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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
終章 愛

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第91話 愛のない者

 大きなドアがある。

少し開いており、隙間から声が聞こえてきた。

俺たち三人は気付かれないように、

隙間から部屋の中を覗く。


「自由に、ったって!

どうしたらいいんだよ!

俺には分かんないよ!」

「自由なんだから、

自由だよ!

好きにすれば良いんだ!

この世界の人間はそうしてるだろ!」


 『ビジョン』同士で言い合いをしているようだ。

彼らはこの世界の人間に憑依したまま、

言い合いをしている。

俺たちを待ち伏せていたわけではなさそうだ。


「分かんないよ!

俺は指示してほしい!

誰かの指示がないと、不安でたまらない!」

「そんなの思考停止じゃねぇか!

お前だってやりたいことくらいあるだろ!?」


 俺には意識連携、と言うのが感覚として分からなかったが。

常に監視されて指示が出されている感じなのか?

それがなくなって、

喜んでる勢と喜べなかった勢とでもめているようだ。

 ざっと四十人くらいいる。

自由派の方が数が多いように見える。


「うるさい!

今まで全部指示通りにしてたんだ!

それでよかったんだ!

これからも、そうあってほしいんだ!」

「自由に好きなものを好きだとすら言えない!

そんなのもうウンザリだ!

俺たちは船を降りる!」


 自由派の先頭だった人がそう言って、

この部屋から立ち去ろうとした。

 その瞬間、銃声が鳴り響いた。

歩きだしていた自由派の人は床に倒れこんだ。


「命令違反は死ね。

これでお前も自由だ」


 そう言って奥から現れたのは、

銃を持ったセキグチさんだった。

倒れた人から血が流れ出して血溜まりを作る。


「あれ、身体の持ち主と中のビジョンはどうなるんだ?」


 俺はあわててゼータに聞いた。


「二人ともまだ生きてるけど、

どっちも死にかけてる。

早くなんとかしないと」


 ゼータの言葉に俺は焦るが、

ムラマツさんが俺の肩を掴んで止めた。


「待った。

今はダメだ。

危険すぎる。

少し落ち着いて」


 セキグチさんは倒れた人のそばに歩み寄って、

彼の頭を掴んで持ち上げる。

周囲の誰もが固唾を飲んでそれを見ている。


「意識連携を切られたからとて、

我らは『ビジョン』。

我らは我らのために、己の全てを用いる。

そうだろ?」

「……り、りー……だぁ……っ」


 セキグチさんはつかんだ彼の頭を床に強く叩きつけた。

撃たれた彼は動かなくなった


「……セキグチさんの、

中身がリーダーか」


 俺は苦い顔になる。

そして、床に伏したまま動かない『ビジョン』の彼も、

憑依されていた人も危険な状態だ。

 だが、確かに今は出られない。

出るべきじゃない。

ムラマツさんの言う通りだ。

 ムラマツさんは、小声で謝っている。

俺に対してじゃないのが分かる。

辛い。とても辛い。


「自由がいいのか?

今すぐ自由にしてやってもいいぞ?」


 リーダーと呼ばれたセキグチさんは銃を自由派に向けた。

自由派の人たちは息を飲んで一歩下がる。


「ゼータ・ディアスタシが、

『次元の守護者』たちを呼び出して攻めてきた。

三キロ先でドローンが防壁になって塞き止めている。

 更に、本艦に侵入者だ。

ドローンどもを攻勢にせよ。

お前らは侵入者を迎え撃て」


 冷酷に、冷静に、

的確に指示を出すリーダー。


「目下の問題はこの『歌』だ。

なんとしてでも止めろ。

この歌さえ止まれば、

本隊から大船団を呼べる。

 後、他に自由になりたいヤツは言え。

すぐに自由にしてやろう」


 声を荒らげる訳でも、

感情的になっている訳でもない。

淡々とリーダーはそう言った。

ムラマツさんはそんな彼を見て唸る。


「リーダーは、

リーダーとされるだけの実力があるみたいだな」

「他の人みたいに、

カルチャーショックを受けてたら良かったんッスけど」


 ハヤタさんも腕を組んで唸る。


「でも、急がなきゃ、

撃たれた人が死んでしまうぞ」


 俺はそう言って拳を握りしめた。

しかし、打開策が見当たらない。

気持ちだけが焦る。


「……イヤだ!」


 自由派の一人が叫んだ。


「もうイヤだ!

いつまでこんなことを続けなきゃいけない?!

 他所の世界を襲って、殺して、奪って!

俺たちは休みなく、戦い続けて!

殺されて!

 俺たちに報酬はなし!

休みもなし!

また次の世界に送られる!

俺たちは何も得られない!」


 リーダーは、

彼が言い切ったのを見て発砲した。


「次は?

誰が主張する?」


 あまりにひどい。

自由派の人たちは反抗的な目をしている。

この場に殺意が膨れ上がってきた。

リーダーは少し思案するような仕草をして。


「ここで反乱因子を絶つのも、ありか」


 リーダーはそう言って、銃を乱射した。

自由派だけでなく、

その場にいた全員に向けて。


「な……、なんで……」

「ここに来て集まっていた時点で全員命令違反だ。

もろとも死ね」


 俺はとうとう我慢しきれず、部屋に飛び込んだ。

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