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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編一部 「終わり」

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第32話 このまま終われない

●マサヤ サイド●


 突然、俺の頭の中にゼータと言う不細工なぬいぐるみが入ってきた。

ぬいぐるみは、かくまって欲しいと言った。

ヒロセの相棒だと言っていたので受け入れたが。


「おい!

アンタがこっちにいるってことは、

ヒロセは一人であっちにいるのか!?」

「そうだよ!

私だけ弾き飛ばされたんだ!

このままは、マズい!」


 ゼータ・ディアスタシはテレビやニュースで見たことがある。

暴れる異世界人と戦うヒーローみたいな人だ。

そのゼータがこっちにいるなら。


「今のヒロセはただの人間ってことだろ?!

マズいなんてもんじゃねぇ!

 このままじゃ、ヒロセが殺される!

何とかできないのか?!」

「『逆』だよ!

このままじゃ、『ヒロセが殺しちゃう』!」

「はぁ?!」


 ぬいぐるみは俺の目の前でフリップのようなものを出し、

図解しながら話しだす。


「ゼータ・ディアスタシは防具だ。

主な役割は『ヒロセ君の顔バレ防止』。

身体の怪我を防ぐとかもしてるけど、

『基本的に仮装に近い』んだよ!」

「いやいやいやいや!

それじゃぁ、

ヒロセは『人間なのにヒーロー』なのか?!」

「もっとヤバイよ!」


 ぶわぁっと、全身の毛穴が開く。

俺はギターを取り落としそうになったが、こらえる。

突然、周囲の雰囲気が一変した。


「防具のない、

裸に近いヒロセ君は『防御を捨てる』!

そうなれば手加減も何もしない!

本気の彼は多分あの異世界人より強い!」


 ヒロセを見ると、

さっきまでの優しい雰囲気が全くない。

そこにいるのは、一匹の獣。

 そうだ、猫みたいな人だと思ってた。

人懐っこくて、優しくて、自由で。

いろんな人に可愛がられた野良猫みたいな。


 だが、今目の前にいるのは虎。


 だらりと両腕をたらし、

軽く前傾姿勢のヒロセが大型の肉食獣に見える。

それも、敵対心と牙ををむき出しにした、

威嚇をやめた臨戦態勢の大きな大きな虎に見える。

 ゆらり、とヒロセの姿が揺れた。

次の瞬間異世界人が悲鳴を上げる。

ロボットみたいな右腕が大きくえぐれて、

黒い液体を流した。


「マズい、マズい、マズい!

 ヒロセ君は負けないけど、

『彼女』の助け方がわからないまま、

あの異世界人が死んでしまう!」


 ゼータのその声に俺は飛び上がりそうになる。


「嘘だろ?!」

「今ヒロセ君は『生きること』を優先した!

目の前の敵を『完全消滅』させて生きることを!

 なんとかして、

早く私が戻ってゼータ・ディアスタシを渡さないと!」


 異世界人は巨体をくねらせ、

さっきまでと同じように攻勢にでるが。


「ひいいぃぃぃ!!」


 異世界人の身体が、

パンチで穴を空けたように穴が空いていく。

そして、絶叫し黒い液体を飛び散らせて苦しみだした。

 だが、ヒロセは一歩も動いているように見えない。

しかし、その両手は黒い液体を滴らせている。


「あんなんヒーローじゃ、ねぇじゃねぇか!」

「そうだよ!

今のヒロセ君は『混じりっけなしの人間』だ!

文明、文化を持たない、『野生の人間』だ!」


 ぬいぐるみは、

巾着袋の絞り口でできた頭をかきむしって叫ぶ。


「フルマラソンの距離を、

短距離走の世界記録くらいの速さで全力疾走しきれる身体能力で!

武術、戦術、拳法の達人と呼ばれてしかるべき技を用いて!

敵を根絶、絶滅させる!

『この星を支配する最強の知的生命体』!

それが、人間だよ!」


 自分も人間だと認識しているが

今のヒロセはもっと根幹が違うように見える。


「いつもはヒロセ君の鋼より強靭な人格と良心で、

あの殺気とか闘気は隠されてる。

 でも、今はそんな場合じゃない!

闘争、殺し合いにおいては、

彼はそれらを捨てる覚悟がある!」


 とにかく、今はヒロセを止めないとジナコが、

『彼女』が助からない。

それは、確かにマズい!

 俺はぬいぐるみ捕まえて叫ぶ。


「俺にできることはないか?!」

「歌い続けて!

君の歌はあのヒロセ君にも『彼女』にも届くから!」

「でも、足りないだろ?!

俺の歌にまだなんか足りないのは、俺でもわかる!」

「そうだけど!」


 また、異世界人が悲鳴を上げた。

ぬいぐるみが唸る。


「……そうだ。

マサヤ君、君にゼータ・ディアスタシを渡す!

君はヒロセ君と同じ、私とシンクロできる珍しい人だ。

 君がヒロセ君の所へ走って行って、

装備を渡せれば何とかできるはずだ!」

「わかった!

やる!」


 俺は二つ返事で了承した。


「私の真似をして!」

「さっきのポーズとセリフ言うのか?!」

「アレが無いと渡せないの!

恥ずかしくても、我慢して!」


 ぬいぐるみは俺の手から抜け出して、

俺の目の前でさっきのヒロセみたいな構えを取る。

俺もその構えを真似る。


「剛力招来、超力招来!

変っ身っ!

ゼぇットだ!」


 変身ポーズに慌てて付いていく。


「ごうりきしょうらい、

ちょうりきしょうらい?

変身!

ゼット!」


 ぬいぐるみが苦い顔で叫ぶ。


「一時承認、完了!

チェンジ、ゼータフォーム!」


 俺の身体が光に包まれる。


「うおぉぉ!

なんだこりゃ?!」

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