第25話 日常の終わり
翌日。
俺はマサヤ君と緑ガ丘の辺りに来た。
マサヤ君はこの辺の団地に住んでいて、
同じ団地の別棟にいた『彼女』と知り合ったとのこと。
「合鍵、あるよ。
部屋はあの日からそのままにしてる」
「合鍵あるんだ。
とりあえず、案内してくれないか」
案内された部屋は、
何の変哲もない部屋だ。
女性の部屋と言うことだが、
飾り気はない。
ただ、キッチンにある料理道具の多さと、
綺麗に整えられた水回りから女性の部屋の感じがする。
「楽器が多いね」
「うん。
『彼女』、音大卒業してて、
仕事はボイトレの先生やってた」
「この世界に完全に馴染んでたみたいだね」
音楽に力がある世界の住人だったこともあるのか、
部屋の中には音に携わる物がたくさん見つかる。
「……マサヤ君。
これ、何だか知ってる?」
俺は奇妙なものを見つけてマサヤにたずねる。
それは五センチくらいの大きさの、
干からびかけた肉塊。
それは、
ベッドの脇の影にひっそり落ちている。
「なんだ、これ。
俺、知らない」
直接触れるのは抵抗がある見た目だ。
俺は念のため用意していたゴム手袋を二重にしてはめ、
ピンセットと食品保存バッグを用意する。
「マサヤ君、
念のため離れてて」
俺はマサヤを下げてピンセットを構えた。
保存バッグの密閉ジッパーをゆっくり開き、
肉塊に近づく。
ピンセットの先が肉塊に触れた。
途端に、肉塊は空気が抜ける風船のように縮み、
カラカラに干からびてチリになって消える。
「……絶対に普通の物質じゃない。
『彼女』は他の異世界人に襲われた可能性がある」
俺の呟きを聞いて、マサヤが目をひんむく。
「そんな!」
「落ち着いて。
もっと調べないと。
マサヤくん、『彼女』の靴は玄関に全部ある?」
「……ある。
この前見た」
なら、何者かがどこかから部屋に侵入し、
ベッドに近寄ったと推測する。
「……窓だ」
俺は窓に近寄る。
窓のサッシの下の角辺りにガラスの小さな穴を見つけた。
直径は三ミリくらい。
「……綺麗に円く穴が開きすぎだな」
自然に開いた穴やヒビじゃなさそうだ。
窓をもっと詳しく調べると、
さっきより小さな肉塊がサッシの溝に落ちている。
「窓から侵入した可能性が高い」
俺は窓を開けてベランダに出た。
ゆっくり周囲を見回す。
少し遠くに海が見える。
「この辺は少し高いから、
海が見えるんだ」
マサヤが後ろから補足してくれる。
「……マサヤ君、
山の方って人気はすくないよね?」
「まぁ、山の方は家もあるけど、
この辺よりは少ないかな」
身を隠すなら、
山の方に潜伏する方が考えやすい。
「……相棒、どうだ?」
「さっきの肉塊は私も知らない。
でも、例の『彼女』は昨日話したエネルギー体の人で間違いないね。
部屋のあちこちから、
この世界の物じゃないエネルギーを計測した」
「その計測したデータで近くをサーチできるか?」
「できるけど、広範囲は無理だ。
せいぜい私から直径五十メートルくらいの範囲がせいぜいだよ」
ゼータのレーダーも万能ではない。
やはり、特捜隊に依頼する必要があるか?
「『君といた春の日』」
部屋のギターを弾いてマサヤ君が歌い出した。
「なにこれ?
ちょっと待って。
この部屋で探知したのと同じエネルギーが、
結構遠くで探知できた。
マサヤ君の歌でレーダーが強化……はなさそう。
あぁ! 分かった!
マサヤ君の歌が『彼女』に届いてるんだ!
それで、エネルギーが増幅されて、
私のレーダーでも、探知できるくらい大きくなってる!」
俺はゼータの声を聞いて、
マサヤの方を振り向いた。
マサヤは歌うのをやめて俺を見る。
「ヒロセ、どうしたんだ?」
「マサヤ君、
急いでトラックを借りよう。
ちょっと危ないけど、
トラックの荷台で歌ってくれるか?」
「それで『彼女』が助かるなら!」




