
「ふふふ。
孫がさっきのヒーローショーの、
ガンバマン・ゼノムのファンで。
素晴らしいショーでした。
貴方の動きはヒーローそのものだった」
両手放しに褒められることがないので、
思わず面食らってしまう。
「いや、もうこの仕事は長いので」
老人ははげ上がった頭を撫でつつ、
続ける。
「そもそも、孫の父親。
私の息子が見ていたガンバマン・マークのころも、
貴方でしたよね」
俺はそうだと言いきれないが、
老人は確信をもって言いきった。
「たくさんヒーローショーを見ましたが、
貴方のガンバマンが一番ガンバマンだ。
テレビのそれより、ずっとずっと、素晴らしい」
自分の顔が赤面するのがわかる。
「あ、ありがとう、ございます」
「私はね、
なんか色々つく前のガンバマンのファンです。
あのときの動きですよね、貴方の動きは」
そう。
そうなのだ。
俺は絶対にこれだけは譲れなかった。
大好きな父親の、大好きだったガンバマン。
動きが古いとよく言われた。
これは、初代のガンバマンの時代のヒーローの動きだ。
ヒーローの動きは歌舞伎や普通のドラマとも違う。
かなり独特なものをする。
型があるが、それにも流行りがある。
時代で変わるそれを否定はしない。
もちろん、新しい方の動きもできる。
でも、俺がガンバマンの役をやるときだけは昔の、
初代の動きをすることを心がけていた。
それを指摘されて、止めるように言われたことはあれど。
褒められたのは初めてで。
三十年で、これほど嬉しかったことはない。
「やっぱりガンバマンは、そうですよね。
他の人は知りませんが、
私は貴方こそガンバマンだと思いました。
もし、よろしければ、
貴方のサインをいただきたく」
そう言って老人が差し出したのは、
初代のガンバマンのプレミアのついたメンコだった。
俺もファンなので、
それがどれだけ貴重か知っている。
「こっ、これ……」
「ぜひ、表に」
老人は満面の笑みでそう付け足す。
表に、とはガンバマンの面だ。
「……わかりました」
俺は震える手で、俺のサインをした。
「お、お名前は?」
「アサギさんへ、と」
涙で上手く見えないが、
俺はサインを書ききった。
老人はそれを受け取り、
大喜びして何度もお礼を言われた。
だが、俺もお礼を返す。
「むしろ、私がお礼を言いたい。
ありがとうございました!」
俺の人生で、初めて報われた気がした。
「これからも、頑張ってくださいね」
老人はそう言って立ち去った。




