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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編一部 「終わり」

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第23話 突然の終わり

 喫茶店は時間帯も合間って静かだ。

どこかで聞いたことのある曲がゆったりアレンジされてながれている。

 俺たちはコーヒーを二つ注文して、

受け取ってから席に着いた。


「たった数回のライブであそこまで人が増えるなんて、

思ってなかった」

「そうだね。

ものすごい早さでマサヤ君のことが広まってるらしいよ」

「ライブハウス、借りないとダメかな」

「ハコを借りる、借りないの前に、

君はどうしたいか考えた方がいいかもね。

 歌で有名になるなら、

動画配信でも良いかもしれない」

「そう言うのが目的じゃないんだけど」


 マサヤは思ったより饒舌だ。

サクサク話ができる。


「……防衛軍、クビになったって聞いたけど。

お宅、すごい人なんだろ?

 『不死身の男』ヒロセ。

町中皆知ってるし」


 どうやら、

マサヤは俺のことを誰かから聞いたようだ。


「そんなに言うほどじゃないよ。

クビの理由だって、

怪我が他の人より多すぎるからだって。

聞いたときは驚いたなぁ」

「そこまで戦いは厳しいのか?」


 マサヤが少し不安げにたずねる。

だから、俺は言葉を選んだ。


「んー、どう言うおか。

俺は『皆』助けたかった。

だから、怪我しそうな人を見たら、

俺が助けに行っちゃうんだよ。

 それが防衛軍の仲間でも、異世界人でも、

誰でも助けるから人より怪我が多くなる。

命令を無視しても助けるから、

クビになったんだろうって思ってる」

「……マジにイイ人なんだな、お宅」


 マサヤはコーヒーにミルクと砂糖をたくさん入れた。

俺はブラックでコーヒーをいただく。


「……『彼女』、行方不明なんだ」

「それは、大変じゃないか。

警察には行ったかい?」

「……言えないんだ。

『彼女』は、異世界人だから」


 マサヤの口から異世界人と聞いてしまった。

俺は心の中で頭を抱える。

何となく予測していたことだったが、

可能なら彼からは聞かずに詳しく調べたかった。


「……それは、その」

「『彼女』は、俺がガキの頃に知り合った。

近所のお姉さんって感じで。

 両親が共働きで、学校にも馴染めなくて。

一人でいた俺にも世話を焼いてくれた」


 どうやら、

かなり前からこの世界にいる異世界人らしい。


「ギターを教えてくれたのも、

歌を教えてくれたのも『彼女』だった。

 俺はずっと学校にもどこにも馴染めなくて。

いつも『彼女』のところでギターを弾いて歌ってた」


 マサヤが右手首の布を撫でて続ける。


「俺が高校に入った時分に父さんが過労で死んで、

母さんが思い病んで倒れた。

そんなときに、『彼女』が助けてくれた。

 なんか、色々やってくれて、

お金は弁護士さん呼んで父さんの会社から裁判で取ってきて。

母さんが何にも気にせず入院できるよう、

色々手配してくれた」


 なんか、

異世界人独特の能力とかじゃない感じだ。

すごいこの世界に馴染んでる人だな。


「俺はその時、

偶然『彼女』の戸籍を見たんだ。

 なんか、あり得ない内容で。

そんな所ないだろ、っていう本籍地だったり。

兄弟二桁いたり。

 でも、誰もそれを不思議がらなくて。

直接『彼女』に聞いたら、

自分が異世界人だって教えてくれた」


 バレ方が公共機関の事務書類なのは、

前職でも聞いたことがない事例だ。

俺は今度防衛軍にたれ込んでおいた方がいいか少し悩む。


「俺は元々『彼女』に惚れてて。

『彼女』が異世界人だったとしても気にならなかった。

 それで、今年俺が高校を卒業するから。

音楽の学校に行こうと思ってて。

それを報告するのと、

意を決して告白しようと思って」


 何となく俺はコーヒーを飲み干して続きを待つ。


「……『彼女』の家に行ったら、

誰もいなくなってた。

それが、二週間前」

「ちょっと待って、

マサヤ君が駅で歌い出したのは、

十一日前くらいだよね?」


 マサヤが歌う事と、今の話がつながる。


「うん。

俺の声で『彼女』を呼べないかなって。

『彼女』、俺の歌声が好きだって言ってくれたから。

だから、ラブソング考えて、

歌うことにしたんだ」


 なるほど。

マサヤの歌う理由は、

有名になるためでも何でもない。

突然いなくなった彼女を探すために歌っていたのか。


「だから、

歌を聞いてくれる人が増えるのは嬉しいんだけど。

何と言うか、そうじゃないんだ。

 ……こんなこと、

防衛軍クビになったって言うお宅に言うのは、

お門違いって分かるんだけど。

……助けてくれ」


 マサヤの真剣なその顔に、

俺は意を決した。

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