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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編二部 「紅」

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第46話 深紅の道

 足場はウチムラが近寄っただけで突然崩れた。

作業中の職人たちは逃げ、

ウチムラは下敷きになる。


「これはコツさえ掴めば、

ほぼ無傷でいけるんだよね」


 と、ウチムラは足場の下から這い出てくる。


「本当に大丈夫か?」

「うん。

急ごう。

現場の人に捕まったら、

警察行かなきゃだから逃げないと」


 そう言ってウチムラは駆け出した。

俺もその後を追う。

 ゼータが俺の顔の前に顔を出して俺にささやいた。


「レーダーには何も反応なし。

異世界人の影響は見当たらない。

 本当にどうなってるのか。

このループの原因も解決しないと、

『彼女』が助かってもループする可能がある」


 今は情報が足りない。

しかも、深夜零時に俺たちは全部忘れてしまう。


「異世界人が原因に関係してないなら、

このタイムリープ、タイムループはなんなんだ?」


 謎が多すぎる。

それなのに、

やらなきゃならないタスクが目白押しだ。

 猫の細道へ、ウチムラは走って向かう。

尾道は坂道が多い。

通り魔に刺された傷もあるので、

彼は息も絶え絶え、と言う具合だ。

でも、彼は絶対に止まらない。


「ウチムラ君、

どこかで一息付いた方が」

「うん。

でも、次の猫の細道の落下物がかなりキツイ。

その後で少し休む予定」


 俺としては、

それが納得できない。

怪我をすると分かってるなら、

逃げるなりすればいいはずなんだ。


「……本当に、

そこのダメージを何とかできないのか?

塀が崩れるのは分かってるなら、

逃げるなり防ぐなりできるだろ?」

「それをしてしまうと、

ミアが死んでしまう。

どうしても、ダメだ。

 ちなみに、

ヒロセさんが代わりに受けてもダメだったよ」


 色々試した結果がこれ、

だと言うのは分かるが。

分かるが、やはり納得できない。

ゼータは腕を組んで考察する。


「『必ず誰かが、

怪我をしないと因果が変わる』?

そんなの、言い出したらキリがないぞ。

 カオス理論だ。

バタフライエフェクト。

蝶々のわずかな羽ばたきの風が、

遠くの土地で嵐になる。

 瓦礫の落下なんて大事だぞ?

因果がぐちゃぐちゃになる」


 ゼータは悶絶しながら頭をかきむしった。

ウチムラが突然立ち止まった。


「……ここか?」

「うん、ここ。

ヒロセさん。

ごめんだけど、じっとしててね」


 ウチムラはそう言って、

一歩前に出た。

すると、

二メートルくらいの高さの崖から何かが落ちてくる。

 俺は必死に飛びかかってウチムラを助けたい衝動を押さえた。

ウチムラは、落ちてきたコンクリートの塊を右肩で受ける。

だが、トラックの時のような受け流す動きはしない。

そのまま、彼は瓦礫の下敷きになった。


「大丈夫か!?」


 俺はウチムラに駆け寄り、

瓦礫を急いでどかす。

ひと気のない道で、

誰も塀が崩れたことに気付いてない。

俺たちが騒いでいるのに、

誰も来ない。


「……意識はあるよ。

かなり、キツイけど」


 俺は起きあげようと、ウチムラの身体を軽く触る。

しかし、ウチムラは痛みに顔をしかめた。


「少し、このまま。

動かさないでほしい」

「……分かった。

お腹の傷だけ、確認させてくれ」


 俺はウチムラの服をめくった。

やはり傷が広がっている。

止まっていた血が流れ出している。


「もう一度、応急措置をする。

この傷はまずい」


 俺は救急キットを取り出して、

もう一度応急措置をする。

内蔵は無事そうだが、上半身は打撲。

腹部の刺し傷は深く大きく広がっている。


「痛み止めは、持ってない。

できれば、病院へ行った方がいい」

「ダメだ。

次は暴走車だ。

 ミアはお昼を食べに商店街の方へ戻る。

食べたあとコンビニに行って、

ペットボトル入りの飲み物を買おうとするんだ。

 そのとき、

そこの駐車場に停まっていた車の一台。

運転手の年寄りが、

ブレーキとアクセルを踏み間違える。

 そして、コンビニに突っ込んで、

自動ドアごとミアをひく。

十三時五十分ごろだ」


 俺はウチムラの話を聞きながら、応急措置を続ける。

ゼータは頭を激しくかきむしり、

悶絶する。


「もうめちゃくちゃだ。

単純なタイムリープ、

タイムループじゃないのは確定。

何かルールがある。

 それなら、ウチムラさんは四の五の言わずに、

『彼女』をどこかに連れ去ってしまうのが一番安全だと思うけど」


 ゼータは暴論にたどり着いてしまったが、

俺もこれに同意したい。


「今、ゼータがミアを連れ去ってしまうのが一番安全、

とか言ってる?」


 俺の顔を見たウチムラがそう聞いてきた。

どうやら、

以前に同じ提案をしたことがあるようだ。


「ダメなんだ。

何故か、ミアが尾道から出られない。

 ミアを連れ出そうとしたら、

道路は大事故が起きて通れない。

鉄道も同じ。

船もダメ。

自転車も途中で大破。

徒歩でも、

道ががけ崩れとかで塞がる」

「……何か意図を感じるな。

まるで、」

「そう。

まるで、『ミアが尾道で死ぬこと』を望んでる」


 俺は思い付いたことを言う。


「俺やウチムラ君は尾道から出られる?」

「うん。

俺とヒロセさんは出られるよ。

ミアを連れてるとダメなんだよ」


 俺の勘は嫌な感じを察知している。

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