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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編二部 「紅」

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第58話 俺を慰めるやつはもういない

●ウチムラ サイド●


 どれくらいの時間このままなのか。

手足の痛みで気を失ったりして、

意識が断続的にしか続かないが。

俺はまだ生きている。

 寝転がる地面の感触は、

冷たく固い。

手のひらに振れる感触は、

コンクリートやアスファルトとは少し違う。

石は石でも、

つるりとしたキレイな断面の大理石や御影石とか。


「墓石だ。

墓を撫でてる感じだ」


 俺は声を出した。

だが、なにも帰ってこない。

両腕、両足は動かす度に激痛が走る。

 敵がいなくなり、

気が緩んで痛みが強くなってきた。

そのお陰で何度も気を失っている。


「これは、死ぬ」


 直感だが、助かる余地がない。

敵こそいないが、動けない。

それどころか、動くものは自分以外にない。


「渇いて死ぬか、飢えて死ぬか」


 おそらく、手足が無事だったとしても助からない。

ここがどこかを知り、

ここに俺をつれてきたアイツらは、おそらく死んだ。

今は何の匂いも気配もしない。


「このままじゃダメだ。

なんとかしなきゃ」


 ミアを幸せにする。

必ずミアを幸せにすると決めた。

だから、自分が死にかけていても関係がない。


「ミアは助かったはずだ。

花は散って枯れた。

虫と一緒に。

 後、今晩のデートが上手く行けば良い。

あの彼氏ならいい」


 そう言って、俺は試行錯誤を始める。


「……傷はなし。

出血は、内出血。

骨と筋が砕けたと思われる」


 内出血は、

両腕は手首より少し肘の近く。

両足は足首とふくらはぎの間あたりに痛みを感じる

おそらく、出血死はしないだろう。

 ただ、動くとマズい。

単純に痛いし。

内出血でも、出血だ。

量が多ければ死ぬ。


「あー。

声が通るから、空気はある。

風は吹かない。

生き物がいない。

鳥も獣も、

虫も植物もいない」


 動けないので見える範囲だが、

ホントに何もない。

何でも良いから、

食って飲んで生き延びたいが。

あまりにも望み薄だ。


「出口を探さなきゃ」


 絶望感はない。

してられた悔しさはある。

俺は空中に向かって声にして言う。


「ミアは俺が幸せにする。

俺が幸せでなくても、

俺がミアのそばにいられなくても関係ない。

ミアを幸せにすると決めた」

「なら、もっと早く帰ろう」


 声がした。

ミアの声だ。

だが、身体が動かず、

首を振って視界を動かしてもなにも見えない。


「幻聴か?」

「見えないの?」


 ミアはそう言うが、

俺には気配もなにも分からない。


「見えないよ。

黒い空と紅い地面だけだ」

「すごいよね。

本当に何もない」


 ミアもどうやら俺と同じ風景を見ている。


「ミアはどこにいるんだ?」

「ここだよ。

動けない?」

「手足がやられた。

身じろぎもできやしない」

「なら、急がなきゃ!」


 ミアはそう言っているが、

俺にはミアの声しか聞こえていない。


「持ち上げるよ。

少し痛いかもだけど、

我慢して」

「は?

持ち上げる?」


 首をもう一度振って周囲を見渡しても、

ミアは見えない。


「絶対、助けるから」

「ミアは逃げろ。

せっかく助かったんだ。

こんなところから、早く逃げろ」


 俺はそう言って笑う。


「その笑顔、止めなよ」


 ミアの声が悲しげだ。


「ずっとだよ。

キミはずっと、ずーっとその顔で笑ってる。

私、キミのちゃんと笑った顔を見たことがないだ」


 ミアはどこにもいない。

あぁ、やはりこれは幻聴だ。

なんとかしなきゃと、俺自身が作った幻だ。


「写真を撮るときも、

大学に入ったときも。

高校卒業のときも。

 小学生のころも。

キミはその笑い方だね」


 どんな笑い方を指してそう言うのか、

俺には良く分からないが。


「笑い方なんて、

人それぞれだろ?

その顔って言われても、良く分からないな」


 俺は空中へ向けて話す。


「なにも言わせない、聞かせない顔だよ。

質問もさせない、ゴリ押しの笑顔。

 そうやって一人でしょい込むの、止めなよ。

周りに助けてもらっても、いいじゃない」

「なに言ってんだ。

助けてもらってるよ。

 今だって、

会社は雇った代表取締役に任せてる」

「そう言うのとは、

違うんだよ」


 ミアはため息交じりにそう言って。


「いっ!」


 俺の身体に激痛が走り、

浮き上がった。


「浮いた?!」

「本当に見えないんだね。

私だよ、私」


 ミアの声が近い。

だが、やはりなにも見えない。

そして、俺の身体は宙を浮いている。


「ゼータさん、行くよ!

座標固定!

目的地点計測!」


 ゼータ?

ゼータって言ったか?


「転送開始!」


 ミアがそう叫ぶと、

周囲がまばゆい光に包まれた。

なにも見えないほどの強い光だ。

俺は思わず目を閉じた。


***


 光が収まって来たのをまぶた越しに感じた。

俺は目を細めて少しずつ開いていく。


「……青空?」

「おかえり!」


 ミアの声だ。

俺を抱えているその顔を見ると、

そこにいたのは。


「ゼータ・ディアスタシ?」


 ヒロセさんのときとも、

俺のときとも違うフォルムのゼータ・ディアスタシがいた。

 女性の身体だ。

紅色がベースで、

植物のデザインが彫られた西洋風甲冑。

顔はフルフェイスのヘルムでなにも見えないが、

笑っているのが何となく分かる。

 そして、空中でもんどりうって悶えてるゼータ。


「なんで!?

女性でもいけた?!

何が起きたの、ゼータ・ディアスタシ!?」


 ゼータはそう叫んで悶えている。

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