第50話 紅涙
分かっているルールのようなもの。
これらを並べて、実際俺が見たものを重ねる。
「やっぱり、おかしいね。
ウチムラさんの回避した事件や事故はなかったことに。
でも、
ミアさんの死んだ事故はニュースに大きく取り上げられてる」
ゼータは俺のスマホを操作して詳しく調べる。
「ほら、猫の細道の近くで崩れた足場。
このSNSの写真に見きれてるの、多分そこだ。
投稿は事故の後。
偶然写ってる他の人のスマホ画面を拡大すると、
日付と日時は落盤事故の少し前。
あの何事もなかったように足場があって、
作業員の方が作業してる」
ゼータは車の追突したコンビニが写り混んだSNSの投稿も見つけた。
これも、撮影時刻は落盤事故の近くだ。
「さすがにトラックと塀は探せなかったけど、
たぶん何事もなかったことになってると思うよ」
これは確定か?
『ミアさんの死を回避するウチムラ』じゃない。
『ウチムラの死を回避するミアさん』。
「これ、むしろ、同時進行かも。
お互い気付かずに、
『ウチムラさんはミアさんの死を回避しようとして、
同時にミアさんはウチムラさんの死を回避しようとしてる』」
ゼータの言うことがそうなら。
「それじゃ、
簡単には成功しないじゃないか?
ウチムラ君はミアさんを助けるためにフラグを管理する。
でもそれは、同時にウチムラ君のダメージになる。
ミアさんはそれを回避したい。
でも、それを回避するとミアさんは命を落とす」
ややこしくなってきた。
この繰り返しは、十年そこらで終われる気がしない。
俺にはこの繰り返しを全て認識していないから平気だが。
それを十年以上全て認識してるウチムラはどうだ。
正気を保っていられるのか?
同じような状態のミアさんは?
ゼータはなにか気づいた顔をする。
「もう、成功には第三者が必要だ。
ミアさんとウチムラさんの両方を知ってて、
繰り返しても対応できる。
そんな人がいないと、
この繰り返しは終われない」
ゼータはまた、ホワイトボードのようなものを出した。
そこには何も書かれていない。
「ねぇ、ヒロセ君。
今までの私たちがこの結論に至らなかったと思う?」
「……どれくらい繰り返してるか分からないけど、
俺たちなら数回で気付けそうだ」
俺たちは十年間の防衛軍での生活で、
かなりの場数を踏んでいる。
その経験則から見ても、
以前の俺たちが同じ結論に至らなかったとは考えづらい。
「なら、何故同じようなメッセージを残し続けてる?
ゼータなら、あらかじめ情報をうまく処理して。
しかも、ルールについても気付くように仕掛けるだろ?」
「いや、それはダメなんだ。
それじゃぁ遅い。
八時半に、
ウチムラさんと同じタイミングに動けないとダメだ。
このメッセージは、
ウチムラさんに繰り返しの話を聞いてから確認する。
それじゃ、遅すぎる」
ゼータはホワイトボードに今朝の出来事を書き連ねる。
俺が喫茶店でウチムラを待ち、
ウチムラは駆け足で部屋から一階へ降りてきた。
「ここで、ウチムラさんは一回外に出るんだ。
ちょっと待ってて、と言い残して。
これより前に行動したい。
ウチムラさんのフラグ管理を阻止して、
代わりに管理するにはそれしかないと思う」
なるほど。
しかも、
その辺りのフラグ管理に何をしていたのかも知りたい。
ゼータは頭を抱えながら話をする
「ヒロセ君。
この繰り返しの世界で、
おそらく人間など知的生命体が引き告げる記憶って、
何がある分かるかい?」
「さっきのゼータ・ディアスタシのスーツのメッセージだろ?」
「ううん、違う。
おそらく、『小脳の記憶』は残るよ」




