閑話 続けるための力
定期報告会に沈黙が訪れる。
約十日前、異世界人の侵入が検知された。
その事についての報告会であるが。
「……何もないのですか?
本当に?
取っ掛かりになることすら?」
新キャップのニカイドウは、
そう言いながら頭を抱える。
「歪みを計測した場所は、
夜間で人気のない工場の多い地区でした。
身を潜める場所も、逃げ道もたくさんありまして」
「それは理解しています。
その現場を五日も大々的に包囲し、
警官に大々的に協力してもらってなお何もない、
のが信じられません」
ニカイドウにミズノを攻めているような素振りはない。
だが、ミズノは険しい顔で続ける。
「警官からも何も報告はありません。
現場を解放してから、
捜査範囲を拡げていますが」
ミズノはハマダを一瞥する。
ハマダはさも遺憾であると言いたそうに鼻をならす。
「二班です。
周囲の電子機器からは何も見つかりません。
さらに、二班の人員を派遣して聞き込み調査も行ってますが、
現状変わりありません」
「変わりありません、じゃねぇよ」
シマザキが口を挟んだ。
シマザキはハマダが睨むのもお構いなしに話続ける。
「人員を派遣して?
二班から派遣したのは一人だけだろ?
こっちは全員で、ずっと聞き込み歩きで、
一秒も家に帰れてないんだぞ?
それなのに、『変わりありません』だ?
毎日定時で帰ってるハマダさん?
今までお前ら、ヒロセに頼りすぎだったんだよ。
いなくなった途端にこの始末だ?」
「その台詞、そっくりそのまま返すよ。
君ら一班がふがいなさすぎる」
「んだと?」
「やりますか?」
「やめなさい」
ケンカを仲裁するが、
発言については咎めないニカイドウ。
「皆さんの不満について、
私は非常に良く理解しているつもりです。
ただ、この事態については君達も二班も、
ましてやここにいないヒロセさんも悪くありません。
全部上層部の都合です。
皆さん、
今はとにかく情報を集めてください」
報告会は解散したが、
ミズノは残って必死の形相で現在集まった資料を睨む。
他は皆、
聞き込みのため出ていく。
「……このままでは」
ミズノはそうつぶやき、
目を皿のようにして資料を見る。
以前までは、
歪みを計測してから現地に一班が到着したとき。
たくさんの計器でいろんな情報を集めつつ、
『ヒロセの五感』で調査する。
ヒロセはゼータの協力をなしにしても、
五感がかなり鋭い。
『不死身の男』は、
全裸で無人島に落とされても平気で日本に帰ってこれる。
これは比喩ではなく、
実際に異世界人に無人島へ転送されて五日で日本に帰ってきたことがある。
ヒロセにはそれだけの身体能力、知識、技術がある。
そんな彼が探し物をするのだ。
普通では気付けないわずかな痕跡も、
彼なら見つけることができる。
ヒロセは初めて訪れた場所であっても、
あるはずのないものを見つけ、
ないはずのものがあると指摘する。
「編成を見直して……」
さらに言えば、
地域住人への聞き込みについてもヒロセ頼りだった。
彼は身長が高く、筋肉質の男性だ。
普通は女性や子供は警戒して近寄ることすらない。
だが、ヒロセの人柄なのか。
ヒロセの周りには自然と人が集まる。
まるで、名前がたくさんある野良猫のようだった。
また、ヒロセがとんでもなく人が良い。
さっきの通り獣より鋭い感覚で困っている人を見つけて、
笑顔で助けに行ってしまう。
三日でその地域に馴染み、
四日で友達になり、
五日で皆の『親戚のお兄さん』になる。
一度訪れた地域は、彼のホームとなり。
その地域の人たちは、
何かあればヒロセに話してくれる。
ここがキモなのだ。
警察官や特捜隊員が聞き込みをすると、
聞かれた人は『ちゃんと答えよう』とする。
そのため、
あやふやなことや不確かなことは無意識に話さない。
だが、
『親戚のお兄さん』には話す。
あやふやでも不確かでも。
何となく不安だと、気になると話してくれる。
そのため、ヒロセに集まる情報量はすごい量になる。
二班はそれを元に情報を調査をしていた。
「なんとかしなくては……」
防衛軍から地域の警察に協力は求められない。
例外的に『異世界人による犯罪の恐れがある』事件が起きれば、
協力を依頼できる。
防衛軍も『穴』を確保して異世界人が大群で来ない様にするのが主な目的なので、
特捜隊はいわばオマケだ。
本当は『穴』以外で訪れる異世界人は、
各国の各地域の警察や軍で対処するものだ。
「このままでは、日本の特捜隊がなくなる」
ミズノは唇を噛み締めて資料をかき集める。




