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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編一部 「終わり」

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第21話 一日の終わりに

 駅の周りを散策していると、

ギターと歌声が聞こえてきた。


「近いよ。

その声の主だと思う」


 俺はスマホをポケットにしまって、

声の方へ向かう。


「『君といた春の日

誇らしげに花が舞い

君へ降り注ぐ』」


 聞こえてきたのは、

どうやらラブソングらしい。


「『君の声が聞こえるだけで

俺の憂鬱が吹き飛んでく』」


 知識のない俺には『ポップス』とか『ロックンロール』とかの違いが分からないが、

アップテンポで良い曲だ。

 たどり着いた先には、

ギターを弾き歌う男性と人だかり。


「あぁ、彼だ。

歌ってる彼がそうみたい」


 ゼータはそう俺に耳打ちした。

俺は自然な感じで歌う男を観察してみる。

 年格好は二十代くらい。

少し長い黒髪をカチューシャで上げて、

ピアスの空いた耳が見えている。

 よれよれのTシャツ。

右手首に何か巻いている。

ギターはアコースティックギターか。


「それにしても、上手いなぁ」


 何をおいても歌が上手い。

俺は彼のことを全く知らないが、

ひたすらに歌が上手いことは分かる。


「すごいよ、彼。

本当に全身で、

生態電波や脳波まで使って歌ってる。

 オペラの歌手の人とかで希にいるんだよ。

『自分の身体を音響機器にして歌う人』」


 そう言えば、彼の近くにマイクの類いが全くない。

スピーカーも何もないのに、

声がとてもよく響く。

 だが、やかましくない。

うるさくない。

心地よく俺の身体に歌声が響いていく。


「あんなに歌えるなら、健康そうだ。

シンクロ率八十二パーセント。

後は、『正義』を確認しなければ。

どうやって確かめるか。

 ヒロセ君、

話しかけてみる?」

「彼が歌い終わったらな」


 俺はとりあえず歌を堪能することにした。

上手い。

 一つ気になることがあるとするなら。


「『人差し指だけネイルの付いた

君の手は俺に力をくれる』」


 歌詞の中の『君』が具体的に誰かを指してる気がする。

俺が失恋したからから、

彼の表現力がすごいからか。

ものすごい具体的に『君』が浮かぶ。

 ピンポイントで個人に向けたラブソングのようだが、

歌の上手さで俺を含めて皆聞き入ってしまっている。

 聞いてる人の中に知り合いの女性がいたので、

近づいて小声で話しかけた。

彼女は会社帰りだそうだ。


「彼、今日初めてココで歌う、

ってさっき言ってたよ。

 もう、上手いの何のって。

私明日も早いから、

帰って寝ないといけないのに」


 彼女はそう言いつつも、

俺と一緒に彼が歌い終えるまで聞いていた。

 彼が歌い終えると、

割れんばかりの拍手が響く。

俺も拍手をして、

彼のギターケースに多めのお捻りを投げた。

 すると、

彼が俺の顔を見て怪訝な顔になった。

俺は思わず、訪ねてしまう。


「どうかしたか?」

「……お宅、防衛軍?」


 彼は俺に問いかけてきた。

一瞬知り合いか、と思ったが、

俺の記憶に彼の顔はない。

あんなすごい歌声、忘れるはずもない。


「あー、正確には『元防衛軍』だよ。

クビになってね」

「……そうなのか。

すまん。

変なこと聞いた」


 彼は頭をかきながら、

申し訳なさげに深々と頭を下げた。

俺は気にしなくて良いと返す。


「明日も歌うのか?」

「明日は来れないけど、

明後日来るよ。

 俺、マサヤ。

お宅は?」

「ヒロセ、マコト。

ヒロセで良いよ。

 良い歌だ。

明後日も聞きに来る」


 去っていく彼を見送り、

俺はホテルへ向かって歩き出した。


「ヒロセ君、

そのまま聞いて」


 ゼータが耳元に現れてささやく。


「彼に近づいて分かったんだけど、

彼の右手首に巻いてる布みたいなもの。

たぶんこの世界の物じゃない」


 ゼータのセンサーはかなり偏りがあって、

特捜隊の時の捜査に使えなかった。

ただ、俺が近づいた無機物がこの世界のものかどうかは判別できる。


「彼自身はこの世界の人だよ。

でも、もしかしたら異世界人の知り合いがいるのかも」

「もしかして、

それで俺を見て『防衛軍かどうか』訊いてきたのか?」


 マサヤの去り際の妙なやり取り。

そして、異世界製の布。

防衛軍をクビになっているが、これは見過ごせない。

 俺は相棒と二人だけで捜査を開始した。

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