20話 デートする話
現在の時刻は14時。俺は町にいる。
それは梓とデートをする羽目になったからである。
理由は少し前にさかのぼる。
「おい、あんた」
「なんだ柏木」
教室で俺は珍しく梓に話しかけられた。
ちなみに、俺への呼び方についてだが、基本的には2人のときだけということになった。
教室で俺を樹と呼ばせようとしたら、壊れた機械みたいにバグりかけたのと、絶対に冷やかされることに2つが原因である。
「あんた明日用事ある?」
「用事? 俺は基本的には用事はない」
「明日さ……一緒に出掛けてくれない?」
「!?」
俺はつい梓を2度見した。聞き違いとしか思えなかったからだ。
「なんで、お前が俺をデートに……」
「違う! 実はこの前のアルバイトの……」
「あの件か? あの件はあの日に話がついただろ?」
「実はあのアルバイトのお金はお母さんに誕生日プレゼントを買うためだったんだ」
「へー、親孝行じゃん」
そこまで意外でもない。梓が両親を嫌っていないのはなんとなくわかるし。
「それで、どうやってお金を準備したのって話になって、アルバイトの話になって……、それで、あんたに助けてもらった話をお母さんに言わされて……」
梓のお母さんはずいぶんと言葉が上手なようだな。それともお母さんには頭が上がらないのか。
「それで……。私が男の子と仲良くしてたってすごく喜んで……、で、お礼もかねて一緒に出掛けてきなさいってさ……」
「なるほどな。お礼なら受け取っておきたいが、柏木はいいのか?」
柏木は俺とは出かけたくないだろうと思ったからだ。
「…………お母さんが映画のチケットくれたし、お母さんの笑顔が忘れられないから……、きっと私が男と一緒に出掛けたっていえば喜ぶから……、だからいい」
「まじか、じゃあいいぞ」
「な、なんで、あんたはそんなにうれしそうなんだよ! 迷惑じゃないのか?」
「迷惑? なんでだ? 柏木と一緒に出掛けられて嫌なわけないだろ」
梓は攻撃的だが、攻撃力そのものは低いし、話しててもつまらなくない。そもそも見た目可愛いし。
「ば、ばーか。何浮かれてんの。あくまでもお母さんのためだから!」
というようなことがあったので、町にデートに繰り出しているわけだ。
「あーもう! あんたらどっかいけ!」
そして騒がしく聞こえてくるいつもの声。
「はいはい、今日この子は俺の連れなんで。すいません」
とまぁまたナンパ師を撃退するところまでが俺の仕事。梓はナンパされる率が高いんだよな。1人でいるから。
「大丈夫か?」
「まったく、なんでやたら私にみんなかまってくるんだろうな。ほかにも女子はたくさんいるのに」
「それは梓がほかの女子より興味を持たれてるってことだろ」
「ふん、普通に迷惑だし」
「恰好がおしゃれなんだよ。というか、今日はまた一段と……」
ツインテールを結ぶ髪留めがいつものゴムではなく花柄のシュシュだし、いつもはしてないピンで髪と整えてるし、服装はまたえらく可愛らしいのに、ちょっと大人っぽさもあるチョイス。
「なんだよ……」
「いや、普通にいつもの5倍くらい可愛いんだけど」
そういう感想が自然に漏れた。
「はぁ! 何言ってんだ! 別にあんたのために着てきた服じゃないし……」
「え? 今日って一応デートなのに、俺じゃない人のために着てきたの? 誰だそいつは?」
「そんなやついるわけないだろ! デリカシーってもんがないのか! 分かってるくせに……」
「悪かった悪かった」
とはいってもいつものノリもなんとなく悪くない。
「ったく……」
「でもさ、普通にすげぇうれしい。梓がかわいい服を着て、一緒に出掛けてくれるってが本当にさ。ついついテンションもバリバリアップだ」
「樹がバリバリテンションを上げてると、私のテンションが反比例するんだが」
「まぁそこら辺はさ、梓もあげとけよ。せっかく梓の母さんの好意なわけだし、楽しんだほうが得じゃん」
「……うん」
ちょっとしおらしい態度。ちょくちょく見せるこのしぐさは本当にかわいい。
「じゃあ映画に行くか。実は昨日の段階でいいものを見つけてある」
「いいもの?」
梓の母さんがくれたチケットは特定のい映画のチケットではなく、当日好きな映画のチケットと交換できるいわゆる招待券だったので、前日に調べておいた。
「動物のノンフィクション映画だ。しかも犬だぞ」
「おお! それはいいものを選んだな!」
そしてテンションの上がる梓。すげぇ笑顔なんですけど、きゅんと来た。
というか、さっきより余計周りの視線が痛いんですが。
まぁいい気分ですがね。やはり休みは女の子と出掛けるのが青春というものだ。
というか、単純に映画館が久々すぎて、自然に心が躍った。
「全米が泣いた、1人のどん底男と1匹の犬の物語!」
というナレーションというかうたい文句で始まった映画だが、実に見ごたえがあった。
主人公はさえないフリーター。
両親は死別し、友人も家族もいないたった1人で、風呂もトイレもないアパートで過ごし、その日暮らしだけをし続ける30歳の男性だ。
正直夢も希望もないのだが、死への漠然としない恐怖にかられて、自殺もできず、無気力な毎日を生きていた主人公は、1匹の小型犬と出会う。
怪我をしていたその犬は誰にも拾われずに、死んでいくはずだったが、自分と同じ孤独を感じた主人公に拾われる。
その犬を拾った日から、彼の人生は変わっていく。
彼の仕事は、いろんな会社から依頼されるチラシ配りを行うバイト。
最低時給はあるものの、基本的には歩合制。不愛想な彼は首寸前。
しかし犬を一緒に連れていくことで、犬好きな人に目をつけられ、一気にトップとなる。
そこからずっと犬とともに苦難を乗り越えていく物語だ。
犬との友情に、主人公の成長、笑いあり涙ありで、普通に俺も食い入るように見た。
最後は犬と主人公が離れ離れになっても、犬が戻ってきて終了。
2時間ほどの映画だったが、もっと早く感じた。
梓は感動で涙を流していたが、俺に見られたくないのか、顔を必死に抑えていた。
「なんかよかったな」
俺と梓は近くのフートコートで少し休むことにした。
「うん、80点くらいはあるな」
「ずいぶん高評価で」
「最後にアンディが死ななくて本当に良かった」
「それはわかるな」
アンディとは映画の犬の名前。正直死亡フラグがすごかったが、安易に死で感動を作らなかったところがすごいと思った。
「別に涙隠さなくてもよかっただろ。みんな泣いてたじゃん」
「いいんだ。樹が泣いてないのに、私が泣くとか恥ずかしいし」
「なんだよその意地は」
「ははは」
「はは」
梓が笑っている。本当に笑顔が魅力的な女の子だ。
そのまま映画の話が盛り上がり、なんと映画と同じ時間の間フードコートにいることになった。
「……しまった」
そして時刻は18時。ちょっと暗くなり始めた。
「今日は楽しかったか?」
「……うん、楽しかった……、こんな風に誰かと出掛けて過ごすなんて……本当に久しぶりだったから……」
梓の笑顔は純粋に嬉しそうだった。
出かけたのが楽しかったという気持ちである。いつも俺に対して見せる警戒心や敵対心が感じられないのだ。
それがとても俺にはうれしかった。きっとそういう発言をしたら、また訂正されるだろう。
そういういつものノリでしゃべるのも楽しいかもしれないが、俺は今きっと本当の彼女を見ている。
そのことがうれしくて、俺も自然に笑顔になってしまうのであった。




