第38話 紅葉狩り
季節はすっかり秋。
病院のベッドの上で夏が過ぎてしまったのが残念だが、
これはこれで良い。
紅葉に染まる尾道は、
高いところから見ると格別に良い。
千光寺山ロープウェイを登ったかいがある。
本当に絵になる風景だ。
「こんなに綺麗なんだね、
紅葉。
今までただの枯れ葉だと認識してたのが、
もったいなかったなぁ。
思えば君とこの十年、
戦ってばかりだったからね。
新発見が多くて、
私もこの休暇を楽しませてもらってるよ!」
ゼータは俺の肩の上でそう言った。
俺は頷いて同意する。
「この世界は色々複雑だけど、
それだけ多様性に溢れてて。
それらが絶妙に共存しあって。
本当に素敵な世界だ。
以前話したかもだけど、
こういう世界は本当に珍しいんだよ。
そのせいで異世界人に狙われてる、って
こともあるのかも知れないけどね」
ゼータは自分の唐草模様と似た色の紅葉を持ち上げて見せる。
「猫の細道に寄って、ホテルに帰ろうよ!」
「イーハトーブでまた俺が猫まみれになって、
他のお客さんに写真撮られるぞ?」
「あれがいいんじゃないか!」
俺は何故か動物に好かれる。
猫に至っては、
俺が歩く後に列を作ってたりする。
猫の細道の尾道イーハトーブで、
福石猫を眺めていたら猫たちに囲まれて。
他の人に写真を撮られまくった。
「二十匹くらいいたもんね、猫さん。
私はいろんな世界を見たけど、
あんな生き物初めて見たよ。
本当に猫さんは愛らしいね!
自由だし、強いのに、可愛い。
ズルいと感じるくらい、
生き物の良いとこ取りだよ!」
ゼータは何故か猫だけ『さん』付けで呼ぶ。
それだけお気に入りらしい。
「普通は、
あそこまでたくさん集まらないんだぜ?
たぶん、
俺は仲間かなにかだと思われてるんじゃないかな」
「私、猫さんの何匹かにそれについて聞いたけど、
仲間と言うより『お父さん』、って呼ばれてたよ?」
「マジかよ。
家族カウントか」
非常に嬉しいが、なんとも言えない事実だ。
そして、ゼータが猫と話せると言う新事実に驚いた。
俺たちは散策を再開する。
「あのホテルも良いよ。
尾道駅に近いし、景色は最高」
「また、兄さんの差し金だったけどね」
熱海の病院を退院後、
兄さんと電話で話したときに。
「西か。
グランピングするのは、
もう少し待って冬の方がいいぞ。
冬は虫がいないし、
空気が澄んでて星が良く見える。
今は秋だから、尾道とか良いな。
おすすめだ。
冬になったら、
しまなみ海道沿いのグランピング場に行けばいい」
その一言で熱海から尾道へ向かうことにしたのだが。
「適当にホテルへ飛び込んで部屋を探すつもりだったのに、
『ヒロセ様』って書いたボード持った人が尾道駅の改札で立ってるとか……」
「熱海のホテルと同じ系列だったね」
ボードの案内人についていくと、三ツ星のホテルに到着した。
しかも、従業員も支配人も総出でお迎えしてくれた。
熱海のために身体を張ってくれて、
そのせいで怪我をし、
せっかくの観光を台無しにしたお詫びがしたい。
尾道のホテルの支配人にそう言われた。
熱海で入院したので、
ホテルは予定より早めに引き払ったのを聞いたそうだ。
「支配人、
仕事で尾道に来てるけど、
熱海が地元って言ってたしね」
「今度は部屋代と食事もタダって。
気になるよ、さすがにさ。
兄さん経由で支払おうかな」
「あのお兄さんのことだし、
受け取ってくれないと思うよ」
俺は苦笑いした。
「とりあえず、
ここでも観光しつつ仲間になってくれそうな人を探そう」
「そうだね。
私もレーダーをフル稼働で探すよ」
ゼータは自分の胸を叩いて付け足す。
「『ヒロセ君甘やかし計画』も進めなきゃね!」
「それは、別にいいかな」
俺は笑うゼータを連れて、
ロープウェイへ向かって歩きだした。




