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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編一部 「終わり」

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第22話 終った話

 ぶらぶら歩きながら、

通りすがる人たちに挨拶を返す。


「おはよう、ヒロセさん」

「あ、おはようサトウさん!」


 ヒロセの周りに小学生が走ってきた。


「ヒロセ!

おはよー!」

「おはよ!

ケンジ君、元気だね!

でも、ぶつかると危ないから、

走っちゃダメだぞー」


 お店の前を通ると。


「あ!

ヒロセ君、聞いてよ」


 お店のおばちゃんに話しかけられた。

大学生になって県外に出た息子さんから電話があったらしい。


「彼女はできた?

って聞いたら、黙って電話切られたんよ」

「あはは……」


 そこそこ俺にも刺さる話題だった。

まぁ、俺はしばらく彼女は募集しないつもりだ。

おばちゃんに別れを告げて、また散歩を再開した。

 今日はマサヤが駅の近くで歌う日だ。

あの日以降、

彼は二、三日置きに駅の近くで歌っている。

俺はその度、聞きに行く。

 たった数回の路上ライブしかしていないのだが、

人だかりがどんどん増えて大きくなっている。

誰かが動画サイトにマサヤの歌を生で放送していたらしく、

観光客すら彼の歌を聞きに来る。


「ただ、異世界人が関係しそうな話は聞かないなぁ」


 俺は一人、夕日に向かって愚痴った。

熱海駅に向かって歩き出す。

 防衛軍をクビになったが、

皆は俺に色々話をしてくれる。

最近起きたことや、

仕事の愚痴、ゴシップなど。

そんなあれこれの中に異世界人が関係しそうなものが希にある。


「マサヤの歌を聞きながら考え直そう」


 今までは特捜隊の皆であたっていた調査も、

一人だとここまで大変だとは。

 駅のそばでマサヤはギターのチューニングをしていた。

既にたくさんの人が彼の歌を待っている。

 駅員と商店街の人に許可は得ているが、

最近聞きに来る人が増えすぎて場所を変える話も出てるとか。


「あー……。

あーあぁー……」


 小声だが、マサヤが喉をチューニングし始めた。

もうすぐ歌うのだろう。

 マサヤを仲間にする件も進展なし。

『正義』について話すことは、

親しい仲同士だとしてもハードルが高い。

話をしたとしても、

認識の違いは出るものだ。

どやってマサヤの『正義』について調べるか。

全く案が浮かばない。


「あー。

皆、ありがとう。

 今日も全力で歌います。

ロックンロール」


 マサヤはそう言ってギターをかき鳴らす。

そして、歌が始まった。

 やはり、上手い。

良い歌だし、声も良い。

彼を中心にどんどん人が集まってきた。


「ちょっとマズいかな」


 俺は周囲に気を配る。

人が集まりすぎて、往来の邪魔になりつつある。

そばを通る人が若干殺気立ってる。

 せっかくの良い歌だ。

ここは、そうだな。


「やりますか」


 俺はそうつぶやいてマサヤのそばから離れる。

そして、やりなれた誘導を開始した。

 路上ライブに警備員なんて用意されない。

マサヤにそこまでの資金もなさそうだ。

だから、俺は交通整理をしていく。

 マサヤの歌を聞くため、人はどんどん増える。

俺はてきぱき人を整理して行く。

殺気立っていた通行人もスムーズに通れるようになり、

殺気が消え去った。

 そこに、すっと顔見知りの警官が近寄ってきた。


「なんか、ありがとうね。

不信な人だかりだ、って通報があったんだけど。

特捜隊さん、

ボランティアで交通整理やってくれてんよね?

本当にありがとう」

「だから、特捜隊はクビになってますから。

いいんですよ、これくらい。

俺なりの彼へのお捻りです」


 警官は俺にもう一度頭を下げて、

去っていった。

 そして、マサヤはいつも通り数曲歌い、

万雷の拍手を浴びて頭を下げた。

俺も後ろ向きで拍手を送る。

 お捻りを渡して立ち去る人たちもてきぱき整理して、

気付けば俺だけになっていた。


「ヒロセさん、ありがとう。

警備みたいなことしてくれて」

「いいよ。

俺からのお捻りだと思ってくれ」


 マサヤはギターケースの中のお金を袋つめて、

ギターをケースの中へいれた。


「……ヒロセさん、

この後空いてる?」

「空いてるよ」

「ちょっと話したいことがあって。

……『彼女』について」


 マサヤはそう言って、俺を見つめる。

その目は真剣だ。

俺はそれに応える。


「そこの喫茶店行こう。

俺が奢る。

警備のお礼」

「それなら、お言葉に甘えよう」

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