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21話 いわゆるよくある展開

「はぁ……」


お、シャーベットがため息をついている。


2-1の前を通りかかると、偶然シャーベットが目に入った。


割とシャーベットが露骨にそのような感じを出すのは珍しい。笑顔か怒り顔が多く、やや憂鬱げな感じに不安を感じたのか、周りの数少ない友人が心配しているようだ。



しかし、声をかけるが、すぐに笑顔になってごまかす。


どうしたんだ? 空腹の感じともまた違う。


「何か気になるなー」


というわけで、放課後にシャーベットに突撃大作戦を行った。


「シャーベット」


「ああ、桐林くん……」


やはりおかしい。シャーベットに反論してこない。


プルルルル!


「はぁ……」


そのときシャーベットのスマホのバイブが震え、彼女は画面を見てまたため息をつく。


「はい、お父さん。私です」


どうやら電話の相手は父親らしい。そういえばシャーベットの家族関係は聞いたことが無い。ハーフなのは知っていても、父親と母親のどっちが日本人でどっちが外国人かすら知らん。割と話してる割にはシャーベットは全然自分の家のことは話そうとしない。梓ですら家族関係は俺に話しているというのに。


「それは断ったはずです。何度も言ってるように私にその気はないですし……、え、日本にいらっしゃる?

話が急じゃないですか!」


会話を何気なく聞いているが、どうも父親相手に敬語というのに違和感がある。育ちがいいならそういうこともあるだろうが、そう言う感じでもない。妙によそよそしい。


「分かりました。お父さんにはお世話になっていますから、今回は受けます。ですが、こういう話は必ず事前に相談してください。私の気持ちが大丈夫でも、私にも都合と準備というものがあるんです」


ピッ。


スマホの会話が終わり、また露骨にため息をつく。


「シャーベット、何か大変そうだな」


「シャーベットじゃないわ……。はぁ……」


「俺でよければ話くらい聞くぞ」


「桐林くんには関係ない話よ。家のことだから口を挟まないで」


比較的おだやかになってきたシャーベットから最近はあまり聞かなかった拒絶の言葉。初めて会ったときのような言葉だ。これは本当に踏み込んではいけない話題かもしれない。


「確かに関係ない。だけどな、シャーベットの家族のことは関係ないが、シャーベットのことは関係がある」


「どういうこと?」


「単純にシャーベットが落ち込んでるのが気になるだけだ。俺は別に何の助言もできんし、助けてやれるわけでもないが、もしただ話をするだけでも楽になるなら聞きたいと思うだけだよ」


「……まったく、おせっかいよ」


「誰かに俺がいいふらすとでも思うなら、聞かないが?」


「そこまで思ってないわ……。分かった、話すだけ話すわ」


そして、シャーベットは俺に語る。彼女の家の事情を。



「私はお母さんがイギリス人でお父さんが日本人。お父さんが世界を飛び回る仕事をしてて、そのときにお母さんと会ったの」


「へー、じゃあシャーベットはイギリス生まれか」


「いいえ、私はイギリスに行ったことはないわよ。生まれも育ちも日本人よ」


「まじか。何でだ?」


「お母さんが日本のことが大好きで、お父さんと結婚したときにはもう日本に本格的に住み始めてたからね。だから、私はハーフって言われてもほとんど自分のことは日本人だと思ってるわ」


シャーベットはそう言って胸を張る。


シャーベットは日本語はめちゃくちゃ上手だし、箸の扱いも正直俺よりうまい。


「だけど見た目はお母さんの遺伝がかなり強くて、金髪で碧眼が遺伝しちゃったのよね」


「確かに目立つよな」


シャーベットはハーフでも驚くほど見た目は外人なのである。


おそらく知らない人は、シャーベットが日本語を話せるとは思わないだろう。それだけに、屋外でこいつをナンパできる男は、きっと自分の英語力に相当な自信があるに違いない。英語力もあって、勇気もある。努力家じゃないか。


「それでなんか問題があって、親ともめたのか?」


「いいえ。そんなことは気にしなかったし。私も気にしなかったわ。むしろ日本語が喋れるってことで、友人もいたしね」


「なるほどな」


これだけ外人ぽい見た目のシャーベットが日本語ペラペラだったら、話したくもなるわな。


「……桐林くんはお父さんとお母さんとの関係はどう?」


そして唐突にこちらに話を振ってきた。


「関係? まぁ普通にいいんじゃないか?」


「尊敬はしてる?」


「もちろんだな。明るくて顔の広い母さんとグルメで落ち着きのある父さんはどっちも尊敬できる。仲もいいしな」


結婚して割と立つくせに、一緒に出掛けたり、会話もよく盛り上がっていて喧嘩もしないし、世の夫婦の仲ではかなりうまくいっている部類だと思う。


「私はね、お父さんのことをすごく尊敬してたの。お父さんは純粋な日本人だけど、世界中どこでも行って、周りが外国人だらけのところでも、堂々と仕事をしててかっこいいと思ってた。私が見た目で浮いてても、気にせず頑張れたのはお父さんのおかげだったと思ってる。


父親を尊敬するセリフなのだが、尊敬が過去形なのと、やや顔が浮かないのが気になる。


「お父さんみたいにはなれないとしても、私は少しでもお父さんに近づきたくて頑張ってた。でも私はね、正直優秀じゃなかったの」


「何言ってんだ? 今学年トップだろ」


「今はね。でも私が成績をある程度出せるようになったのは中学校2年生くらいよ。それまではせいぜい学年10位くらいだったわ」


「それでも十分すげーだろ」


今のチート級の成績と比べると確かに悪いが、それでも十分誇れる成績だ。


「お母さんは褒めてくれたけど、お父さんは特に何も褒めてくれなかったわ。だからもっともっと頑張った。お父さんに認められたくてね。そして、中学校3年生のときには、初めて全科目で1位を取ったわ」


「ついに……、ってことか。なら当然お父さんも褒めてくれるよな」


「ううん……、褒めてくれなかったわ」


「なんでだ? それだけできれば、褒めないわけがないだろう」


「私は嬉しくて、お母さんを介さないで、直接お父さんに成績を見せに行ったわ。それで、引導を渡されたわ」


「引導?」


「お父さんは私の成績を見て、軽く頷いてね、英語の成績だけが少し悪いことを咎めてきたの」


「英語? でも1位だっただんだろ?」


「平均点が低かったの。でもそんなの理由にならなかった。それでその場はおしまい」


「……」


俺は特に何も言えなくなった。


「そしてね、お父さんが電話してるのをこっそり聞いちゃったの。私が将来的にお父さんの仕事の幅を広げるために、世界中の御曹司との見合い話を持ってきてるって。それで、勉強なんかできなくても、英語だけ学んでくれればいいのにっていう愚痴まで含めてね」


「まじかよ……」


時代錯誤とは思うが、身分の高い家だとまだそういうのがあるのだろう。


「それで私はお父さんのことは尊敬しなくなったわ。でもお母さんが声をかけてくれたの」


「お母さんが?」


「お母さんはお父さんがそういう仕事人間で、家にいないことも多かったりすることも多いけど、まじめで頑張り屋なところを好いてたの。それで、私が頑張って勉強してたのもとてもうれしかったって。お父さんも自分のためもあるけど、もちろん私にふさわしい相手を選んではくれるって。それでも嫌なら、本当に頑張ってお父さんを認めさせてみなさいって言われたの。お母さんはおっとりして優しい人だったから、それだけ強い意見を言われたのは、初めてだったわ。そこから、私にとって、お父さんは尊敬の対象から、見返す相手になった。お父さんとの関係はあまりだから良好とは言えないわね」


「なるほどな。それで、お父さんが見合い話を持ってきたのがさっきの電話か」


「ええ、私は断ればいいんだけど、断り切れずに関係がその場で終わらないことも多くてね。お父さんの恋烏有関係はしっかりしてて、連れてくる相手はどうも悪いところがなくてね、私にちゃんとした相手がいればいいんだけど」


シャーベットは基本的にはいい子である。明確に断る理由がないものを嫌だとは言えないのだろう。


相手が父親の仕事の関係者となればなおさらである。


「はぁ~、なんとかしたいわね。毎回付き合うつもりもない男性に会いにいくのは面倒なの」


シャーベットが本気で悩んでいるようだ。悩みは聞いたが、解決できる方向性にはならなそうだ。


「そういうのってさ、誰かに彼氏の代わりをしてもらって、何とかごまかすのがよくある展開だよな」


「漫画とかドラマだとよくあるけど、実際には難しいわ」


「そうか? シャーベットならいくらでもできるだろ」


こいつが協力を仰げば、抽選になりそうだけど。


「誰でもいいわけじゃないのよ。ある程度お父さんに対して説得力があって、その場限りでちゃんと終わってくれる面倒じゃない人……」


「? なんで俺を見る? 俺の家は金持ちじゃないぞ」


「桐林くんのお父さんって、何をされてるの?」


「ああ、翻訳家だけど?」


俺が英語が得意なのは、少なからず父親の功績もある。


「翻訳家……ならもしかしたら」


「シャーベット?」


「…………、実は私のお父さんの仕事に翻訳家がかかわる仕事があるの。その関係が持てるなら、話を通せるかも…………、あ、でも駄目ね」


「ん?」


どうやら俺に彼氏の代わりを求めたいようなのだが、照準している。


「あなたは梓さんのことが好きなんでしょう。普通に会ったりするのは、ともかく、そこまでさせるのはtね…」


「は?」


シャーベットの口から、まさがの俺が梓好き宣言である。


いや、確かに梓のことは嫌いではないが、この会話の流れは、いわゆるラブのほうだろう。


「どっからそんな話が出てきた。まだ俺とあいつは友人関係未満だぞ」


「でもお似合いだと思うけど? 男の子と話してるのはあなたしかみないし、最近は梓さんからあなたの悪口も聞かないもの。いつもあの子にかまってるんでしょ」


「いや、そういうことなら、俺にとっては、シャーベットと梓に差はない。あくまで面倒ごとを解決dけいそうならいくらでも協力はするさ」


「……ふーん、もしかしたら。お願いするかも……、あとシャーベットじゃないわ!」


そして襲い突っ込みをして、会話が終わった。


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