第42話 紅顔無恥
俺はウチムラに肩を貸して、
道路脇のビルの庇の下へ連れてきた。
彼はそのビルに背を預けて、地面へへたり込む。
「……覚えてる限りで答えてくれ。
どれくらいループしてるんだ?」
「十年は余裕で越えてる。
でも、ミアを助けるためなら、いくらでも」
「俺の師事はいつから?」
「めっちゃ前。
初めてこのトラックを回避したときにね。
トラックが俺に向かってきたのを見て、
そんで次の事故でミアが死んだのを見て。
その時のヒロセさんが教えてくれた」
彼は懐かしそうに目を細める。
「筋力と体力が変わらないことを知ってからは、
受け身だけ教えてくれた。
今なら、受け身だけヒロセさんの技全部知ってる。
攻撃に関するものは、」
「筋力がないと、
うまく攻撃しても自分にダメージが入る」
「そうそう。
そう言ってた」
彼は遠くの誰かの顔を見ている。
たぶん、いつかの俺だ。
今 ここにいる俺じゃない。
「いつも俺が協力してたか?」
「いつもじゃない。
ダメだったことも何度もある」
「そのときは一人で?」
「そう、一人で」
人はたくさんいるのに、
誰とも何も共有できない。
誰とも関われるのに、
『孤独』。
俺は彼を見てそう感じた。
「早く、次に行こう。
次は天寧寺だ。
ミアが夜のデートまで時間を潰しに行く。
あそこの風景の写真はSNSで好評だって。
その後、猫の細道に行って、
猫の写真をSNS用に撮る。
そんでミアが天寧寺へ向かう途中、
坂道の上で駐車した宅配便の車のサイドブレーキがかかってなくて。
勝手に動き出した車が工事現場の足場にぶつかって。
倒れた足場に彼女が潰される」
ウチムラはふらつきながらも立ち上がる。
「……ウチムラ君。
君は何故そこまで。
その、君からすれば何回も聞かれてるだろうし。
俺自身も言いたくないが、
君と『彼女』の関係は……」
俺は思わず聞いてしまった。
ウチムラはフラフラで、
どう見てもすでに限界ギリギリ。
そこまでして、
そこまでしているのに。
俺はそう思ってしまう。
「あー、うん。
ヒロセさんの身の上も知ってる。
だから、この質問は何回でも答えるよ。
そうだねぇ。
俺は彼女を幸せにするんだ。
理由を詳しく話す時間がないけど。
彼女が幸せならいいんだ。
俺が恋人かどうかじゃない。
俺が幸せかどうかじゃない。
彼女が幸せなら、いいんだ」
彼はそう言って笑った。
俺には何故か、
その笑顔はからっぽに見える。
胸が締め付けられるような笑顔だ。
俺は話題を変える。
「……次の場所は?」
ウチムラはスマホの地図アプリを開いて、
ピンを指した。
「ここに行って、
宅配便の軽自動車を後ろから押さえて止める。
エンジンは切れてて、
サイドブレーキがかかってないだけだから、
動き出す前に後ろから支えれば止まるんだ」
「俺が行こう。
最近この辺りを歩いてるから、
なんとなく分かる。
その間に、
ウチムラ君は他のフラグを管理してくれ」
ウチムラは俺の顔を見て笑った。
「ありがとう!
今回のヒロセさんはそう言うのか」
ウチムラはそう言って歩き出す。
「軽自動車が来るのは十一時七分くらい。
五分で運転手が戻ってくるから、
その間に車を動かないようにしていて欲しい。
車が発進したら、
ヒロセさんは天寧寺へ向かって。
俺も下準備が終わったら急いで天寧寺へ向かうから、
少し待っていて」
俺はウチムラを止めて、
連絡先を交換する。
「何かあれば連絡先を。
ゼータと飛んで行くから」
「あはは。
ありがとう。
やっぱりヒロセさんは頼りになる」




