第88話 和気あい愛
俺はハヤタさんに頼む。
「ハヤタさん。
防衛軍に敵影補足、
オフェンス陣出動、と無線で伝えてください」
「無線、無線……。
あれ、ずっとついたまま?
なんか、オオゾノさんが今の聞こえた、って言ってるッス」
ディメンション・エックスに無線はあるが、
マイクはヘルメットにしかついてなかったと記憶している。
「あ、今オオゾノさんから、
マイクは外付けに常時オンにしてるって、
伝言ッス」
「それは、ありがたいな」
「後、DX-八号はもう少しかかるって。
三班が乗り込み次第、
発進して保口岳に急行するそうッス」
クロダたちは尾道にいるはずだ。
今すぐ合流はさすがに難しかったか。
でも、手配してくれてるなら、
遅くても必ずくるのが三班。
安心感がある。
ハヤタさんが無線を仲介して補足した。
「なんか、
異世界人のドローン兵器がどんどん保口岳に集まってる、って。
オオゾノさんが、そう言ってるッスよ?」
「うむ!
恐らく、慌てて防御を固めようとしているのだ」
アルファ総司令官が俺たちのところに降りてきてそう言った。
「報告を受けて知っていた我々すら驚くほどの『歌』だ。
『ビジョン』らは、パニックに陥っているだろう。
それで、慌ててドローンを呼び戻して防壁にしているはずだ」
なるほど。
自動操縦のドローンなら、
感情のない無機物だからマサヤの歌の影響を受けない。
だから、防壁にしているのか。
俺は隠密潜行で敵戦艦に乗り込もうとしていたが、
その混乱をもっとあおることにした。
「ハヤタさんは弾丸を温存。
少し離れてついてきて下さい。
ムラマツさんは、俺と一緒に。
敵は蹴散らして、
真っ正面から派手に突破しましょう」
「了解。
こういう時は、
ガンバマン・マークとかの飛び道具がほしくなるな」
ガンバマンこと、ムラマツさんの武器は二つだけ。
近距離用とフィニッシュブロー用なので、
こういう群れを相手にするのは向いていない。
「俺もゼータランスなんで、
一メートルくらいしか射程の差はないですよ?」
「一メートルくらいなら、
『プラスマッシュ』で届く距離かな」
俺たちはそう言って笑った。
「ずーるーいー!
私も混ぜるッス!」
ハヤタさんはそう言ってムラマツさんを小突く。
「飛び道具は私に任せるッス!
背中を預けて欲しいッス!」
ハヤタさんはそう言って、
ムラマツさんの背中に飛び乗る。
「うわぁ!
また、おんぶ?」
「飛び降りるのは無理なんで、
乗せるッス、先輩」
端から見ればアツアツな雰囲気なんだが。
二人の距離は微妙で奇妙だ。
俺は思わず首をかしげた。
「父親の事件の影響が大きくて、
ムラマツさんの自己評価が低すぎるのと。
ムラマツさんが最後の一歩、
心の距離を縮めるのをためらう癖がついてるから。
それをわかってて、
ハヤタさんがグイグイ行くんだよ。
それでも一歩が詰めきれてないみたいだけど」
いつの間にか背後にいたミアさんが、
俺にそう耳打ちした。
ミアさん、この二人の何を知ってるの?
俺は彼女の観察眼に、静かに戦慄した。
横目でウチムラを見ると、
彼は俺に向けて静かに頷いた。
気を取り直して、
俺は近くの二人に向き直る。
「えっと……、行きますか。
ムラマツさん、ハヤタさん、
準備は良いですか?」
「おう!」
「任せるッス!」
俺たちは頷いて、
ステージから飛び降りた。
「あ、三人が降りたよ!
マサヤ!
次の曲はアレだ!」
「そうだな!
ムラマツさんが行くならやっぱり、
『ガンバマンの歌』だ!」
マサヤの歌が変わった。
日本の男性なら一度は聞いたことがある、
あのイントロがギターバージョンで流れ出す。
あの音楽は、
ガンバマンのオープニング兼テーマソングの『ガンバマンの歌』だ。
「『ビルの影に潜む
ヤツらは僕らを見つめてる
出来るはずない、無理だ、ダメだ
ヤツらはそう言って笑う
決めつけるな!
負けてたまるか!
そうさ!
僕らは、ガンバるんだ!
出来るまで、やれるまで、やってみせてやる!
失敗なんて、怖くない!
やらないことが怖いんだ!
ガンバマン!
行こう、皆を助けに行こう!
ガンバマン!
ヤツらに負けるな、一緒にガンバろう!
ガンバマン!
ガンバマン!
ガンバる僕らの味方さ、ガンバマン!』」
聞こえるはずのない歓声が聞こえる。
ガンバマンを応援する、皆の声が聞こえる。
「はははは!
力がみなぎってくる!
俺は借り物のガンバマン。
でも、今は本当にガンバマンになってやる!」
俺の隣を走るムラマツさんがそう叫ぶ。
「なに言ってるんッスか!
先輩は昔から、ガンバマンッスよ!
私にとっては、
先輩こそがヒーローッス!」
ハヤタさんがそう言って後をついてくる。
そこに、ドローンたちが木々の隙間を縫うように降りてきた。
俺は二人に向かって叫ぶ。
「敵が来ます!」
「負けてたまるか!
皆ガンバって生きてんだ!
お前らがなんだろうが、俺はガンバマン!
ガンバる皆の味方だ!」
俺とムラマツさんは、
襲ってくるドローンを殴って落としていく。
ハヤタさんの援護射撃も的確で、
無駄なく進路上のドローンを撃ち落としていく。
ドローンは飛び道具は持たず、
そのボディについている槍の穂先のようなものと。
刃がついたむき出しのプロペラで体当たりしてきた。
機体の大きさはバスケットボールくらいだが、
受けたのが生身なら上半身がミンチになってもおかしくない速さで飛んでくる。
「残念だったな!
木が邪魔して、十分な飛行速度が出てない!
このまま突っ切れる!」
俺はそう言って木で身を隠しながらドローンを落としていく。
「スギとヒノキはドンドン切てくれていいッス!」
「ハヤタ、お前、花粉症だったな」
二人も難なくついてきている。
戦艦が見えてきた。
アルファ総司令官の言う通りパニック状態なのか、
近づいているのに戦艦から反応がない。
「歌の効果がある内に、乗り込みますよ!
ハヤタさん、
またムラマツさんにおんぶしてもらって!」
「はいッス!」
「おっふ!
乗った!」
俺たちは敵戦艦に向かって跳び上がった。




