第47話 紫紅の彼女
傷は数十分なんて短時間で塞がらない。
だが、ウチムラは立ち上がって、
自分の身体を確認する。
「動いちゃダメだ。
出血は止まったけど、
骨もやられてるはずだし。
打撲は見えない内臓を傷つけてる可能が高い」
「大丈夫。
このループの間は俺は死なないんだ。
朝のトラックもはねられたら入院するけど、
命に別状なかった」
ゼータは、
もう一度保存されていた過去のループのデータを見ている。
いつのまにか、
ゼータ・ディアスタシからデータをコピーしていつでも閲覧できるようにしたらしい。
ゼータは、気付いたことを話し出した。
「このデータ、『一部だけ』抜けてる。
容量が足りなくて入らなかった、じゃない。
さっきウチムラさんが話してた、
誰かが傷つくルールと、
『彼女』が尾道から出られないルールなんて、
私なら絶対に残すデータだ。
それが、どこにも残ってない。
『意図的に抜かれてる』可能が高い。
さらに、ウチムラさんがゼータ・ディアスタシに
『データを残せる』ことを知らないなんて、
ありえないよ。
私たちがウチムラさんに言わないはずないもん。
『ウチムラさんも完全に記憶を引き継げない』かもしれない」
後から後から、
嫌な情報しか出てこない。
俺は思わず顔をしかめた。
「ヒロセさん?
大丈夫?」
「あ、あぁ。
それより、
急いで商店街の方へ戻るんだろ?
俺が君をおぶって行く方が早い。
気にせず乗っかってくれ」
「ありがとう」
ウチムラにゼータの言っていたことを伝えたとしても、
次のループにその記憶が残らない可能がある。
から、四の五の言わずに情報を集める方がいい。
俺はそう判断して、
ウチムラを背負って商店街の方へ歩き出す。
俺は背中のウチムラの傷を気遣いつつ、
最速で走る。
緊急時だと割りきって、
石階段ではなく家の塀、屋根を飛び越えて駆け抜ける。
「ははっ。
まるで猫だね」
「この辺の猫は皆、俺の友達だ」
「マジか。
いいなぁ」
ウチムラはぼんやりした口調だ。
恐らく傷は重傷レベル。
かなりヤバイ。
今すぐ医者にみせるのがいいのだが。
「この先のコンビニだ。
さすが、早いね」
「今、十三時三十一分。
時間までそこのベンチで休むか?」
「ううん。
時間になってなくても、
俺がコンビニに行ったら車が来るんだ。
これは、受け身とっても良いみたい。
俺は少しホッとしたが、
今のウチムラは重傷だ。
この状態でどこまで受け身がとれるのか。
「早く終わらせて、次に備えないと。
次は本当に何が起きるか分からない。
いろんな事件や事故が起きるから、
何がフラグかも分からないんだ」
だが、ウチムラは俺の背から降りてコンビニに向かって歩き出す。
「待った。
その身体で受け身は無理だ。
俺も一緒に行くのは問題あるか?」
「ありがとう。
これも俺一人じゃないとダメなんだ。
ヒロセさんには、代わりにお願いがある。
ミアが近くを通ったら、
なんでもいいから声かけて止めて欲しい。
たまに、あるだ。
時間より早くミアがここに来て、
俺と一緒に事故に遭うことが……。
って、いるし」
ウチムラが向いた方に、
例の『彼女』ことミアさんが見える。
「ヒロセさん、任せて良い?」
「話……と言ってもなぁ」
以外に難しいことを言われた。
色々知ってしまってる手前、
いつもみたいに何も知らない人との感じで話がしづらい。
俺はとりあえず、
ミアさんへ向かって歩き出した。
すると、ミアさんが俺を見て何故か駆け寄ってきた。
「あ、あの!
これ、貴方ですか?」
彼女が手に持ったスマホの画面を俺に向けた。
そこには、猫に囲まれた俺が写っていた。
「あ。
そう、俺がイーハトーブで福猫石を見てたら、
猫が集まってきちゃって。
って、すごいバズってる?」
「はい!
これ、どうやったんですか?
リアルマタタビ人間とか、
猫集め装置とかコメントされてますよ!」
何となく、複雑な気分で。
俺は苦笑いした。
「いやぁ、
昔から動物に好かれるんだよ。
猫だけでなくて、
犬も鳥も大抵は寄ってくるんだ」
「なんですか、それ!
映えなんてものじゃないですよ!」
どうにも、
ミアさんはSNSに写真を投稿しているが、
最近閲覧数が伸びないと悩んでるらしい。
そこで、俺の写真がバズってるのを見つけて、
さっきまで猫の細道で俺を探していたそうだ。
「私、地元の良いところを、
もっと知ってもらいたくてですね」
「尾道は、既に有名な観光地だと思うけどな。
現に俺は観光客だし」
「そこそこの知名度ではあるんです。
でも、京都とか横浜とか、
それくらいの『観光と言えば』と言うか。
尾道が『観光地の代名詞』くらいにしたいんです。
『そうだ』の後は『尾道』になるくらい!」
彼女は最近ドローンの運転を練習して、
尾道を空撮する計画もしているそうだ。
なんと言うか、
原動力は不明だが熱量はかなりある。
「兄が飛行機のパイロットでして!
兄に空撮をして欲しいって、
言ってたんですが。
飛行機の空撮って、
許可取りやら申請が凄くややこしいんです。
それで断られて」
俺が聞いてもないのに、
ミアさんはドンドンヒートアップして話す。
「私が有名にならなくても良いんです。
尾道が盛り上がれば良いんです!
それで、
紅葉のシーズンですし。
風景とか草花とか、
猫を写真に撮ってSNSに投稿しているんです。
お願いします!
撮影に協力してください!」
彼女のことも気になるが、
ウチムラはどうなった?
向こうが静かすぎてよく分からない。
「協力するのはやぶさかじゃないけど、
今日は予定があるんだ。
俺はしばらく尾道にいるから、
君がよければ明日、
イーハトーブに昼過ぎに行くからついて来るかい?
後、君のSNSを教えてよ。
普段どんな写真を撮ってるのか見たい」
「もちろんです!
SNSはこれ……、で。
明日の昼過ぎ、ですね!
イーハトーブの入り口で待ち合わせましょう!」
「分かったよ。
一応、俺の連絡先を教えとくから、
何かあれば電話して」
ミアさんのSNSと俺の連絡先を交換して、
笑顔で分かれた。
俺はさっきのコンビニの方を見ると、
既に車が突っ込んでいた。
俺はゼータに確認した。
「衝突音したか?」
「してないと思う。
因果が歪んで、
結果だけ反映されたのかな?」
俺はコンビニに駆け寄ると、
ふらふらのウチムラがコンビニから出てきた。
「無事、ではなさそうだな。
病院いくか?」
「いや、大丈夫。
行ける。行かなきゃ。」
どうやら、
『ウチムラを痛め付ける』のもルールで間違いないようだ。
ゼータが口にして整理する。
「『朝の八時半から深夜零時が繰り返す』、
『尾道でミアさんが死んでしまう』、
『ミアさんに降りかかる事件・事故は回避可能』。
その上で、
『回避した事件・事故は代わりにウチムラさんにふりかかる』、
『それによりウチムラさんは重傷を負う』、
『ウチムラさんは死なず苦しむ』。
なんなんだ?
本当に何が目的だ?」




