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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編二部 「紅」

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第55話 記憶の吐息

●ウチムラ サイド●

 燃え盛る炎。

鼻いっぱいに広がる熱風。

息苦しい。

 そして、見覚えのある光景。


「……なるほど、なるほど。

ここは、俺の過去か?」


 燃え盛るビルの中。

見覚えのあるゴミの山。

そして、窓から見える外の風景は、

ミアの父親が俺を助けて死んだあのビルだ。


「記憶を再現、再演?

どっちでもいいか。

お前らを潰して焼くのに丁度いい」


 あの火事以来、俺は火が怖い。

だが、あの何万と言う繰り返しのお陰か、

もうどうにも思わない。


「助けて!

誰かぁ!」


 耳に入る俺の声。

ただ、今の俺の声じゃない。

昔の俺の声だ。


「助けるわけねぇんだわ。

あれは、ここで焼け死んで当然の男だ」


 俺はそう言って花を探す。

ふわりと花の香りがしている。

近くにいる。

 よく見ると燃え上がる炎の中に紅い花が咲いていた。

炎からは熱を感じるが、

花は何故か燃えない。


「そうやって隠れて、

何をしたい?

何を見てる?」


 そう、花は何かを見ているようだ。

俺か?

そうだとしても何故?


「突入!」


 下からそう聞こえる。


「……消防士?

ってことは……」


 俺は炎を突っ切って階段の方を見る。

下には、消防士たちが見える。


「ミアの父親だ」


 生きている。

彼はまだ生きている。

だが。


「何が目的だ?

これ、俺にミアの父親を助けさせようとしてるな?」


 もう、俺にそう言うのは効かない。

俺はもう決めている。

ミアを幸せにすると、決めている。


「俺はミアを幸せにできるなら、

他はどうでもいいんだ」


 そう。他はどうなろうが知ったことじゃない。


「だから、俺はヒロセさんたちの仲間にはなれない。

俺はヒーローじゃないからだ。

 誰も彼も助けるわけない。

ミアが困ってたら、迷わずそっちに行く」


 いまここでミアの父親が助かるならまだしも。

だが、助からないことはもう知っている。

どうせ、またこの日を繰り返させる気だな。

 俺はどちらかと言えば、悪役だ。

ミアのためならどんな手段もとる。

迷いはない。


「でも、今はヒロセさんたちのとなりにいる。

だから、お借りします」


 俺は知っている構えをとる。


「変身!」


 変身ポーズを決めても何も聞こえない。

だが、この声はゼータに届いたようだ。

俺の身体か輝き、作り替えられる。

 光が収まり見下ろした自分の姿は、

以前借りたゼータ・ディアスタシの見た目じゃない。


「なんだこれ」


 黒をメインにしたカラー。

肩とかあちこちからねじれて尖ったトゲが生えてる。


「はっはっはっ!

悪役だ!

こりゃ、悪役だわ!」


 顔に手を当てると、

鬼のような角が額から二本生えているのが分かる。

自分の顔は見えないが、

多分恐ろしいものになってるはずだ。


「いいねぇ!

煉獄だ!

お前ら全員、

八大地獄へ突き落としてやる!」


 俺は炎の中の花を睨んだ。

紅い花は怯んだように縮こまる。

 俺は迷わず炎に手を突っ込んで花を握り、

引っこ抜く。

すると、断末魔の叫びなのか、

花は女性のような子供のような絶叫をあげた。


「うるせぇんだよ!

泣くなら始めからケンカを売るんじゃえねぇ!」


 俺は強く花を握る。

すると、花が燃え上がり悶え苦しみだした。

 よく見ると俺の両手が燃えている。

青い炎が燃えているが、俺は熱さを感じない。


「はっはっはっ!

いいねぇ! いいねぇ!

燃え尽きろ、花!」


 俺は目についた花を片っ端から抜いて燃やした。

花が巧妙に隠れているが、

俺より悪知恵が働く訳じゃない。

炎に巻き上げられているためか、花の匂いもする。

俺は次々に見つけ出して燃やす。


「誰だ?!」


 声がした方を見ると、

消防士たちが俺を見ていた。

俺は手を振って。


「もう手遅れだ、お前ら逃げろ」

「な、なんなんだ?」

「はっはっはっ!

見て分かるだろ?

鬼だよ」


 俺は笑いながら炎の中を突き進む。

花は逃げるように炎の燃え盛る方に生えている。

ゼータ・ディアスタシを装備した俺には、

燃えてようが関係ない。


「見つけたぞ!」


 何故か炎の中に、

ゼータ・ディアスタシがいる。

声もヒロセさんの声だ。


「これ以上好きに……っ!」


 俺は迷わずそいつの顔面を殴った。

殴れたので、間違いなくヒロセさんじゃない。

偽ゼータ・ディアスタシは、

頭が燃えあがり悶え苦しんでいる。


「ヒロセさんに対する理解度が低い。

俺の記憶から呼び出したにしても弱い。

 今この時代のヒロセさんを呼んだ、

にしても弱いぞ

十何年前とかなら、

ヒロセさんはもうヒロセさんだぞ?」


 確証はないが、気づいたことがある。


 俺は立ち上がろうとした偽ゼータ・ディアスタシを、

思い切り蹴り飛ばす。

それは壁をぶち抜いて隣の部屋にいった。

 そこには、消防士に抱えられた俺がいた。

今まさに天井が落ちそうになっている。

そして、消防士のミアの父親が俺を投げる。


「逃げろ!」


 そう言うミアの父親を俺が突き飛ばす。

仲間の消防士たちがいる方へ。


「そんなの、見捨てろよ」


 そして、俺は落ちてきた天井を受け流す。

こんなもの、生身の俺でもノーダメージだ。

そして、子供の俺に近寄って消防士から奪う。

 真っ青で震える子供。

もちろん、俺だ。

その子供の首根っこをつかんで、吊るす。


「そもそも、

コイツが落ちてたライターで遊んでたのが原因だろうが」


 子供はさらに青ざめる。


「そんでもって、

そんな演技いらねぇんだよ」


 そう言って俺は俺を燃やす。

子供の俺はあり得ないほどの大声で叫んだ。

さっきの花を抜いたときと同じ声だ。


「そら見たことか。

植物の癖に人に化けてやがる」


 燃える子供の姿があっという間に縮んで花に変わり、

燃えていく。

消防士たちはその光景をみて呆気にとられている。

 気づいたこととは、匂いだ。

燃え上がる炎の焦げ臭さに紛れて、

花の香りがする。

 偽ゼータ・ディアスタシも、

偽の俺も花の香りがした。


「お前らは、人間か?」


 花の香りがするのは、

どんな見た目であれ敵だ。

俺はそう定義して、

消防士たちへ駆け寄る。

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