第56話 一人舞台
●ウチムラ サイド●
ビルはなかなか燃え落ちない。
気付けば、
さっきと異なりビルの中は迷路のように入り組んでいる。
「昔の記憶とは言えど、
絶対にこんな建物じゃなかったぞ。
何かしてるな、植物どもめ」
俺は紅い炎を上書きするように、
拳の青い炎を撒き散らす。
「閉じ込めたつもりか?
お前らごと全部焼いてやる!」
俺は出口ではなく、
花の生き残りを探して歩く。
そう言えば、
俺はこんなに移動して良かったのだろうか?
今更ながらに不安になってきた。
「ゼータ、変身できたから俺の声は聞こえてるはずだ。
俺は大昔の記憶の世界にいる。
しかも、花が人に擬態して襲ってくるんだ。
そっちはどうなってるか、気になるけど。
ヒロセさんがいるならなんの心配もないな」
俺は立ち止まって、
何もない空中に向かってそう言った。
これでいくらかは伝わるだろう。
だが、返事はない。
「すまんな。
やっぱりそっちからの声は聞こえない」
そして、俺はまた歩きだす。
ひとまず不安は払拭したので、
鼻歌交じりで花を探す。
「植物ども、覚悟しろ」
目の前に人影が現れた。
花の香りがする。
だが、その姿は炎に巻かれ苦しむミアだった。
「一線超えたぞ、植物ども!」
それを見た俺はぶちギレて、両手の火力をあげた。
青い炎がどんどん周囲を燃やす。
そして、ミアの姿の花を殴りつけた。
まばたきより早く、周囲の風景が変わった。
目の前には一面の菊の花。
白と黒の装飾。
そして、大きく飾られた遺影と、
それに向かって読経する坊主頭。
「……葬式?」
遺影にはミアの父親。
周囲からすすり泣く声と嗚咽が聞こえる。
誰も彼も黒を基調にした服装を着て、
うつむいている。
だが、ゼータ・ディアスタシを着た俺が
葬式のど真ん中にいるのに誰も驚かない。
誰も俺の存在に気付いてる様子すらない。
「……植物ども、
ミアから記憶をうばったのか?」
なんとなく直感だ。
あまりにも細かく再現された葬儀。
本当にミアの記憶を切り取って再現したようだ。
「てめぇら、
同じ日を何度も繰り返す代わりに、
記憶を切り取って奪ってんのか?」
確証はない。
だが、激しい怒りが込み上げる。
ミアの父親の記憶だ。
悲しくても、大事な大事な思い出だ。
「おまえが殺した」
いつの間にか足元に少女が立っていた。
それは、いつかのミアだ。
「おまえが、殺した」
泣きながらミアが言う。
いつの間にか、俺も子供の姿になっていた。
「おまえが……、殺した!」
泣くミア。
だが、次の瞬間ミアの顔は驚愕に歪む。
当たり前だ。
俺は笑っているから。
「そう。
そうだとも。
俺が殺した」
俺は満面の笑みで肯定する。
「良心のかしゃく?
後悔と自責の念?
アニメやドラマじゃあるまいし!
そんなもの、あるわけない!」
植物がいっぱしの知恵を付けやがったみたいだが。
いささか、人間をなめている。
「そうだとも!
俺が殺した!
だからどうした?!
過去は変わらない!
変えられない!
それが『当たり前だ』!」
ミアの顔は徐々に恐怖に変わる。
「そんなこんなを、
全部含めて飲み込んだから!
俺は今、ここにいる!
今の俺が!
ここにいる!
ミアを幸せにするために!
ここにいる!」
半端な罪悪感から逃れるためにやってない。
俺は心底、全身全霊で、ミアを幸せにすると決めた。
「ミアの父親以外にも山ほど殺してる。
数えてないが、数十人は死んだ。
麻薬をヤクザから盗んで、
半グレの隠れ家に隠して。
クソみてぇな先輩と半グレどもを、
警察にたれ込んで。
その結果、
半グレの半分はヤクザに殺された。
ちゃんと俺が死んだことを確信したから、知っている。
クソ先輩はまだ獄中だが、
出所と同時に棺へ直行なのを理解してて。
今は刑期を伸ばすことに必死だそうだ。
悪人? 人殺し?
だから、どうした!」
ミアがどんどん後ずさっていく。
俺は更に笑顔を深める。
「甘いんだよ、植物。
人間の業を理解したつもりか?
業ってやつは!
もっと深く! 暗く! 黒い!」
ミアが腰を抜かして、
地面に尻餅を着いた。
「俺はミアの父親を殺した。
だから、なんだ?
言ってみろ!」
破綻した理論に正論なんて効かない。
効くはずない。
あまりにも『遅すぎ』だ。
ミアの姿をした花は怯えきった様子で、
首を激しく横に振る。
俺は大きくため息をついた。
「燃え尽きろ、植物。
お前なんか、チリにすらさせない。
原子まで分解させてやる!」
俺の両手が白く輝く。
あまりの熱で周囲から空気がなくなる。
息苦しさはない。
だが、植物には効果てきめんだ。
喉を押さえたミアが枯れてしおれた花に変わった。
そして、花は燃えて。
燃えカスとチリすら燃えて。
消えていく。
視界も周囲も真っ白に染まって行く。
「ウチムラさん!
ストップ!
それ以上の発熱はマズい!
ヒロセ君やミアさんも巻き込む!」
ゼータの声だ。
近くで聞こえる。
花の香りはしない。
だが、念のため確認をする。
「ゼータさん、
一部だけオレンジ色が剥げてますよ」
「えぇ!
どこが?!」
ゼータはぬいぐるみの依代がお気に入りだ。
こう言えば身体中をまさぐって確認し始める。
おぼろげにゼータが見えた。
どうやら、
くるくる回って自分の身体を確認してるようだ。
「どうやら本物だな。
止めますよー」
俺はそう言って発熱を止めた。
視界が徐々に戻る。
周囲の紅い花は真っ黒に焦げて散っていく。
ゼータの姿がはっきり見えた。
少し離れたところに、
ぐちゃぐちゃになった金属の残骸が見える。
トラックだったものだろう。
「やっぱり見た目も能力も変わってる!
なんで?!
なんでさ!?」
ゼータは俺の着ている黒いゼータ・ディアスタシを見て、
驚き騒ぐ。
いつの間にかもとの姿に戻っていたようだ。
「二回目だよ!?
もう確定だ!
ヒロセ君が着たときと、
他の人が着たときとで全く別の装備になる!
そんな風に作ってないのに!」
空中で悶絶するゼータ。
とりあえずこっちは置いておいて、
俺はヒロセさんとミアを探す。
「こっちだ!」
ヒロセさんの声だ。
そちらを向くと、
ミアとヒロセさんがこちらに向かって小走りしてくる。
「ゼータさん、落ち着いて」
合流するや否や、
ミアはゼータをなだめ始めた。
「……もしかしなくても、
ミアってゼータのこと見えてる?」
「どうやら、
彼女もウチムラ君と同様にゼータとシンクロ可能らしい。
さっき聞いたんだけど、
過去時間軸で俺とゼータとミアさんの三人でウチムラ君を助けるパターンもやったことがあるそうだ」
ヒロセさんが苦笑いしつつそう言った。
「嵐は止んだ。
ウチムラ君はゼータ・ディアスタシを解除してくれ。
ゼータ、
ミアさんに入って一応警戒してくれ」
ヒロセさんがてきぱき指示をくれる。
俺はゼータ・ディアスタシを解除した。




