第34話 それで終わりじゃない
●ヒロセ サイド●
何も見えない。
何も聞こえない。
無明の闇。
だが、戦える。
どうやら、
この技は相手の行動を徐々に制限していくものらしい。
少し息苦しくなってきた。
『呼吸』を制限されているようだ。
俺は戦闘用の呼吸法に切り替えた。
上手く息ができるようになる。
俺はヨガの呼吸法とかも合わせれば、
五十以上の呼吸法を体得している。
もうしばらくは戦える。
「早くなんとかしないと。
時間が経つだけ、『彼女』に害が及ぶ」
気持ちがあせる。
気配を頼りに攻撃放つ。
飛び散って逃げるなら、
飛び散った欠片を捕まえて潰す。
原始的だが、手応えがある。
時間の感覚が鈍くなる。
触覚はまだあるので地面に立ってられるが、
これもいつまでもつかわからない。
「『彼女』を助けるためにも、急いで仕留める」
攻撃のギアをもう一段階あげよう。
●マサヤ サイド●
声がよく通り、
ギターは何のケーブルもないのに音がよく響く。
『彼女』はさっきより抵抗を強めている。
だが、。
「ヒロセ君の様子がっ!」
ぬいぐるみが叫ぶ。
ヒロセは満身創痍だ。
直接ダメージは負っていないが、
『武器になり得る能力を奪う』影響だろう。
彼の膝がガクガクと音が聞こえそうなほど揺れている。
息があがり、脂汗が傍目に目に見える。
その耳は何の音も聞き取れておらず、
その目は何も写していない。
身体も顔も異世界人のいる方じゃなく、
明後日の方を向いている。
だが、その目は獲物をとらえている。
異世界人は悲鳴を上げ、
息も絶え絶えで逃げ惑う。
その身体はどんどん小さくなって、
すでにヒロセより小さい。
化け物か。
思わずそう思ってしまった。
「言うな!
化け物なんて、言うな!」
ぬいぐるみが突然、俺に怒り出した。
「ヒロセ君はね!
皆を助けるため、護るため!
そのために、
『自分の全てをかけてるんだ』!
どんな厳しい鍛練も、
どんな辛い試練も!
ヒロセ君は、全て皆のためにって!
笑って耐えるんだ!
皆のためにって、ああして戦ってるんだ!」
ぬいぐるみのボタンでできた瞳から、
涙がボタボタこぼれ落ちる。
「純粋に、皆のために!
仲間に裏切られてクビになっても!
恋人に裏切られても!
それでも、皆のためならって!
『自分の全て』を、
『幸せになる権利』すらかけてるんだ!
そんな彼を、化け物なんて、言うな!」
ぬいぐるみの悲しい哀しい怒りが伝わってくる。
「……ごめん」
俺は歌うのをやめて、謝罪する。
それと同時に、理解した。
目の前の光景を、やっと理解した。
戦争なんだ。
これが、戦いなんだ。
争いそのものを悪いものだと決めつけていたが、
違う。
助けるため、護るため。
己をかけて、命をかけて。
戦う。
そして、俺の歌に足りないものを理解した。
歌はどんなにがんばっても爆破しない。
どんなにがんばっても、
歌であることは変わらない。
だから、爆破させるのは、『俺自身』だ。
大きく息を吸い込んで、
一息で吐き出す。
「ロックンロール」
その瞬間、世界が止まった気がした。




