第40話 紅塵の塊
ホテルのロビーにあるカフェでコーヒーを飲みつつ、
昨日の反応を出した人物を探す。
「まだ部屋にいるっぽい」
「朝食も食べたし、
もうしばらくゆっくりするよ」
俺は腕時計を確認する。
今八時半。
まだ平日だが、
そこそこの人数がカフェで朝食を食べている。
「なんか、この景色、前も見たな」
ふと、感じた違和感。
「この数日、
ここで朝御飯を食べたからじゃない?」
「同じ席では食べないようにしてるんだ。
毎回違う席だから、ここからの景色は初めて見るはず」
防衛軍での潜入捜査や張り込み、
尾行などやっていたせいか。
俺はこう言う飲食店で同じ席に連続で座りたくない。
可能な限り違う席で違う景色を見ている。
「なんだろう。
嫌な感じだ」
「レーダーに変なものはないね。
でも、ヒロセ君の勘は良く当たるし。
私も周りを注意しとくよ」
ゼータはそう言って周囲を飛び回る。
「あ。
そろそろ降りてくるみたい……、
って速っ!?」
俺は慌てるゼータを見て気を引き締めた。
「聞いて!
その人、階段かけ降りてる!
こけそうな程駆け足だ!」
俺は階段の方をみた。
どうにも何かを叫んでいる人がいるようだ。
「なんで早起きはできないんだよ?!」
そう叫んで降りてきた男性はまっすぐ俺の方に向かってくる。
俺は警戒を強めたが。
「貴方はヒロセ マコトさん!
私を探してるよね? わかる!
だから、ちょっとだけここで待ってて?!」
彼は俺の席まで走ってきて、そう叫んだ。
俺はまだ名乗ってない。
顔を見たが知り合いでもない。
確かに俺は名前も顔も知られているが、
誰かを探してるのは誰にも言っていない。
「何者だ?」
「後で!」
彼はそう叫んでホテルから出ていった。
「ヒロセ君、どうする?
追いかける?」
「彼は俺にここで待ってて欲しいらしい。
敵意はなかったように感じたけど、
妙に距離が近い。
知り合いでも、
かなり仲がいい人との距離感だった」
「私も知らない、
覚えてない人だったよ。
なんなんだろ?」
ゼータも頭をかしげている。
俺は彼の向かった方をみて、
彼の言葉通りにここで待つことにした。
数分で彼はまた走って戻ってきた。
年のころは二十代後半。
ジーンズにスニーカー。
スカジャンを着ており、手ぶらだ。
「お待たせ!
と、言っても。
後、十分三十秒くらいしかないから、
急がせてもらうよ?
俺はウチムラ。
よろしく」
彼は俺の正面になんの断りもなく座ってそう言った。
「後二十秒だけ黙っててくれる?
とりあえず、ゼータも静かにしてね」
俺はその一言で警戒を二段階上げる。
ゼータも黙ってうなずく。
「俺は『今日一日』を何度も繰り返してる。
もう百とかじゃきかないくらい、何度も何度も。
その中で、
ヒロセさんと何度も一緒に行動してる。
もちろん、ゼータも一緒に何度も助けてくれた」
俺はゼータのことを秘密にしている。
俺がゼータについて話したのは、
マサヤとジナコの二人だけだ。
そうなると、
彼の言う『今日一日を繰り返す』、
と言うことに現実味が出てくる。
「嘘だと思うなら、
ゼータが一回こっちにくるか?
シンクロしてたら、
相手は嘘をつけないんだろ?」
彼はそう言って右手を差し出した。
そこまで知ってるのか。
声こそだしてないが、
ゼータが驚き慌てている。
「ヒロセさんが机の下で指立てて、
俺が本数を当てるゲームでも良いよ。
他にもたくさん話できるんだけど、
時間がもったいないんだ」
俺は警戒心を露にして、聞き返した。
「時間がもったいない?」
彼はうなずく。
「俺は何としてでも、
『彼女』を助けたいんだ」
その目は真剣そのものだった。




