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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
終章 愛

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第90話 愛の後味

 投降した『ビジョン』のメンバーらは、

ゼータがアルファ総司令官の元に転送した。

アルファ総司令官が彼らを特製の檻に入れて、

檻はステージのかぶり付き席の位置に設置された。


「ふぅー!

サイコー!」


 投降した十人は、

マサヤの目の前でペンライトを持ちヲタ芸を披露している。

もちろん、憑依していた人たちは既に解放されており、

踊ってるのは彼ら自身だ。

 彼らの見た目は、

なんと言うかガンバマンの敵戦闘員みたいだ。

全身黒のタイツのような。

でも、顔も身体も凹凸がなくてマネキンのような。

不思議な見た目をしている。


「憑依を解除した方が動きがキレてるッスね」

「憑依と言っても、

やっぱり身体の持ち主じゃないから、

思うままには操れないよ。

 しかも、異世界人同士だ。

身体の作りも、

呼吸の仕方から何から何まで違うしね」


 ハヤタさんの疑問にゼータは答えた。


「身体の持ち主の記憶は読み取れるらしいけど、

呼吸の方法とか身体の動かし方なんて意識する人は少ないでしょ?

だから、『ビジョン』たちは憑依と解除を繰り返して、

この世界の人間の身体に徐々に慣れる必要があるんだ。

 この作戦には、

かなり時間をかけて準備してたと思うね。

彼らがあんなにこの世界の人間に馴染めてるんだから」


 俺たちは船内を進む。

時折遭遇する『ビジョン』たち。

彼らはヲタ芸のみならず、

暴飲暴食したり、お洒落を楽しんだり、

マサヤの歌を彼らの技術で録音しようとしたり。

個々に好きなことをしていた。

 先に投降した彼ら曰く、

どうやら歌の影響でリーダーとの意識連携が途切れているそうだ。

前回の特捜隊との戦闘時も、

熱海から響いたマサヤの歌で同じように意思連携が切断された。

それで、リーダーと連携できず、

彼らは急遽戦闘を中断して撤退したらしい。

 どうやら意思と行動の自由を得た彼らは、

ここぞとばかりに好き勝手しているらしい。

 俺には俺たちと遭遇した彼ら全員が、

ばつの悪い顔で俺たちを見つめていたのが忘れられない。

彼らにとってはまさに鬼の居ぬ間に洗濯。

その現場を見られた彼らのあの顔は、

あまりにも悲痛な顔だった。


「人間に憑依して、

人間に紛れて暮らしてる内に『好きなこと』が見つかってしまって。

でも、リーダーとの意識連携があって。

好きなことができなくて」


 投降した彼らは口を揃えてそう言った。


「あれかな?

異世界人も異星人も、

JAPANカルチャーに影響されるのは必然なのかな?」

「相棒、俺に聞かれても困るよ」


 抵抗してきた『ビジョン』は今のところゼロ人。

いくつか条件を上げて、

ヲタ芸をする檻の様子を見せると全員が投降した。


「餓えてる感じッスね、

娯楽に」


 少しぐったりしているハヤタさん。

さっきの『ビジョン』は、

ハヤタさんの大ファンだった。


「お疲れ、ハヤタ。

さっきの人、

お前の握手とサインで大喜びだったな

 あれか?

無個性の世界から、

個性がひしめいてるこの世界に来ちゃったら、

そうなるのかな?」


 ムラマツさんはそう呟いて頭をかいた。


「まぁ、そのお陰で、

『ビジョン』のリーダーは応援の戦艦が呼べなくて。

相手するのはこの戦艦だけで良いのは朗報だ。

皆、気を引き締めて行こう」


 俺はそう言って戦艦内をドンドン進む。


「でも、やっぱり憑依は『ビジョン』側が解除しないと、

解除されないみたいだね」

「俺たちで用意できる外的要因で憑依を解除できたら、

良かったんだけどな」


 ゼータと俺は顔を見合わせてそう言った。

なんせ、憑依されて人質にされているのは、

セキグチさんだからだ。


「ヒロセさん、ヒロセさん。

寝取られて裏切られた相手との再会にしては、

良くないヤツだよ。

 こういう時って、

ヒロセさんにもっといい恋人がいて、とかさ」

「『ざまぁもの』のアニメとかドラマみたいな?」


 ミアさんとウチムラがそう連絡をしてきた。

向こうの戦況は良好なようだ。

かなり余裕があるように聞こえる。


「ヒロセさん、

誰かいい人いないの?」

「踏み込みすぎだ、ミア。

やめとけ、やめとけ」

「その話、俺も聞いて良いヤツ?」


 思わず、と言う感じでムラマツさんが口を挟んだ。


「ムラマツさん、あのですね……」

「ミア、ストップ。

ヒロセさんの許可なく話しちゃダメだって。

 でも、今のムラマツさんに話すのは必要かもな。

師匠、良いですか?」


 ウチムラの根回し気遣いが染みる。

俺自身としては、立ち直れたつもりではいる。

全く気にならない、とは決して言えないが。

俺はウチムラに頼むことにした。


「必要だと思うし、

買いつまんで説明を頼めるか?」


 ウチムラは、

俺すら感嘆の声が漏れるほど、

素晴らしい要約をした説明をする。


「……今から三人が向かってるのが、

ヒロセさんの元恋人の身体に憑依してる『ビジョン』、

ってことです」

「……ヒロセさん、大丈夫?」

「とっくに吹っ切れてます。

とにかく、人質は助けないと」


 ムラマツさんも俺に気を遣ってくれた。

すると、ムラマツさんがまた立ち止まった。


「なんか、広い部屋に近づいてる。

何人かそこにいて、動いてない。

待ち伏せ、か?」


 ムラマツさんが断定しきれず、

頭を抱える。


「剣呑な雰囲気だけど、

どうする?」

「……正面から行きましょうか」


 俺たちはその部屋に向かうことにした。

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