↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編二部 「紅」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/116

閑話 白昼夢

●ウチムラ サイド●


 俺の昔の頃。

小学生だった時に同じクラスになったのが、

ミアとの初対面だ。


「バカみてぇにへらへらしてんじゃねぇ」


 そう言って、

俺はミアをバカにしたのがファーストコンタクトだ。

 幼いながらにミアに惹かれていた俺は、

彼女を無意識に目で追って。

彼女と目があったら暴言を吐き。

時には暴力も振るった。

 当時の俺は親父の暴力と母親のネグレクトもあり、

大変荒れていた。

授業をまともに受けず。

暴れて、ものを壊して。

ミアのみならず、たくさんの人を傷つけた。

親のせいにするつもりはない

俺のせいだ。

 ある日、

俺にはいつも学校帰りに逃げ込む隠れ家があった。

廃ビルだが、

入り口に子供一人通り抜けられる穴が空いていた。

 そこには、

捨てられたゴミや雑誌。

不法投棄の家電ゴミが捨てられている。

そこは夏は虫がいるが涼しく、

冬はダンボールの山に入れば暖かかった。


「なんだこれ」


 ぽい捨てされた、たばことライターだった。

小学生のバカな俺は、

たばこを吸ってやろうと、

残っていた一本を咥えてライターを近づけた。

 本来ライターは子供一人で火が着かないように、

火打ち石がロックされていたりするが。

このライターが壊れていたようで、

当時の俺でも簡単に火が着いた。

簡単にすごく大きな火が着いた。


「うわぁ!!」


 驚いた俺はライターとたばこを取り落とした。

そして、それは火が着いたままゴミに落ちて。

燃え上がった。

 一瞬だった。

瞬きを二回したら、もう火の海の中だった。


「助けて!

だれか!」


 泣き叫び、

助け呼ぶ俺は生まれて初めて『死の恐怖』を感じた。


「おい!

いたぞ!」


 重装備の消防士がホースを手に俺のところまで来てくれた。

たくさんいた一人が俺のところまで来て。


「もう大丈夫だ」


 その一言で俺はどれだけ救われたか。

だが、そのつぎの瞬間。


「不味い!」


 ビルの天井が崩れてきた。

目の前にいた消防士は、俺をボールのように抱えて仲間の方へ投げた。

仲間の消防士が俺を受け止めたが。


「逃げろ!」


 そう言って、あの消防士は天井の下敷きになった。

その瞬間をつぶさにみていた俺は、

今でも忘れない。

あの人は最後の最後まで俺を助けてくれようとした。


 あの人は、ヒーローだ。


 助けられた俺は、

その件がきっかけで両親の問題が露になり。

近くの親戚に引き取られた。

 そして、久しぶり学校へ登校したら。


「久しぶり。

元気になった?」


 そう言って笑うミアの顔は、

以前までの『バカみてぇ』な顔じゃなかった。


 この笑顔を知っている。


 俺はこの笑顔をよく知っている。

これは笑ってるんじゃない。

親父と母親が俺を連れて外に行くときによくする笑顔だ。


 周囲の人に心配されないようにするための笑顔だ。


 後で知った。

あの日、あの時俺を助けて死んでしまった消防士は、

ミアの父親だった。

 俺はとんでもないことをしてしまった。

後からどれだけ自分が愚かで。

それのために人が死んだことに実感を得た。

俺は毛布と枕に顔を埋めて、大声で何日も泣いた。


 全ては俺のせいだ。


 だから、決めた。


 俺は必ず『彼女』を、ミアを幸せにする。


 俺のせいで不幸のどん底にいるミアを、

幸せの最高潮にする。

そう決めた。

それが俺の生きる、生き残った意味だ。


 例え、俺がどうなろうと。

おれ自身が幸せであろうがなかろうが。

必ず、必ず、ミアを幸せにする。

 決めたら、後は実行するだけ。

そこはからはなんの問題もなかった。

突然頭がさえわたり、いろんなものが見えてきた。

 俺は『大人しくなったがやんちゃな男子』を続け、

ミアを影に日向に幸せにする。

 女子間のギクシャクや、

片親になったせいで受ける色々なものを俺はなんとかしていった。

 女子は以前の俺を知っているから、

俺の存在を感じれば大人しくなった。

参観日や父兄参加の行事は、

親がいなくなった俺が注目されることでミアを隠した。


「ミア、制服似合うじゃん」

「あはは。

ブレザーって、良いね。」


 俺はミアと同じ中学に入り、

今度は『お調子者の三枚目男子』になる。

 女子間はもう派閥がガチガチになっていたので、

それとなく一番穏便な派閥へ行くように仕向ける。

 色恋の問題も出てきた。

先輩に告白された、とミアから聞いて、

その先輩を調べた。

先輩は三年で既に高校進学を決めている人だった。

二人の接点が無さすぎるので詳しく調べると、

案の定黒だった。

 先輩は半グレのメンバーで、

資金稼ぎの違法ポルノを作っていた。

先輩は顔は良いので、

お付き合いした女性を依存させたり、

騙したり脅したりして無理やり『女優』にしていた。

ミアはその標的になっていたのだ。

 ミアが告白されて返事を保留した一週間後に、

先輩は半グレたちと共に逮捕された。

罪状は麻薬所持。

しかも、かなり大きなヤクザから盗んだ麻薬だったので、

逮捕されたと同時にヤクザからも恨まれ、

半グレは組織ごと壊滅。

 麻薬入りのトランクを運ぶのと、

俺の指紋や証拠を隠滅するのに苦労したが、

上々の成果だった。

 先輩は主犯ではなかったが、

俺がでっち上げた証拠で主犯の一人として重い懲役をくらった。

ミアはショックを受けていたが、

周りに巻き込まれなくて良かったと慰められすぐ立ち直った。


「同じ高校か。

キミは思ってるより頭が良いんだね」

「バカですよーだ。

ミアは余裕で合格だったんだろ?」


 俺はミアと同じ高校に入った。

そこでもやることは変わらない。

『ひょうきんだけど何を考えてるか分からない陰キャ寄りの男子』になり、

影に日向にミアを幸せにする。


「写真家になる。

私の撮った写真で、

ここを一番有名な観光地にする」


 尾道はミアの父親の地元で、

彼女の大好きな街だ。

それを写真で撮って、

たくさんの人に良さを伝えたい。

ミアはそう決めた。

 そこから、俺は写真について調べる。

そもそも写真家と言うのはピンからキリまで幅広い。

町の写真屋さんで、人を撮影するのも写真家だし。

戦場にヘルメットを着けてカメラを持って撮影するのも写真家だ。

 彼女の言う写真家に彼女をするならば、

何がいるのか。

どうすれば良いのか。

 俺は大学はわざと関東、東京の辺りの大学を受けた。

有名な写真家になるには、コネクションが必要だ。

俺がそれになる。

そうすれば、ミアは写真家になる。

そして、ミアは幸せになる。

 大学に入ってすぐ俺は起業した。

コネクションを作るためだ。

手広く、でも大きく稼がない。

継続を目標にした経営で、うまく行っていた。


「彼氏ができた?」


 ミアからそう聞いた俺は少し焦った。

中学の一件以来、

色恋から距離を取っていた彼女が彼氏を作った。

 俺は軌道に乗っていた事業を人に任せて、

その彼氏を調べた。

彼氏は今時いるの?、と聞きたくなるほど良い人だった。

難点がないのが難点なくらい。

見た目は中の上より。

中肉中背。


 この人だ。

この人なら、ミアを幸せにする。


 だから、

初めてのデートは成功してもらいたい。

そう思って俺は久しぶりに故郷に帰ってきた。


「なんで……」


 そして、目の前でミアはトラックにひかれた。

即死だったそうだ。

 俺は絶望の中、ホテルで呆然としていると、

深夜零時。

どんな強い酒を飲んでも酔えず。

グシャグシャの部屋とベットの真ん中で寝転がっていると。


「は?」


 突然朝になっていた。

飲みすぎて気を失ったのか、と思ったが、

部屋が綺麗になっている。

 さすがに人がいるのに清掃員が来たとは思えない。

スマホを見ると、日付が変わっていない。

しかし、時間は朝の八時半になっている。


「夢……だったのか?」


 俺は呆然として、

でもあの場所に向かう。


「夢じゃない!」


 やはり、ミアはトラックにひかれた。

やはり、即死。

だが、妙な確信があり俺は深夜零時を待った。


「やっぱりだ」


 また、零時になった途端、朝日が窓を照らす。

スマホを見ると日付は変わっていない。

時刻は八時半。

 何の継ぎ目も何の感覚もなく、

時間が巻き戻っている。


「タイムリープ?

いや、なんでもいい。

なんだっていい!

 ミアは、助かる!

絶対に助ける!」


 そこから、

俺の長い一日が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。