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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する  作者: 桃野産毛
終章 愛

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第89話 愛好者

 戦艦の中は見たことのない機械やパイプ、

ケーブルが縦横無尽に敷き詰められている。

ムラマツさんが呟いた。


「超科学、って感じがするなぁ」


 その呟き通りだ。

薄暗いが先は見えるくらいの光度がある。

ゼータは俺たちの間に浮かんで話し出す。


「進みながらだけど、

簡単に『ビジョン』について話すよ」


 俺たちはその話を聞きつつ先頭をムラマツさん、

しんがりを俺がつとめることにして進む。


「彼らは元々自分の世界に住んでた異世界人だった。

でも、凄まじい技術と知識を得て、

次元を渡る術を編み出した。

あの大災害より、遥か以前から」


 独力で次元を越える術を編み出した人たちか。

この超科学的な戦艦がまさにその技術の塊なんだろう。


「彼らは初めは異世界の技術や知恵を得て、

自分の世界をさらに発展させていた。

それなら、

我々『次元の守護者』も問題にしなかった。

初めは、ね」


 ゼータの話の雲行きが怪しくなる。


「彼らはある結論に至った。

『資源も知識も技術も、

他の世界から奪えば良い』、と。

『どこの世界より優れている自分達こそ、支配者。

他の世界は野草のようなものだ』、と」


 最悪の思想だ。

俺は思わず顔をしかめてしまった。


「それから、

彼らは他の世界を襲って、

略奪と破壊の限りを尽くした。

彼らに滅ぼされた世界は数知れず。

 『次元の守護者』も彼らを止めようとしているんだけど、

なかなかうまく行ってないんだ。

そんなヤツらが『何かの欠片』を手に入れて、

兵器を作ったら間違いなく大変なことになる」


 ハヤタさんが生唾を飲む音が聞こえた。


「……ストップ」


 突然、ムラマツさんがそう言って立ち止まる。

俺とハヤタさんも立ち止まった。


「この先の部屋にいる。

たくさんいるけど、様子がおかしい」


 ムラマツさんが首をかしげて続ける。


「なんか、部屋の中で騒いでる」

「……覗いてみよう。

人質かもしれない」


 俺がそう提案すると、二人は頷いてくれた。

ゼータが補足する。


「ハヤタさんは、特に気をつけてね。

触られたら、憑依されるから」


 ハヤタさんは頷いて銃を構え直した。

俺たちは音を立てないように、

慎重にムラマツさんの誘導に従う。


「……この部屋だ」


 ムラマツさんはそう言って、

ドアのない部屋の入り口付近で止まった。

中から複数の声が聞こえる。

 俺たちは意を決して部屋へ忍び込んだ。


「……は?」


 そこには、ペンライトのように何かの棒を握って振り回し、

踊る人たちがいた。

ヲタ芸だ。

皆、俺と同じこの世界の人間に見えるが。


「……彼ら、『ビジョン』だよ。

憑依された人たちだ。

 でも、これはおかしい。

マサヤ君の『歌の効果』だとしても、

おかしい」


 ゼータはそう言って驚いた顔をしている。

俺にはご機嫌に踊って、

マサヤにコールをする姿にしか見えない。


「『ビジョン』は、

種族の繁栄のために『完全に個性をなくす』んだ。

『画一的な身体』、『画一的な見た目』、

『画一的な精神』。

それで、思考まで画一的に揃えてまとめて、

恐ろしいほどの技術や知恵を得た」


 無個性。没個性。

確かに、全ての人間が同じく目的に向かって協力できれば、

素晴らしい結果を得ることができる。

だが、人間には個性も感情もある。

そんなことは不可能だ。


「多様性に富むこの世界と、

真逆と言っても良いのが『ビジョン』なんだ。

 だから、彼らにはリーダーの命令が絶対。

な、はずなんだよ。

それなのに、彼らは踊ってる。

どう考えても戦闘中に、

そんな命令をリーダーがする訳ないのに」


 俺はたちは困ってしまって、

踊る彼らを見ていた。


「おう! おう! おう!

お……、おう?」


 踊っている一人が、こちらに気付いた。

慌てて他の仲間の肩を叩く。

全員がゆっくり俺たちの方を見た。

唖然と見ていた俺たちのことを見た。


「……き、来たな!

ゼータ・ディアスタシ!」

「無理ッス!

今さら取り繕っても、無理ッス!」


 ハヤタさんがからから笑って言った。

『ビジョン』たちが冷や汗だらだらで顔を見合わせている。


「おーっと、

ここにライブの特等席のチケットがあるッス」


 ハヤタさんが突然そう言った。

すると、『ビジョン』たちがざわめく。


「なっ?!」

「ステージの一番前、かぶり付きッス。

もちろん、檻の中ッスけど。

抵抗しないなら、終わるまでライブ観て良いッスよ?」


 『ビジョン』たちが生唾をのむ。

ムラマツさんが思わず呟く。


「き、効いてる?」

「みたいですね」

「えっと、指揮権があるから、

私ならその席を用意できるよ」


 ゼータが補足するすと、

『ビジョン』たちはお互いの顔を見合わせる。


「ど、どうする?」

「ど、どうって……。

め、め、め、命令は?」


 効いてる。

俺はそれに乗っかる。


「憑依を解除する方法を教えてくれて、

今君たちが憑依している身体を返してくれるなら、

ライブの後にサインしてもらえるよう取り計らうけど」


 『ビジョン』たちは、一斉に俺を見た。

彼らは十人。

身体は老若男女バラバラなのに、

皆同じ声、同じリアクションをする。

 しかし、この中にセキグチさんはいない。

だが、『ビジョン』の捕虜が捕まれば、

かなり優位になれる。

ムラマツさんがさらに追い討ちをかける。


「ゼータ、慰問にマサヤ呼べる?」

「『次元の守護者』の本部の収容所なら、

多分行けるね。

むしろ、良い影響しかなさそうだから、

要請されるかも」


 『ビジョン』の一人がとうとう手を上げる。


「投降します!」

「馬鹿!

てめぇ、リーダーに見つかったら……」

「うるせぇ!

もう、うんざりだ!

俺だってこの世界の人間みたいに、

自由になりたい!」

「う、裏切り者が!」


 すると、もう一人手を上げた。


「投降します!」

「お前まで!?」

「さ、サインは着てるTシャツにしてもらえますか?」

「お前!?」


 追加でもう一人手を上げた。

あと七人。


「慰問のペースは?」

「おい!」

「ライブ、このライブを聞きたい!」

「くっ?!」


 あっという間に、あと一人。


「……あ、握手もつけてくれたら、

投降します」


 最後の一人も、陥落した。

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