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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
序章

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第7話 今起きている異変 ~陸~

 ヒロセの瞳は、

暗闇の中に光を感じた。


「……日が落ちたのか?」


 先に捕まっていた三人の言う通り、

ゆっくり月光が辺りを照らし出す。

 淡い光が広がってきて、

周囲の三人がざわめきだした。


「アイツら、今日も来るのか?」

「来るだろ。

じゃないと、俺たち飢えちまう」

「でも、あれって食べて良かったんですか?」


 三人の言う『アイツら』が異世界人だとしたら、

生け捕りした我々を見張るためにここに来るだろう。

ただ、三人は食べ物のことを話ている。


「薄暗いから、

結局なに食べてるか分からんかったな」

「味は美味しいんですよ。

何かは分かりませんけど」

「俺、イカとかだと思ってたんだけど。

もしかして、三人とも違うモノが出された?」


 どうやら、

アイツらは食べ物を持ってきて三人に渡すらしい。

 ヒロセはうっすら見え出した三人の容姿を観察する。

服装は行方不明者の三人と一致する。

三人の顔もぼんやりだが確認できた。

現在行方不明者として確認されている三人、

全員いる。

 ただ、ヒロセも含めて全員、

大きな鳥かごのようなものに入れられている。


「皆さん、ごきげんよう」


 突然ヒロセの背後から声がした。

ヒロセが振り返ると、

そこにはさっきまでいなかったピエロがいる。


「そして、特捜隊の方。

初めまして。

 貴殿方は物凄く優秀な集団だ、

と伺っていましたが……。

まさか、こんなに早くここまでこられるとは」


 ピエロがヒロセに歩み寄りながらそう言った。

ヒロセは笑顔で返す。


「初めまして、異世界の方。

ここはどこですかね?」

「ふふっ。

残念ながら、

貴方の身体に付いていた発信器は全て取り外させていただきました。

その上、その発信器を日本各地にばら蒔きました。

ここにたどり着くのは困難かと」


 ピエロが自信満々にそう言った。

だが、ヒロセの奥歯に仕込んだ発信器の存在は気付いていないらしい。


「そうですか。

それでも、そのうち仲間たちがここへ来るでしょうね」

「さすが、『不死身の男』と呼ばれるお方だ。

 合気道、柔術、『受け身の達人』。

大型トラックに跳ねられて無傷だったとか?

ヒロセ マコトさん?」


 ピエロがヒロセのフルネームを呼んだ。

彼らは異世界人の中でもかなりの情報を持っているらしい。


「おおっと、

私の名前がそこまで知れ渡ってるとは。

嬉しいような、驚いたような」

「本当に余裕がおありですね。

まぁ、良いでしょう。

 我々の目的は達成しました。

本当に最低限の達成率ですが。

この根城がバレた時点で逃げることにしていたのでね」


 目的。

ヒロセは険しい顔になる。


「こちらの世界の人間の誘拐。

そして、情報と肉体の略取」

「ご名答」


 ピエロが拍手をしてヒロセの答えを認めた。


「もっとたくさん捕らえる予定だったんですがね。

貴殿方の挙動が想定の倍以上速かった。

これだけでも、我々には良い情報です」


 ピエロがゆっくりヒロセの近くに歩み寄る。


「我々は、貴方たちの言葉にすると、

『商人』です。

異世界に繋がる穴から商品や情報を手に入れて持ち帰り、

売りさばく。

分かりやすいでしょ?」

「最新のものなら、なお良い、と?」


 ピエロが笑う。


「そうですね。

情報なんかは、特に鮮度が重要ですから」


 ピエロが両手を胸の前で合わせて揉む。


「欲張ると痛い目をみそうですので、

そろそろお暇いたしましょう」


 ピエロがそう言うと、

またどこからか他のピエロが現れた。

パフォーマーとして町いた五人だ。

 ヒロセの目の前にいるピエロと合わせて六人。

あの山の中のバンの搭乗者と運転手だろう。


「皆さんには、

こちらの世界についてきてもらいますよ」

「それは無理だろ。

いくら転移装置が凄くても、

こちらの生き物は連れていけないはずだ」


 異世界を跨ぐ壁のようなものは、

かなり厳しい検閲を行う。

特に生き物は通りづらくなっていると研究結果が出ていた。


「そうですね。

我々の技術でも世界を渡れるのは、

元々あちらに住んでいた私を含む六人だけ。

ただし、『生きていれば』、ですけど」


 捕らえられていた三人が小さく悲鳴を上げた。

ヒロセは舌打ちする。


「人間の死体を持ち帰るのか」

「死体でもこのように、

『着る』分には問題ないことが分かりましたし。

死体で十分な価値がありますよ」


 ピエロたちが一斉に笑った。

次の瞬間、爆発音が辺りに響く。

ピエロが慌てて声を荒らげた。


「どうした?!

なにがあった?!」


 周囲にサイレンが鳴り響き、

爆発音がまた聞こえる。

今度の爆発は近いところだ。

建物が激しく揺れる。

 鎖に繋がれている三人が悲鳴を上げる。


「そこまでだ!

見つけたぞ、異世界人!」


 拡声器で大きくなったミズノの声が響いた。

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