第37話 終わりよければ、すべてよし
異世界人はジナコさんがいなくなった途端、
すっかり萎れて子犬サイズになった。
ゼータと相談して、彼は元いた次元へ返すことにした。
「歌と暴力の世界だ!
こんなおっかない所、二度と来るか!」
そう叫んでいたので、
たぶんこの次元からは、もう誰も来ないと思う。
マサヤは『彼女』こと、ジナコさんと帰っていった。
ジナコさんは人間の姿に変身して、
今まで通り過ごしていくそうだ。
マサヤはあの歌のこともあり、
しばらくは外では歌わないことに。
「人がすげぇ集まったら、
駅の人に迷惑かけるからな。
動画投稿サイトとかでやってく」
あのときのあの歌は世界中にとどろいた。
耳が聞こえない人にすら聞こえた、
奇跡のラブソングとしてもっぱらの話題になっている。
無断で投稿されていたマサヤの歌の動画が、
大爆発して世界中でバズってる。
運良く動画の顔はぼやけてるが、
駅に聞きに来ていた人たちは、
あの歌がマサヤのだと確信してるはずだ。
家は大学の近くに引っ越して、
しばらくは熱海駅には近寄らないようにするらしい。
引っ越し先でジナコさんと同棲するそうだ。
「大学も行くんでしょ
マサヤ、これでアタシの生徒だ」
「いや、さすがにジナコの授業は取りづらいよ。
俺たちが恋人同士だ、ってなったら、
えこひいき疑うヤツもいるだろし」
話しに聞いていたマサヤの大学に、
講師としてジナコさんが行くらしい。
仲むつまじくじゃれ合う二人は、
俺には眩しく見えた。
なお、ジナコさんが拘束されていたことは警察に俺が報告している。
警察は俺のことを信用してくれて、
ジナコさんの存在はすんなり受け入れられた。
人間だと偽ってこそいるが、
彼女はこの世界に迷い混んだ異世界人。
彼女は善良だし、
このままここで生活したい、と
希望するのでゼータと協力して色々手配した。
マサヤから聞いていた戸籍の微妙な部分も修正。
書類上は完全に問題ない状態にしてある。
ゼータもエネルギー体の彼女の身体が安定するように、
ネックレス型の装置をつくって渡している。
これで正体が他の人にバレない限り、
このまま生活できるはずだ。
「で、マコト。
お前は入院した、と」
電話越しにあきれた兄さんの声がする。
俺は警察が用意してくれた病院の個室で、
笑ってごまかそうとした。
兄さんから帰ってきたのはため息だった。
「仕方ないじゃないか。
防衛軍は特捜隊を派遣できないし、
警察は突然の異常事態だったし。
偶然そこに俺が居合わせたんだ。
放っておくわけにもいかないだろ?」
「そうだが、
警察はそれが仕事だ。
お前はもう違うだろ?
命をかけて人を助ける、
と言うのは素晴らしいことだがな、
俺たち家族からすればマコトも大事な人間なんだ。
もし、それでマコトが命を落としたら、
俺は警察どもを地獄へ送る」
兄さんの言うことは理解できる。
怒ってくれているのは嬉しいが、
俺は助けたいから助けてる。
「そうだね。
でも、軽い打撲で済んだんだ。
後三日くらいで退院できる予定」
「退院したら絶対電話しろよ?」
そう言って兄さんは電話を切った。
「一件落着。
だけど、まだマサヤ君は仲間にはできないね」
ゼータはそう言って俺の肩に現れた。
マサヤは大学を卒業したら、
俺たちに協力してくれることを約束してくれた。
彼の歌は素晴らしい。
争いを納めるのに暴力を用いらないなんて、
俺にはない発想だ。
「彼の正義は言葉にすると『博愛』に近いのかな。
ラブ・アンド・ピース、だもんね。
私たちと違うアプローチだけど、
その正義は私たちのものと同じだ。
彼の協力は非常にありがたいね」
戻ってきたゼータと装備を確認したが、
全部俺たちがいつも使っているものに戻っていた。
どうやらマサヤとゼータがシンクロして、
ゼータ・ディアスタシを装着すると、ああなるらしい。
「今までヒロセ君以外とシンクロしたことなかったから、
はじめてのデータだ。
もしかしたら、
マサヤ君以外の他の人とシンクロしても、
ゼータ・ディアスタシを貸し与えると能力や見た目が変化するのかも。
そんな風に設計した覚えはないんだけどねぇ。
エゼキエルまで作り替えられちゃったときは、
もうパニックだったよ」
ゼータは器用に苦笑いして見せる。
俺もつられて苦笑いした。
「まぁ、良いじゃなか。
彼は若いし。
俺が引退、となったらあの感じで頼むよ」
「そうなんだけどさぁ。
なんか釈然としないんだ」
ゼータは今でも自分の装備のエゼキエルが、
唐突に変形をしたのがショックだったらしい。
俺は彼の肩に指を乗せて言う。
「前向きに考えよう。
戦わなくて良いなら、
それに越したことはないさ」
「さらに釈然としない」
ゼータはため息をついた。
俺は話題を変えることにした。
「さぁ、退院したらどうしようか。
ゼータはどうしたい?」
「とりあえず、ホテルに帰ろうよ」
俺はふと、思い付いたことを口に出す。
「別のところに行きたいなぁ、と」
「おぉ! 良いじゃん!
私は次の観光地へ行くことに一票いれるよ!」
ゼータは大喜びで俺の周囲を飛び回る。
どこへ、と言うのは決まっていない。
だが、とりあえずこの前の一見が落ち着くまでは、
ここを離れた方が良さそうだと思う。
「さらに西へ行ってみよう。
ゼータは行きたいところとかある?」
「迷うね。
太秦、飛鳥、道頓堀、白浜、神戸。
砂丘、うずしお、下関、出雲。
もっと西に行けば、
地獄巡り、砂風呂、桜島!」
ゼータは腕を組んで唸る。
「四国も良いよ。
何回か行ったけど、
ご飯は美味しいし。
山も川もあって、
アウトドアなことは大概できるし」
「いいね!
グランピングとか。
あぁ、でも、
ヒロセ君なら道具なしで楽しめそうだね」
「それはもう、サバイバルだね。
あれは、あれで楽しいけど」
俺は思わず笑った。
ゼータも一緒に笑った。
この平和こそ、俺のなかで一番大切なものだ。
これを守るために、俺は戦う。
己の命をかけて。




