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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編二部 「紅」

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第57話 紅に染まった

●ウチムラ サイド●


 俺は周囲を警戒しつつ、

ヒロセさんとミアを確認する。


「とりあえず、

これで解決?

でいいの?

本当に?」


 長い間フラグで管理された繰り返しの毎日だった。

それが、突然終わった。

今まであった台本がなくなった。

本来の日常に戻った。

 だが、何の実感もない。

区切りと言うか、何もなさ過ぎて不安だ。


「まだ分からない」


 ヒロセさんも同じらしい。

警戒は解かない。


「ミアさんの身体は問題なし。

ウチムラさんも大丈夫。

二人とも健康体だ」


 ゼータはそう言って俺たちの回りを飛ぶ。


「周囲の警戒は継続。

ホテルに戻るか。

ミアさんも一旦ホテルに」


 そう言って、ヒロセさんは道を確認する。

俺も一緒に石段を見た。

びしょ濡れだが、上段から雨水は流れてない。

気を付けて歩けば転ぶことはなさそうだ。


「ゼータ、

ホテルに着くまではミアさんの所で警戒態勢維持。

ウチムラ君は先頭で自分の身を守ることに注力。

しんがりは俺が」


 俺たちはヒロセさんに向かってうなずいた。

そして、一瞬。

一瞬だけ、俺は二人から少しだけ離れた。

六歩か七歩くらいだが、距離ができた。


 その瞬間、

崩れた建物の影から何かが飛び出して俺に襲い掛かった。


 大型犬くらいの大きさだ。

俺はとっさに飛び退いたが、

それは蔦のような触手のようなものを伸ばして、

俺の手足に巻き付いた。

 さすがに巻き付いたものを受け流せない。

腕力がないので引き剥がすことも、

本体を地面に叩きつけることもできず組みしかれる。


「ウチムラ君!」


 トラックの運転席のような見た目の虫に、

植物のカスが絡まったいびつなものだった。

 ヒロセさんは俺に近寄ろうとしたが、

俺の首に触手が巻かれたのを見て立ち止まる。

人質のつもりか。


「てめぇら、

土壇場で合体したのか?」


 ヒロセさんに負けたトラックの化け物と、

俺が焼いた植物が合体したらしい。


「追い詰められないと協力できないか!

無様だな!」


 あおる俺の顔に、

怒りを露にした顔と花弁がないおしべむき出しの植物が近寄る。


「おま、……。

オマエさえ、イナケレバ」

「やってみろ、化け物ども」


 俺は迷わず、

触手に噛みついた。

口いっぱいに吐しゃ物のような味が広がり、

不快だ。

 化け物は苦しむ。

俺はそのまま首の触手を噛み千切った。

 苦しむ化け物は、

俺の手足に残っていた触手を締め上げる

俺は手足の触手が骨を砕く音を聴きながら、

顔は笑う。


「甘いんだよ、ミトコンドリアが!」


 骨がなくとも、肉がなくとも。

俺が俺として存在する限り、ミアを幸せにする。

 だから、俺は思い切り化け物に頭突きを食らわせた。

その瞬間、世界が暗転した。


「なんだこれ?」


 化け物の姿は突如として消えた。

手足が砕けて上手く動けない俺は、

なんとか身をよじって辺りを見回す。

 空が黒い。

夜や曇りと言うわけではない。

漫画のベタや墨汁をこぼした半紙のような黒さだ。

 そして、地平線まで広がる紅。

花は咲いていない。

植物もなにもない。

土すらない。

地面らしきものが一面紅い。


「どこへ飛ばした?

お前ら、いるんだろ?」


 俺がそう言うと、

さっきまでなにもなかった所に化け物が現れた。


「オマエ、さえ、イナケレバ」

「うるせぇ。

お前らが襲ってきたんだろうが」


 俺はもうまともに動けないが、

化け物たちを睨み付ける。


「ココハ、ドコでもナイ。

可能性ガナイ。

虚無」


 ご親切に説明が始まったようだ。


「ワレワレは、ここでヤスム」

「休む?

俺をつれて来て、

そんなのんきなことができるとでも?」


 まともに動けないことはきっとバレている。

だが、虚勢は張ることに意味がある。


「好きニシロ。

オマエ、ココ、デレナイ」


 ……コイツらが俺に協力しないと、

ここから出られない、ってことか?


「ははははは。

デレナイ。

デレナイ」


 化け物はそう言って笑う。

笑いながら、化け物の身体がどんどん崩れ始めた。


「おま、休むって!

死ぬってことか!?」

「ははははは。

デレナイ。デレナイ。」


 化け物め。

俺を道連れにしたのか!

笑いながら、虫と植物は崩れ落ちて行く。


「ははははは」

「バカが!

こんなところ、すぐに出ていってやる!」


 俺はそう言いきった。

何の根拠も何もない。

手足は砕けて動けない。

 その上、

ヒロセさんとゼータの助けが来るかも分からない。

だが、このまま死なせるのはシャクすぎる。


「お前らの浅知恵ごとき、

どうとでもできるわ!」

「はは……、は……、はは……」


 化け物は笑って消えていった。

黒と紅の世界に、俺一人残して。


「……ホントに死んだのか、アイツら」


 信じられないが、

気配もなにもなくなった。

 俺は痛みをこらえて、もう一度周囲を見回す。

どこまでも地平線まで、紅。

建物のどころか何もない。

 空は黒一色。

鳥も虫すら飛んでない。

風も吹かない。


「こりゃ、参った」


 さすがに降参だった。

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