第24話 終わらせる歌
俺はマサヤには聞こえない声を聞く。
「これは、
仲間になってもらうとかの話をしてる場合じゃないね。
とにかく、今の僕らできることはしようよ」
ゼータはそう言って、
俺の飲み終えたコーヒーカップに腰かける。
「マサヤ君、
いくつか聞きたいんだ」
「なんだ?」
俺はとりあえず、前提を話しておく。
「まず、
俺は防衛軍じゃなくなってる。
それは分かってて相談してくれたんだよね。
その上で俺を信用して、話してくれたんだよね。
本当にありがとう。
でも、今は防衛軍じゃない俺には、
捜査をする仲間も専門機器も何もない。
でも、そんな中で『できること』はしたいと思う」
マサヤもコーヒーを飲み干した。
「だから、マサヤ君。
俺は、『彼女』を探す。
その代わり、
『彼女』を探すのを君にも協力してもらう。
いいかい?」
「もちろんだ」
「命の危険もありえるよ?」
「『彼女』のためなら」
まっすぐ俺を見つめる瞳は本気のものだ。
「いざ、争いになったら、
もちろん俺が前に出てマサヤ君は逃げてもらうつもりだよ。
それでも、危ないことは違いない。
くどいようだけど、本気だね?」
俺はちょっと凄みながら、もう一度聞いた。
「もちろんだよ」
マサヤ君は一寸も怯まなかった。
俺は笑顔で切り替える。
「オッケー。
なら、ここからは仲間として一緒にがんばろう」
俺は手を差し出した。
マサヤ君は笑顔でその手を掴んで、
握手する。
「ありがとう、ヒロセさん」
「仲間になったんだ。
ヒロセでいい」
「うん。
よろしく、ヒロセ」
俺は握手を握り返す。
ゼータはそれを見て笑っていた。
「じゃあ、『彼女』について、
詳しく聞かせてくれ」
「あぁ。
でも、俺が知ってるのは異世界人で。
人間の姿に擬態してて。
人間の名前は『ジナコ』ってことくらいだ」
……『ジナコ』って、どんな字だろうか。
俺は一瞬頭によぎった疑問を振り払って、
マサヤに質問する。
「彼女はいつこの世界に来たか知ってる?」
「あぁ。
大体二十年前だって言ってた。
だから、普通に俺たちと変わらない生活だった」
なるほど。
なら、二十年もここに住んでいたとして、
突然いなくなる理由はなんだろうか。
「元々、住む人皆が歌が好きな世界にいて、
皆何かあったら歌うって話を聞いた」
マサヤは思い出すように話し出す。
「その元の世界について、
他には何か聞いてる?」
「んー。
ジナコの世界には、
歌で世界を救ったって逸話があるんだって。
戦争が起きて、
誰も彼もが憎しみあってた時に。
一人の歌い手が、
戦場の真ん中で何の武器も持たずに歌ったんだって。
愛、繋がり、優しさ、ときめきを乗せて。
その歌声は戦争を止めたって。
それがきっかけで大きな戦争が終わったって」
おとぎ話のような内容だ。
いろんな異世界人と戦ってきた俺は、
どんな催眠電波かと思ってしまう。
「俺も、
俺の歌で戦争を終わらせられるようになってやる。
そう言った俺に笑って、
貴方の声はとっても素敵だから、
もしかしたらできるかもね。
って言ってくれて。
それから、
俺は歌とギターを必死に練習した」
ふと、視界にいるゼータを見る。
さっきと違って少し険しい顔になっている。
「わかった。
明日早速そのジナコさんが住んでた所を案内してくれないか?」
「よし。
明日は土曜だから、
学校もないし。
朝から行ける」
俺はマサヤと明日の約束をして、
とりあえず駅まで見送った。
「……相棒。
何か思い当たることが?」
ホテルへ向かう帰り道。
周囲に誰もいないので、俺はゼータに話しかける。
「……さっきの話。
私も聞いたことがある」
ゼータは『次元の守護者』として、
たくさんの世界を渡り歩いている。
その中に例の『彼女』の世界もあったようだ。
「どんな感じ?」
「ちょっと悪い。
いや、その異世界人たちは悪くない。
何と言うか。
その世界の人たちは『エネルギー体』という珍しい身体でね。
君達みたいなソリッドな身体を持ってない種族なんだ」
ゼータは俺の視界に入って来て話を続ける。
「彼らの身体は『波』があってね。
感情とか体調で変わるけど、
基本は自分の『波』をもってる。
指紋とかみたいな、一人一人違う『波』だ。
その、歌で戦争を終わらしたのは実話なんだよ。
争い憎しみ合う戦場のど真ん中で、
憎しみがぶっ飛ぶくらいの歌声を披露した歌手がいたんだって」
俺は何となくイメージした。
銃弾が飛び交うど真ん中で、ギターを持ったマサヤの姿。
危なすぎるし、それで争いが止まるとは思えない。
「本来、その個々人で別々の波長で『波』があるんだけど。
戦場だったから、
波長が共鳴して皆が憎しみやマイナスの『波』だった。
その歌手がその波長を身体の外から、
自分の歌声をぶつけて打ち消して反転させた。
喜びのプラスの波長で打ち消して、飲み込む強大な歌声。
あっという間に戦場の敵味方関係なく、
肩を組んで歌う歌手に手を振ってたらしいよ」
エネルギーの身体に、
その憎しみすら吹き飛ぶくらいのエネルギーの乗った歌をぶつける。
それなら、ありえるのか?
戦争も止まるのか?
「本来はありえないんだって。
だって、皆がそんな簡単に共鳴したら、
感情とか些細なことで集団パニックになるからね。
でも、それをやってのけた歌手がいたって。
しかも、歌った理由が『戦場に観客をとられた』って。
その歌手は、
とにかくなんでもいいから自分の歌を聞いてほしかった。
その一心だけで、憎しみを争いを吹き飛ばした。
強力な兵器でもなんでもない、歌声だけで」
ゼータはため息を着いた。
「あちこちで戦ってきた私には、
耳の痛い話だったよ。
まぁ、それは良いんだ。
問題なのは彼らが『エネルギー体』だと言うことだ。
エネルギーでできた身体は、
詰まるところ凄い量のエネルギーの塊なんだよ。
それを狙う異世界からの密猟者がいたくらいだ」
なんとなく、嫌な予想が浮かぶ。
「もしかして、
突然いなくなったのは」
「うん。
『彼女』は膨大なエネルギーを狙った何者かに
連れ去られた可能性が高い。」




