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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
本編一部 「終わり」

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第16話 終われない想い

 相棒は、うつむき加減で俺の正面にまわる。

俺は思いきって口を開いた。


「相棒、俺……」

「いいんだ。いい。

昨日からのことは私も見ていた」


 相棒の姿や声は俺にしか認識できない。

相棒は俺の中に居るからだ。


「防衛軍をクビになり、

恋人も……その……」

「気にしないでくれ。

それで、今後のことを話したいんだが」

「気になるよ!」


 相棒が珍しく声を荒らげた。


「笑ってちゃダメだよ!

君は怒って良い!

怒って、泣いて、叫んでいいんだよ!?」

「……ありがとう、相棒。

でも、もうそう言うのもなんか、

どこかに行ってしまって。

空っぽの気分だ」


 俺と相棒は一心同体。

嘘はつけない。

嘘をつくつもりもないが。


「私は……! 私が!

間違えていた!

 私は君と言う幸運に何もかも頼りきりで!

君の正義を傘に!

君自身の人生を奪っている!」


 泣き声のような、懺悔。

相棒から罪悪感が流れ込んでくる。

 俺は相棒から、

この世界について少し聞いている。

第一次次元大戦の原因は、

次元を突き破る何かが飛んできたからだそうだ。

 それは始め数多の世界を破壊しながら突き進んだが、

徐々に勢いが弱まっていった。

それでも止まらず、

世界と世界のあいだの幕を破って『穴』を開けた。

 たくさんの世界の間を貫いて行って、

とうとう俺たちの住む世界でそれは止まった。

突然開いた『穴』から溢れて落ちて、

この世界にたくさんのよその世界の生き物がやってきたのが

第一次次元大戦。

 ゼータは『穴』を開けた原因を探すため。

また、世界の間の幕が塞がるまでこの世界を護るためにやってきた。


「この世界が私の身体と波長が合わず。

弱り果てた私を見つけてくれた君が。

偶然私とシンクロすることができる人間だった。

 砂漠の砂の中に一粒の砂金を隠して、

適当に一握りだけ砂を取って、

その一粒の砂金を見つけるくらいの奇跡だった」


 巾着袋の姿は彼の本当の姿ではない。

本当はもっとスマートな感じで、

大きさも人間より大きい。

本来、エゼキエルは彼の鎧だ。

彼はあの巨大ロボを着て異世界人と戦うのだが。

 弱り果てた彼を俺が助けたときに、

俺が偶然持っていたぬいぐるみに憑依したからこの不思議な見た目になっている。

 なお、唐草模様の巾着をマジックで一生懸命オレンジ色に塗って、

綿を積めてぬいぐるみをつくってつれたのは、

俺が居た施設の子たちだ。

父さんに引き取られるときに、

俺へのプレゼントと言って渡してくれた。

本当に俺の宝物だった。


「この世界で何もできない私に代わり。

調査も交渉も何もかも君が行い。

隠れ潜んだ異世界人を炙り出して。

街の人たちを助けて。

 肝心の戦いすら、

私の装備を君の大きさにリサイズしただけ。

あれを使いこなせる君の技量は本当に達人だ」


 ゼータは砂浜に墜落し、膝を折る。


「私は何もできてない!

私は何もしていない!」


 砂浜に頭を埋めて泣くゼータ。


「そんなことはないよ。

相棒のお陰で、俺はたくさんの人を助けることができた。

たくさんの異世界人も助けることができた」


 侵略のためにこの世界にやって来た異世界人もいるが、

迷い混んできた異世界人もいる。

そう言う場合はゼータの力を借りて元の世界に帰す。


「相棒のお陰だ。

ただただ、感謝しかない」

「ダメだよ!

それじゃぁ、ダメだよ!

『君』は?!

君は助かってない!」


 ゼータは砂まみれの頭を上げて叫ぶ。


「まるで、

童話の『幸運の王子』じゃないか!

 私はツバメ役になるのは光栄だけど、

君が助からないのは絶対に嫌だ!」


 幸運の王子。

金箔に宝石がちりばめられた像が、

ツバメにお願いをする。

貧しい人たちに、

僕の身体の宝石と金箔を剥いで配ってほしいと。

 ツバメは快く引き受けるが。

すべての宝石と金箔が剥げてただの石像になった王子の像は、

『みすぼらしい』と罵られて助けた人たちに壊される。

宝石と金箔を配ることに気を取られて冬が来てしまったツバメは、

凍えてしまって壊れた像のもとで息絶える。


「ダメだよ!

君みたいな人こそ、幸せにならないと!

君みたいな人こそ!

 私なんて、どうなったっていいんだ!

君みたいな人こそは、幸せに! しないと!」


 ゼータは浮かび上がって、

その小さな腕で俺の胸ぐらをつかむ。


「私はこの世界の時間で見ても長命だ。

でも、君は百年も生きられない。

私は、そんな君の十年を奪ってしまった!」


 小さな腕で、全力でつかむが、

このゼータの出せる力はジャンガリアン・ハムスターくらいのものだ。

俺の服がほんのり伸びるくらい。


「キャップの言う通りだ……。

君は君の幸せを追い求める権利がある……。

 それなのに、それすら人のために使い……!

その挙げ句が、この始末!

 全部私のせいだと言って、罵ってくれよ!

怒って、叫んでっ……!

泣いてくれよぉ……!」


 ゼータはぬいぐるみのボタンの瞳から、

ぼとぼとと大粒の涙を流す。


「……恋人と少し距離を置いていたのも、

私のせいだろ?

もし、恋人との間に子供ができたらどうなるかわからないから……。

私が君の身体の中にいるから!

だから、将来の話ができなかった!

 私が悪い!

悪いのは私だ!」


 ゼータは震えている。

色んな感情が俺に流れ込んでくる。

主なのは、後悔とざんきの念。

後は、本心から俺のことを幸せにしたいと言う願い。


「ダメだよぉ……!

君は幸せにならないと!

私が絶対に!

幸せにしないと!」


 俺はゼータの小さな手に指をのせた。


「ありがとう。

相棒。いや、ゼータ。

お前は本当に優しいな。

 その気持ちだけで、俺は満足だよ。

そもそも、君を助けたことに見返りなんて求めてなかった。

君の代わりに戦うことだって、

見返りもなにも困ってる人が助けられて嬉しかった。

 この一日のことだって、

仕方ないと思う。

防衛軍の上層部の言うことも間違えてはいないし。

セキグチさんの、あの選択も俺が悪かったんだ。

相棒のことを抜きにしても、

距離を置いてしまっていたのは俺自身だったから」


 ゼータは、何故かさらに涙を流す。


「ほ、本心なのか……!

本心で、そうなのか!?

 君は! 君ってヤツは!

どこまでお人好しなんだよ……」


 ゼータ力なく腕を降ろして泣いた。

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