第36話 フィナーレは歌で
歌が支配する世界、と言うのは、
存外心地が良い。
俺はマサヤのやることを見守ることに決めた。
「エゼキエルが!
エゼキエルがなんか!
変形とか、すごいけども!
すごいけどもさぁ!」
ゼータはそれどころじゃないらしい。
俺用にと作ったゼータ・ディアスタシと違い、
エゼキエルはゼータの正式な装備。
男物で、男性しか装備できないと言っていたが、
ああなるともう装備とも呼べない。
完全にステージになっている。
「なんで!?
なんでエネルギーが散るの?!」
声がした方を見ると、
巨大な円盤と一体化した異世界人が狼狽している。
良く見ると、腹部に集まっていた光が周囲に霧散していく。
異世界人はさらにわめき散らす。
「エネルギーも、吸引できない!
なんで!?
上手いけど、上手いけど、歌だよ?!
攻撃でもなんでもない、歌だよ?!」
俺もそう思うから、黙ってうなずく。
だが、みるみるうちにエネルギーは散って消えていく。
もう、攻撃はできそうに見えない。
「あれ、見て!」
ゼータはそう言って異形を指差した。
良く見ると、
身体中から吹き出していた毒々しい緑の液体が固まって止まっている。
そして、異形の『中身が』うごめいた。
俺は考えたことを口にしてみた。
「歌に反応して、出てこようとしてる?」
「たぶん、そうだよ。
『彼女』が出ようとしてるんだ。
サビのループになった。
マサヤ君、このまま行く気だ」
マサヤは声高らかに歌い、
ギターをかき鳴らす。
それに合わせるように、
異形の中身が躍動した。
醜いその背中にヒビが走り、
そこからまばゆい光が漏れ出す。
綺麗なエメラルドグリーンの光は、
どんどん強まり内側からヒビを押し広げていく。
「……出てくるぞ」
ゼータの言うとおり、
『彼女』は醜い異形の殻を内から破って外へ出た。
サナギが蝶になる瞬間のようだ。
その『彼女』はエメラルドグリーンに光る巨人。
肌ではなく、水面のようにたゆたう光が人の形をしている。
スレンダーな女性体で、顔は凹凸はあるが目や口はない。
「……すごいね、マサヤ。
本当に歌で争いを止めちゃった」
「ジナコ!
無事か?!」
マサヤはエゼキエルを操って出てきた『彼女』に近寄る。
『彼女』も空を飛んでそれを迎えに行く。
「ありがとう。
助かったよ」
「いいんだ、いい!
お前が無事なら!
ジナコ!
愛してる!」
「ふふふっ。
ありがとう。
私も、愛してるよ」
世界も生き方も何もかも違う二人。
なのに、心は通じ合い。
その間に愛は生まれた。
最近の出来事も合間って、
俺は思わず苦笑いが浮かぶ。
それが同じ世界同士でも難しいことだと、
痛感した後のこれは。
俺にはちょっと酸っぱすぎた。




