第93話 愛とは
「この憑依している雌型の身体から、
記憶を読み取っている!
この中の誰かがヒロセ マコトだろ!?
お前はこの雌型を見殺しにできないはずだ!」
自分自身に銃口を向けて、
大きな口で笑うリーダー。
「そっちとそっちは雌型だな。
ガンバマンはムラマツという雄型だと記憶にある。
なら、そっちの二人のどちらかが、ヒロセだ。
動くなよ?
動いたら撃つ」
じりじり後ずさりながらも、
己の優位を誇示するように笑うリーダー。
俺はリーダーに向かって指摘する。
「憑依しているお前も死ぬぞ?」
「構うものか。
『欠片』を手に入れる。
その目的が達成されるなら、
我らは命も惜しくない」
そのセキグチさん越しのリーダー瞳は、
嘘ではないと語る。
「この人質と『欠片』を交換だ。
『欠片』を渡せ。
さもなくば、撃つ。
さらに、私が死ねば本隊に死亡の通達が行って、
大船団がこの世界に攻めこんでくるぞ?」
俺たちはゼータを介して、
声を出さずに相談する。
「どうする?
ヒロセさん、何か案とかある?」
「ミア、お前は転送で、
あのリーダーをどこかに飛ばせないのか?」
「あんなに動いてるのは無理だよ。
変な座標に飛んで、
次元を越えた迷子になるよ」
ミアさんとウチムラはそう言って、ため息をつく。
「俺とハヤタで飛びかかるにせよ、
距離が遠い。
ヒロセさんからも徐々に離れてるみたい」
「位置的な優位が全くないッス」
ムラマツさんたちの言う通り、
リーダーは俺たちから少しずつ離れていく。
俺は思い付いたことをゼータにたずねた。
「ゼータ。
さっき、
『ビジョン』は『憑依する練習』をするって言ったよな?」
「そうだね。
憑依する対象が異世界人だから、
身体の仕組みから構造から原子から違うから。
それらをコントロールするため、に……っ!
待って!
ヒロセ君、それはダメだよ!」
ゼータも同じ結論に至ったようだ。
でも、それしかセキグチさんを助ける方法が思い付かない。
ゼータが我慢できず、声に出して叫ぶ。
「ヒロセ君、止めてくれ!
そんな!
君は、君を自由にするって話が!」
「ゼータ。
それしかない。
仕方ないんだよ」
「ダメ! ダメだ!
憑依を解除する権利は、
憑依してる『ビジョン』にしかないんだよ!?」
俺とゼータが揉めているのを見て、
リーダーがいぶかしげな顔になる。
「……どういうつもりだ?
『欠片』を出さないのか?」
リーダーは銃口を口くわえる。
「待った!
少し聞いてほしい!」
俺がそれを止める。
「『欠片』は取り出して手渡せる形じゃない。
俺の身体に一体化している」
俺はそう言って、変身を解除した。
「手渡せない代わりに、
お前がセキグチさんから俺に憑依し直せ」
リーダーが目を細めて俺の顔を見つめる。
ゼータも皆も息を飲んで俺を見つめる。
「……この世界の上位戦力であるヒロセ マコトの身体に、
『欠片』が、か。
それで、ゼータ・ディアスタシはお前を監視してたのか」
俺はゼータのレーダー兼アラート、という
防衛軍の想定をリーダーはセキグチさんの記憶から読み取っているらしい。
「嘘ではないな?
まぁ、嘘であってもお前の身体はかなり魅力的だ!
人質としても、戦力としても!」
リーダーは銃口をくわえたまま笑う。
「……ゼータ、ムラマツさんの所に行ってくれ。
後、ムラマツさんにこれを渡してほしい」
俺は懐から、
アサギキャップのメンコを出した。
初代ガンバマンのメンコだ。
ゼータにそれを渡すと、
ゼータが震えていた。
「ダメだよ……!
君は……、君こそは……、幸せに!」
「ありがとう、相棒。
ありがとう」
俺は泣き出したゼータに微笑みかけて、
周りにいる皆に向き直る。
「皆、後は任せる形になってしまって、
申し訳ない」
「……いや、何言ってるんですか?
なにか、案があるんですよね?」
ミアさんが俺に近づこうとしたが、
ウチムラに止められる。
どうやら、
ウチムラも俺と同じことを思い付いたようだ。
「ミア。
ここで待とう」
「ウチムラ……」
ムラマツさんはメンコを受けとり、
驚く。
「これ!
アサギさんのメンコだ!」
「あ、ご存知でしたか?」
「サインしたの俺だから、
覚えてるんだよ。
……勝算はある、んだよね?
ヒロセさん」
「五分五分ですね」
正直に俺はそう言った。
ハヤタさんは、まだ分かっていないようで。
「な、なんの話ッスか?
ど、どうなってるんッスか?」
ムラマツさんはハヤタさんの両肩を掴んで。
「ここで待とう。
ハヤタ、良いから待とう」
そのムラマツさんの言葉で、
ただならぬ事態だと察して震えるハヤタさん。
俺はゼータを介して、
マサヤにも声をかけた。
「マサヤ君、
リクエストいい?」
「……ヒロセさん」
「マサヤ君のあの歌がいいな。
初めて会ったときの歌が」
マサヤはギターをかき鳴らした。
あの歌のイントロが始まる。
「……じゃぁ、
俺はゆっくりそっちに歩いて行く。
憑依のためには、
俺の身体に触れてないとダメなんだよな?」
「あぁ、腕を差し出してここまで歩いて来い。
ヒロセの手を掴んだら、
私は銃口を離して、銃を手放そう」
「約束を反故にしたら、
周囲の仲間たちが一斉にお前を攻撃するぞ?」
俺はリーダーを睨んで警告する。
リーダーは鼻で笑って。
「なめるな。
我らは防衛隊の捕虜も解放したぞ?
この雌型も必ず解放してやろう」
俺はゆっくりリーダーに、
セキグチさんに歩み寄る。
「……セキグチさん。
俺は防衛軍を抜けたあと、色んな愛を見たよ」
俺は口の中で転がすような小声で、
彼女に語りかける。
「流星のように、
光輝いてまっすぐな愛を見たよ。
眩しくて、熱くて、綺麗だった」
俺はもう一歩前へ出る。
「背中合わせの愛を見たよ。
一番近くなのに、一番遠い。
でも、決して離れない。
強くてたくましい愛だ」
もう一歩前進する。
「焚き火のような愛を見たよ。
周囲を照らして、暖めて、
守って。
近くに腰かけた人を癒す愛だ。
でも、
もっと近くの人を見た方が良いかもね」
俺は苦笑いして、最後の一歩を進んだ。
リーダーとの距離は約五十センチ。
俺は右手を差し出した。
リーダーは、
ゆっくり俺の右手首を掴んだ。
「……よし。
銃をおろそう」
リーダーは銃を手放し、
床に落とした。
「さぁ、その身体と『欠片』をいただこう!」
俺の意識は、一瞬でブラックアウトした。




