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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編二部 「紅」

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第43話 血紅色の山

 俺はウチムラ指定のポイントで、

宅配便の軽自動車が駐車する瞬間を見つけた。

運転手が荷物をもって近くの民家に入ったので、

近づいて運転席を一べつする。


「……サイドブレーキがかかってない」


 俺は車の後ろ、

坂の下りの方へ回って車が動かないよう背中で押さえた。

車が動き出すと止めるのが難しいが、

動いてない状態なら一人で止めてられる。


「ウチムラさんは、

五分で運転手が戻ってくる、って言ってたね」

「ゼータ。

この五分で状況を整理しようか」

「よしきた!

ヒロセ君は、

彼を助けることに決めたんだろ?

私も賛成だ」


 ゼータは俺の目の前でフリップをどこからか取り出し、

図解付きで話し出す。


「彼のタイムリープ、タイムループは確定的だ。

長期の未来予知とは違うね。

数秒前とかの短期予知ならまだしも、

数時間前の長期の未来予知は『予知した時点』で因果が変わって、

未来は変わるからね。

 彼の行動はパッと見意味不明だけど、

一貫して未来の事件や事故を未然に止めたり。

遅延させたりするものだ」


 ゼータのフリップにさっきのウチムラの行動がリストアップされた。


「そう仮定してウチムラさんの行動をふりかえると。

例えば、

さっきの自動販売機で飲み物をたくさん買って、

自動販売機の中の残本数を減らす。

そして、飲み物を補給に来た業者の人が、

それを補給する作業の時間を伸ばしたんだね。

 すれ違いざまに飲み物を渡した人たちは、

なんでか分からないけど」

「たぶん、喫茶店かトイレじゃないか?

飲み物をもらわなかったら、

彼らグループはどこかで喫茶店に入っていた。

 もしくは、

飲み物をもらったからトイレに行きたくなって、

どこかで立ち止まることになった。

 どっちにせよ、

結果としてはあのグループの次の行動時間がずれたはずだ」


 ウチムラの渡した飲み物について、

他の可能性も考える。

ゼータは唸りながら考え付いたものを挙げた。


「後考えられるのは、

捨てられる空き缶が増える、とか。

あのグループの内の誰かが飲み物をこぼす、とか」

「どのみち、

あのグループの『行動するタイミングの調節』が

ウチムラ君の目的だろう。

 今後もあの感じで、

『誰かの行動の遅延』。

もしくは、『誰かの行動の阻止』」

「『誰かの行動の前倒し』もあるかもね。

つまり、彼の敵は『時間』だ」


 ゼータはフリップをしまって、

空高く飛び上がって周囲を見た。


「今回は『誰かの行動の阻止』。

車がひとりでに坂道を降りていくのを阻止した。

坂の下に見える工事現場のあの足場が例の事故件場だね。

 ただ、ウチムラさんの

『彼女が受けるはずだった事件や事故は、

ウチムラさんに向かってくる』ってのが気になるね。

 今回は、足場倒壊事故が『起きない』。

なら、足場は倒れず、

ウチムラさんは無事、なのかな?」


 確かにそれは気になる。

俺が車を止めて足場に何も起きなくても、

ウチムラが同じ足場に近寄ると別の要因で倒れる、

なんてことがあるのか?


「にしても、彼の受け身は素晴らしいね。

ヒロセ君を見てるみたいだった」

「俺自身も知らないうちに弟子ができてたな」


 俺の気持ちは複雑だったが、

あの受け身の技は見覚えがある。

間違いなく同じ師匠からか、

俺から教わった技だ。


「それは置いておいて、

一番の問題は……」

「うん、

『このタイムリープ、タイムループの原因に、

異世界人が関係しているのか』。

 私は聞いたことがない現象だね。

この世界の創作物で良く見るけど、

実際にそう言った話は私の行った世界のどこにもなかったよ」


 ゼータは降りてきて腕を組む。


「時間を戻す。

しかも、この世界全部の。

とんでもない大事だよ?

 ある地域だけ、

幻覚とかそう言う幻でタイムループを装ってる、って

訳じゃない。

幻覚なら、ヒロセ君は見抜くしね。

私のレーダーもごまかせないし」

「なぁ、ゼータ・ディアスタシに、

記憶媒体ってないのか?」

「あるよ。

確認するには、

格納してる次元からこっちへ取り出さないといけない。

 ヒロセ君、

悪いけど後で物陰に隠れて変身してみてよ」

「あい、分かった。

でも、それなら、

『以前の俺たち』が他にも何かしら残してそうだけどな」

「そうだね。

私たちのことだ。

十年以上もループしてるなら、

朝の喫茶店くらいで気付くように何かの仕込み……を……。

 あぁあ!!」


 ゼータが何かに気付いて叫ぶ。


「あれだ!

ヒロセ君のデジャブ!

喫茶店の席で、

見たことある景色だ、ってやつ!」

「あれか!

でも、あまりにも弱すぎないか?」

「たぶん、現状じゃあれが精一杯なのかも。

どっちにせよ、

ゼータ・ディアスタシを調べてからだね」


 運転手が民家から出てきたので、

俺は自然な感じで車から離れた。


「天寧寺に行く前に、

どこかに隠れて確認しよう」


 俺は無事に軽自動車が発進したことを確認して、

歩き出した。

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